苫小牧漁港
夜中に不快感を覚えて目が覚めた。吐きたいわけではないが、胃から何かが込み上げてきそうだ。ああ、そうだ。昨晩は室蘭やきとりをたらふく食べて、ホテルに戻ると歯も磨かずに寝ていたようだ。胃がタプタプ言ってる。胃薬を飲んで再び寝る。朝には不快感も無くなっていた。
考えてみれば、昨晩は0次回から懇親会、二次会、室蘭やきとり、締めて四軒、六時間ほど呑んでいたのだ。こんなのがもう四日間も続いているのだ。少し胃腸を休めようと、朝食は食べなかった。ルートインの朝食は可もなく不可もないことが多いので、別に食べなくても心残りはない。
さて、今日は千歳までの移動日だ。せっかくなので、登別温泉街、いわゆる地獄谷に行こうかとも思ったのだが、天気は薄日のさす曇り。雨が降ることはないだろうが、綺麗な青空も拝めない。こんな日は景色よりも食い気に走った方が良さそうだ。
とりあえず、白老で白老牛を食べようか。北海道が誇るブランド牛だ。こいつをハンバーグで食べる手はない。焼肉かステーキか、それが問題だ。ところが、何故だろう。今日は牛肉を食べる気がしない。いつもなら嬉々として向かうはずであろう白老牛が食べれる店に、何故だか行く気がしないのだ。
まあいい、とにかく苫小牧に向かって走ればなんとかなるだろうと、ホテルから車を出した。
街を抜け、国道に入ると海沿いを走る。虎杖浜(こじょうはま)、ああここか。昨晩、名寄市民らが何故かこの辺りのホテルを予約したと話していたが、何もないところだ。対向車線に「大漁番屋 虎杖浜」という看板を見つけ、Uターンして寄ってみた。何も買わずに、となりにセイコマで水を買って店を後にした。海岸沿いに土産店屋が並ぶ。きっと以前は観光地として繁盛した土地なのだろう。調べてみると、このあたりはタラコの産地として有名で、国内産の品質の高いタラコが手に入るとのことだ。たしかに番屋でもタラコが瓶に詰め放題で売っていたが、沖縄に帰るのは翌日のため、買うのはあきらめたのだった。
そうこうしているうちに白老町を抜けてしまった。先にあるのは苫小牧。そうだ、漁港だ。以前、マルトマ食堂に行って並んだのだが、自分たちの番で終わりとされてしまい、食べられなかった店がある。
よし、リベンジだ。
しかし、現実は厳しい。今日は日曜日だ。ネットで調べると休みだとのことだ。だが、漁港に行けば店がある。とにかく、行くべし。そうか、今日の私は肉の日ではないのだ。そう、魚の日だったのだ。それで牛肉に少しも魅力を感じなかったのかと納得したのだった。
みなと食堂
漁港にはいくつかの飲食店と市場がある。食堂街を歩く。ここはネットではなく、自分の目と勘で店を選ぶのだ。BGMには北寄貝の歌らしき曲が流れている。苫小牧といえば北寄貝なのだ。全国一の水揚げ量を誇る。
「ぷらっと食堂」
前回はここで食べたな。中国人観光客たちが食事をしている。こんなところまで知ってるなんて、なかなか情報通なのだな。
カレーは…いいや。
「みなと食堂」
ひとつの看板に目が留まった。しあわせ刺身メニューが。
いや、おまかせ丼が気になるが、他の店も気になるな。
となりは牡蠣小屋か。
ぐるっと食堂街を一周して出た結論は「みなと食堂」であった。店に向かう。最初にのぞいた時はカウンターに二、三名しか座っていなかったのに、モタモタしてたらものの五分で満席になった。店外で待つ。
さて、なにをたべようか。
考える時間は十分にある。定食か丼か、それが問題だ。おまかせ丼に惹かれてこの店にしたのだから、丼なのだ。考えるまでもなかったか。ふむ。それに北寄フライも追加だ。
席が空くのを待つ間に見かけた中国人の若いカップル。となりの牡蠣小屋の前でポーズをとる、なかなかケバイ、じゃなくてセクシーな女性の写真を彼氏が撮っている。なんたるミスマッチ。センス大丈夫か?すれ違った若い女性から強烈な匂いが。化粧が濃いのか、体臭をかくしてるのかわからんが、それじゃ和食が台無しだと、余計なお世話だな。
店内からカウンターに座っていた三人が出てきた。私もカウンターに通される。メニューに目を通すが、私の気持ちに変わりはない。検討に要した時間は無駄にしない。おまかせ丼に北寄フライだ。ビールは…車だよ。
だんだん混んできたな。あ、私のランチが運ばれてきた。
実食だ。まずはカンパチ。脂のノリが程よく甘い。
サーモンは臭みなく、脂が程よくなって美味い。
ホタテはねっとり甘い。
甘エビもプリプリ甘い。
サバは締めすぎ。マグロの赤身は水っぽくて残念。
タイとヒラメは臭みなく、ほんのりと甘い。白身は泥臭いことが多くて好きではないが、これだけな厚みでも美味い。北寄貝は磯の香りというか、独特の北寄の香りが鼻を抜ける。旨味もある。酢飯がまた秀逸。寿司よりもかなりあっさり。ほの温かい。酢飯という感じがしない。
北寄フライは悪くないが、北寄貝をカットしたものを揚げてるので、ほぼ衣を食べてる感じがしないでもない。風味はするし、食感もあるのだが、駄菓子の魚肉カツみたいな感じとでも言おうか。マヨネーズとソースと醤油を試すが、私はソースが一番美味いと思う。北寄貝を丸々一枚揚げたほうが美味いのだろうが、かなり高価になってしまう。
ならばスーパーで貝を買って、自宅で揚げろと言うことか。ふむ、受けて立とうではないか、またいつか。
しかし、北寄貝美味い。北海道で生のものを食べなければ、北寄貝はおいしくないと思ったまま人生を終えていただろう。いつか、必ず家族を連れてきてみせると、心新たに誓うのだった。
数年前に五十路となったバツイチ男性。昨日は沖縄、今日は北海道、明日は四国…出張三昧の日々、三年間で制覇した店は千店舗を超えた。日本全国及び海外での食事を記録したブログである。五十路とは本来「五十歳」を意味するが、現代社会では「50代」と誤った認識が定着している。それにあやかりブログのタイトルを名付けた。(詳しく読む…)