かに甲羅詰め

北海道 札幌市 すすきの 再び鳥八の魚や

鳥八の魚や

講演が終わると、懇親会まで一時間ほど時間があった。会場の「グランド居酒屋富士」の食事はイマイチなので、先に何か美味いものを食べたい。お、三谷氏と目が合った。彼も飲みに行くと言う。

ならば鳥八でしょう。彼が店に電話して予約する。ここはいつも予約でいっぱいなのだが、七時までなら大丈夫だとのことだ。ならば行きましょう。一時間しかないから、シンコ焼きも今から焼いてもらわないと話に合わない。ならば頼みましょう。私はスーパーホテルに荷物を置いてから行くので、先にどうぞ。ホテルでタクシーを降りると、三人は店に向かった。

ホテルから鳥八までは歩いてすぐだ。五條ビル二階。元祖焼鳥の鳥八と炉端焼きの魚やがくっついた店なのだ。本日も美味いものが揃っている。

店に入ると三人がジョッキで乾杯をしているのが見えた。私も生ビールを頼んで彼らに追いつく。なんせ一時間しかないから、さっさと飲み食いしてしまおう。

お通しのマグロカツ。タルタルソースと相性抜群。いきなりこれか。さすが鳥八。

続いて生牡蠣。厚岸産だ。これはまるえもん…ではないな。かきえもんか。三谷氏はそのまま牡蠣を口に放り込んだ。私はレモンを絞りかけて食べる。

美味い。新鮮だ。香りがいい。

「ええ?汁飲まないの?」

牡蠣の殻に残った液体を見て三谷氏が叫んだ。だって酸っぱいじゃん。分かったよ、飲めばいいんだろ?

酸っぱい。

つぶやく私を三谷氏が笑う。

「レモン絞ってましたもんね。」

別の一人が言った。生牡蠣を素で食べる人いるんだね。北海道ならではだ。

きたきたシンコ焼き。先日、帯広の店でシンコ焼きの話をしたら、帯広市民には分からないという。いやいや、ススキノの店に「中札内シンコ焼き」と書いてあるのを見せた。ああ、中札内は鳥の名産地だ。帯広空港のある町だ。しかしシンコ焼きは…店のシェフが言った。

「シンコ焼きって上川の料理ではありませんか?」

上川とは旭川あたりの地方を指す。つまり、帯広の鳥を使って上川の料理をススキノで提供してるということだ。

「帯広はね、北海道の大阪みたいなところだから。」

三谷氏が言った。なるほど、言い得て妙だ。なら、函館は京都だろうか。

もちろん、美味い。妻にも食べさせたい。

さあ、きたきた。毛ガニの甲羅のせ。身がこぼれている。レモンを軽く絞って食べる。ああ、美味いよ。カニの甘みと香りが口の中に広がる。レモンの酸味は引き立て役だ。なくてはならぬ。これが普通だ。北海道では毛ガニは自然な食べ物なのだ。力んで供するものではないのだ。

「ああ、かけはしね。」

三谷氏が言った。そうなのだ。あの店は観光客が多い。毛ガニは二月までの限定だ。店主はしいたけと毛ガニを自慢の逸品と声高々にいうのだが、鬱陶しい。押し付けがましい。鳥八ならいつでも静かに食べられる。

「あそこ、高いんですよね。」

別の一人も言った。地元民が行く店ではないな。逆にこの店には観光客が一人もいない。見たこともない。

グラタンコロッケ。ソースをつけて食べるのがオススメだ。居酒屋レベルではない。洋食屋で出されてもおかしくないレベルだ。

イカシュウマイだったろうか。忘れた。生姜醤油で食べるのが鳥八流らしい。あっさりしていいな。肉と違って脂が少ないから、酢醤油よりもこの方が美味しく食べられるのだろう。

つくね磯辺焼き。半分だけ串から外して食べる。塩で味が付いている。肉の味がギュッと詰まって、噛むごとに口の中に味わいが広がる。ノリの風味も相まって酒が進んでしまう。

あれ?もう六時だけど、あと一杯飲む?それとも、もうお勘定する?

「七時までは大丈夫って店の人が言ってた。」

三谷氏が答える。実は私も同じことを考えていた。話が盛り上がって、酒が進んで、食い物が美味い。ここで終われるか。ならば、言おう。

「ハイボール3つと緑茶ハイ!」

そのまま何杯か飲んで七時前。お勘定だ。レジでクマと水槽の魚たちが我々を見送ってくれた。

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