室蘭焼き鳥 一平
幌別での会議の後、懇親会に続き二次会を終えたのが午後9時半だ。ホテル平安の部屋にはウオッシュレットがない。それだけの理由で他のホテルに宿泊する者が多数いた。私もその一人だ。東室蘭に宿泊する美唄市民数名とタクシーでホテルに向かった。もう3軒も飲んでヘロヘロだから帰って寝たかった。タクシーが東室蘭に近づいたとき、一人の美唄市民が運転手に尋ねた。
「運転手さん、室蘭に来たら、これを食べたほうがいいよーってものある?」
マジか?まだ食べるのか?
「室蘭焼き鳥ですね。」
室蘭発祥の焼き鳥だ。北海道では美唄焼き鳥も有名だが、いずれも発祥は廃品利用だ。美唄では卵を産まなくなった廃鶏を肉もモツも同じ串に刺して、一度に様々な部位を食べる。親鳥の肉は固いが味は濃い。室蘭やきとりの特長は豚のモツを使うことだ。焼き鳥と言う名称だが、鳥ではない。豚の内臓だ。これは明治時代に、富国強兵で軍事品の増産が北海道で行われ、豚の皮は靴などの皮製品に、肉は缶詰にされた。残った内臓の利用法が焼き鳥なのだ。タレで焼いた串に洋からしをつけて食べる豚モツ串である。
10年以上前に妻と北海道にきたとき、札幌で食べた記憶がある。味についてはさほど記憶がない。旅行で食べたスープカレーや蕎麦はとても覚えているので、大したことなかったのだろう。なので、室蘭に来ても焼き鳥を食べたいとは思わなかった。
美唄市民が続ける。
「おいしい店とかある?」
「一平ですかね。」
運転手が答える。早速ネットで検索すると「やきとり 一平」は確かにあった。運転手の室蘭焼き鳥の説明を聴いているうちに、私もなんだか興味が湧いてきた。店に電話する。席はあるが、ラストオーダーは10時15分だという。現在、9時52分。ぜんぜんOKだ。目的地を変更して店に向かう。おお、ここか。
メニュー
店内に入ると、ラストオーダー前だというのに数名が並んでいた。予約していた我々はすんなりと奥の部屋に通された。かなり広い店だ。さて、何を食べようか。まずは串だ。室蘭だから豚だ。鳥は無しだ。タレと塩を食べ比べるのだ!
室蘭焼き鳥にはしゃぐ我々に、店のお兄さんが冷静に言った。
「タンは絶対に塩です。」
なるほど。じゃあ、レバは?
「間違いなくタレです。これは譲れません。」
なるほど。美唄市民がオーダーする。
「じゃあ、肉とシロはタレと塩の両方で、タンは塩で、あとはタレで持ってきて!それに殻付きウズラの炭火焼き。これ有名だよね。え?売切れ?しかたない。」
私がチーズカリカリ揚げをオーダーすると美唄市民が異議を唱えたが、店のお兄さんが「これも美味しくておすすめなんです。」と言うと黙った。承認だ。アスパラサラダか…美唄市民が言う。
「アスパラサラダ、食べればいいじゃん。それとユッケね!」
会議の中で名寄市民が話していたアスパラの話が頭に残っていたのだ。彼によると、刈りとったばかりの太いアスパラは、切り口から水が激しく滴り落ちるほどみずみずしい。皮を軽く剥いて生のまま食べると、ものすごく甘いのだと。
食べてみたい。
チーズカリカリ揚げ
だが、この店のアスパラは間違いなく缶詰だ。それも北海道産ですらないだろう。まあいいや、サラダは食べたい。もろきゅうとチーズカリカリ揚げがきた。
うん、なかなかうまい。酒が進むね。
室蘭焼き鳥
きたきた、室蘭焼き鳥!あれ?なんだか注文より多い気がするが、まあいっか。玉ねぎで挟んで串にさすのが特長なのだ。タレもうまい。
塩もうまい。内臓は臭みがまったくない。塩加減もちょうどだね。こりゃ流行るわけだ。ハシで串から外すことなど面倒なことはしない。そのまま食べるのだ。あ?レバーがない。食べ損ねたか。
サラダと馬刺し
アスパラサラダが意外に美味い。野菜もみずみずしくて、ドレッシングも美味いね。
馬肉ユッケも美味い。一人が生卵を食べられないと言うので、黄身を別皿にしてもらった。
スープカレーつくね
そうだ。忘れていた。スープカレーつくねも頼んだのだった。もちろん、ノーマルとチーズ入りの二つだ。美唄市民がここでもチーズに文句をつける。うるさい。
早速、まずはノーマルから食べてみる。ん、なんだこれ?つくねと言えば、甘辛いタレが定番だ。塩で焼くのもある。それに黄身を加えたり、軟骨を肉に混ぜて食感にアクセントをつけたりと言うのはある。だが、このスープカレーはなんだ?甘くない。カレーのほのかな辛さが、つくねにここまで合うというのか?!
次にチーズ入りだ。おうふ!プレーンでも美味いのに、チーズのコクで風味が増す。なんじゃ、こりゃあ?!美味い!どうだ、美唄市民、チーズ入りを頼んで正解だろう?!
「そ、そうだね。」
ふふふ、チーズは偉大なのだ。ハイボール持ってこい!
「閉店ですので。」
店のお兄さんに言われて外に出る。店内には客がいなくなっていた。さあ、帰ろ帰ろ。
室蘭焼き鳥 一平
数年前に五十路となったバツイチ男性。昨日は沖縄、今日は北海道、明日は四国…出張三昧の日々、三年間で制覇した店は千店舗を超えた。日本全国及び海外での食事を記録したブログである。五十路とは本来「五十歳」を意味するが、現代社会では「50代」と誤った認識が定着している。それにあやかりブログのタイトルを名付けた。(詳しく読む…)