札幌で味噌ラーメン
午後からの会議に備えてホテルで準備作業。早めのランチを済ませてから、会場に向かおうと目論んだ。
さて、何を食べようか。
ホテルの近くの店をネットで探す。この辺りにあるのは、うどん屋とラーメン店。サツエキ(札幌駅)地下の店はあらかた食べた。あそこに私好みの麺料理の店は存在しない。
なんとなく、久しぶりに札幌味噌ラーメンが食べたくなった。いつも千歳空港で食べるばかりで、札幌市内で食べることは少ない気がした。それも正統派のやつが食べたい。この辺りにはいくつかの店があるようなので、ブラブラと歩きながら店を見つければいいかと、軽い気持ちでホテルを出た。
最初に目に入ったのはラーメン店。店名は横文字。本日の創作麺…正統派では無いのか。ニンニク味噌に海老味噌。一幻のパクリ、いや、リスペクトだろうか。それに辛味噌ねえ…
え?
痺れ追加できます、だと?
それは花山椒のことではないのか?私の大好きな香辛料ではないか。しかも痺れ味噌ラーメン、確か四年前に、仙台空港から市内に向かう途中で偶然見つけた店で食べて以来である。
これは食べなきゃ、ダメだ!
正統派味噌ラーメンを食べるつもりでいたにもかかわらず、痺れ追加の文字に惹きつけられてしまった。こいつは創作ラーメンである。私は札幌味噌ラーメンを食べに来たのだ、なのに痺れ追加に囚われの身となってどうするのだ。
ラーメンtunatori
もう手遅れである。気がつけば店に入り、私は券売機の前に立っていた。まさに重力に捕らえられたモビルスーツのごとく、ボタンを押す。
辛さ中、痺れ大、小口ネギトッピング
店内はコの字型のカウンターのみ。右奥の席に案内されると、席に座った私はカウンターからコップを取り、冷たい水を注ぐ。よく冷えた液体が喉を潤す。
さあ、やってこい、痺れ味噌ラーメン。店内に客は多くない。すぐに食べられるだろう。カウンター内ではスタッフがいくつもの丼に炙ったチャーシューをトッピングしている。ミルで何かを挽いている。
痺れか?
マー(麻)か?
どんぶりに湯切りした麺がそっと入れられた。箸で仕上げにかかっているようだ。白髪ねぎをのせている。レンゲを添えて完成か?客がどんどん入ってくる。いや、辛味噌を投入した。間違いない、これは私の…
あれ?
どんぶりはすべて向かいのカウンターに運ばれていった。
残念。
気がつけばほぼ満席だ。先ほどまでゆとりのあった私の周りもすべて客で埋め尽くされた。もう少し早めにくるべきであったか。11時半に食べるつもりが、すでに11時52分。まだラーメンは出てこない。スケジュールの遅れはベッドで横になるまで取り戻せないものだ。睡眠時間が唯一のバッファーであると言っても過言ではない。
早く来い来い辛味噌ラーメン(痺れ)。食券を買ってから10分を過ぎても出てこないラーメン。私の前にそれほど客はいなかった。それほど調理に時間のかかるものではないと思われるが、何がネックとなっているのか。チャーシュー丼の食べ方なぞを読みながら時間を過ごす。
食券の提出から12分を過ぎて、ようやく私の前にどんぶりが運ばれてきた。小口ねぎの上に白髪ねぎ、チャーシューの上には辛味噌としびれ粉だ。
「しびれが足らないときはこれをお使いください。」
追加用の花椒粉が入った小さな容器を手渡される。
辛味噌ラーメン(痺れ)
まずはスープから。ふむ、出汁の効いた優しい味噌味の中に潜む辛みという刺激。胃の中にしみわたるスープの中に、食道までも刺激しながら胃に落ちていくのが分かる。中でよかった。だが、しびれは足りぬ。いや、まずはマイルドにいこうではないか。
続いては麺だ。透明感のある縮れた四角い中太麺は、まさに西山製麺所を思わせる札幌ラーメンの特長だ。スープもよく絡む。たっぷりのねぎと一緒に食べると、シャクシャクとした食感とネギの香りが相まって、豊かな味わいになるというものだ。スープの中にはもやしと刻みチャーシューが潜んでいる。スープは優しいのにガツンとくる辛味噌。
ここでしびれを追加。うん、いいねえ、これだよ、これ。もはや札幌味噌ラーメンでもなんでもない。麻辣なのである。大好きなのである。刺激満載でもニンニクのように臭くはならない。
汗が吹き出てくる。
チャーシューは焦げた匂いが芳しく、しっかりとした食感なのに、脂身の多い部分はとろけるようなコラーゲンと相まってとても柔らかい。メンマは薄味で柔らかい。味も食感もラーメンを邪魔することなく、わき役に徹している。汗が止まらない。
店を出る頃には行列ができていた。汗だくの顔に爽やかな北の大地の風が当たる。心地よい。正統派味噌ラーメンは次の機会に食べよう。
数年前に五十路となったバツイチ男性。昨日は沖縄、今日は北海道、明日は四国…出張三昧の日々、三年間で制覇した店は千店舗を超えた。日本全国及び海外での食事を記録したブログである。五十路とは本来「五十歳」を意味するが、現代社会では「50代」と誤った認識が定着している。それにあやかりブログのタイトルを名付けた。(詳しく読む…)