カルビとニンニク

青森駅 焼肉 南大門 カルビと冷麺

新町商店街 焼肉 南大門

知人らと会食を済ませた私はホテルに戻るために新町商店街をさまよっていた。先ほどの店は美味かったのだが、やはり会話が目的の食事であったために、小腹が空いた。

というか、食べたりない。
食欲が満たされない。
泥酔に近い状態なので理性が働かない。

こういう状態できれいな女性に声をかけられるとぼったくり被害にあったりするが、五十路ともなれば色気に興味が失せる。食い気と眠気で十分だ。帰宅すれば妻がいるのだ。

そんな私の前に不意に現れたのは黄色い看板。南大門(ナンデムン)。市場で有名なソウルの地名であり、日本全国で見かける焼肉店の名称である。八百屋や月極駐車場に匹敵するのではないだろうか。

中国人の前妻は来日して数年間、八百屋を全国チェーン店だと思っていたらしい。

店頭には大きな文字で「16種類のカルビ」を猛アピールしている。黙って通り過ぎるわけにはいかない。しかも焼肉だ。糖質ではない。締めのラーメンや沖縄そばは体に悪いが、ステーキ等のタンパク質なら問題ないはずだ。

ふらふらと店に近づくとドアを開けた。

店内はお座敷席とテーブル席。おひとりさまの私はテーブル席に案内された。

メニュー

さて、何を食べようか。カルビは言わずもがなである。注文しなければ何のために来店したのか、目的を見失うことになる。いくら泥酔手前の私でも、まだひとすくいの砂粒ほどの理性は残っていよう。

肉はカルビ、ロース、ハラミしかない。まあ、そうか、希少部位など騒がれ始めたのは最近だ。カルビは19種類とメニューにあるが、豚肉も含まれている。ならば鶏肉ことダッカルビがあっても良かろうもん。

本日のおすすめは極上カルビとハラミ。こいつらをいただこうではないか。

魅惑の炭水化物も充実している。焼肉屋で冷麺を食べないわけにいかないだろう。青森で食べる盛岡冷麺とは、これいかに。ハーフサイズを選べるとは粋な計らいである。

ドリンクとトッピング

先ほどまでは角ハイボール飲んでいたが、なんとなく生レモンサワーだ。いつも「ママレモンサワー」に聞こえてしまうのは昭和世代だからなのだろう。

ママレモン。

かつては食器用洗剤の代名詞であったが、今ではジョイだのキュキュットなどの平成ブランドに押され気味な気がする。店頭で見かけることもほとんどないように思う。

肉を食べるなら生野菜は必須である。泥酔しても栄養バランスを考えるのは、肉と野菜はペアであるという法則が脊髄反射として私に組み込まれているからである。

しつけの厳しかった母の努力のたまものであろう。

何らかの事情で一定期間、生野菜が食べられないと、キュウリだのトマトだのキャベツ千切りだのが脳裏にしつこく浮かんで私の食欲を刺激するのだ。

デフォルトは当然サンチュである。いわゆるチョレギである。焼肉野菜の代名詞だ。だが、日本には「白髪ねぎ」という伝統的な白色彗星…ではない、白色美人があるでないか。肉に適度な辛みと刺激を加える、まさに相棒である。水谷豊は現在68歳である。シリーズ30まで続くだろうか。

極上カルビ

肉は凍っていない。これは嬉しい。トングを使って肉をロースターの上に置く。火はちょっと弱めか。ピーマンがなかなか焼けない。だが、焦る必要は無い。

お一人様なのだ。

誰かが横から私の肉を奪うこともない。じっくりと、ゆっくりと焼いてひっくり返す。火勢がさほど強くないので網に焦げ付くこともない。

そして両面が焼けた肉を皿に取る。
たっぷりの白ネギをのせ、くるっと巻いて食べる。

うまい

最初はトッピングにサンチュを注文しようとしたが、心変わりをしてネギにした。葉物野菜は肉を包み込み、みずみずしさと爽やかさを付け加えてくれる。

ひどく脂のきついカルビを食べるのであれば、それを受け止める優しい器も必要であろうが、こいつはそうでもない。適度に脂が乗り肉の旨味と調和がとれている。

この肉にいっそうの味の広がりを求めるのであれば刺激が必要だ。そこで白髪ネギである。私の読みは間違ってなかった。

タレをつけて食べれば、甘辛い調味料がそれはそれで肉の味を広げるだろう。しかし私には塩分控えめと言う宿命がある。タレはタブーだ。

であるならば素材が持つ本来の魅力と最低限の調味料。肉の表面を軽く焼き、潜在能力を最大限まで引き出す相棒とともに食す。これがベターだ。反町隆史の次は誰だろうか。

肉が甘くてうまい。ネギの刺激と辛味が味わいを広げるので一層うまい。タレはいらない。ロースターは火が弱いと思ったらそうでも無い。ただニンニクに火が通るまではだいぶ時間がかかりそうだ。肉が焼け過ぎなくて良い。一人焼肉の利点である。


肉を一枚ずつゆっくりと焼く。焼きあがったらネギを巻く。ああ、いいなあ。

焼きニンニク

じっくりと火を通していたら、中国の焼き餃子みたいになってしまった。

ホクホクで柔らかい。ほんの少しだけ味噌をつけた方が美味い、これくらいならば塩分も大丈夫である。

ハラミ

腹身はしっかりとした肉の味。脂が弱い、ネギの辛味に負けてしまう。うーん。お前の力はこんなものであったか?

盛岡冷麺

真っ白な冷麺を見るのは初めてだ。普通は少し黄色がかっている。スープは薄味で出汁が効いている。

さくらんぼが入っているのも始めてだ。青森では獲れる果物ではないだろうか。もちろん盛岡でも冷麺にサクランボが入ってるのを見たことがない。

だが、それは細かい話だ。

ダシのきいたスープ、細く純白な麺、キムチも入っていない。この控えめで和風美人な冷麺にトッピング用のネギを大量にぶちこむ。ビジュアル的にも味わい的にもなんら問題は無い。ネギの辛みと刺激が冷麺の味わいを一段とリッチにする。

さらに酢を加えれば酸味がますます味わいに深みを与える。素晴らしい。こいつはするっと胃に入ってしまう。

糖質を避けんがために入店した焼肉店で糖質を食らう。なんという不条理、不合理、本末転倒、意志薄弱。これが人間なのだ。

ごちそうさま

余は満足じゃ。カルビと冷麺も素晴らしいが、一番仕事をしたのは白髪ねぎだろう。全国の焼肉店にもぜひ導入してもらいたいものだ。

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