東京都港区新橋 健美(けんび)
新橋に以前から気になるそば居酒屋がいくつかあった。そのうちの一軒に立ち寄ってみた。朝4時までオープンしてると言うことで、遅い時間に訪れてもゆっくりと食事ができそうだ。
店に入るとカウンター席に案内された。正面は壁である。カウンター席と言うと、やはりカウンター越しに店員がいたりオープンキッチンになっているのが一般的だと思うのだが、壁を見つめながら食事をするスタイルをカウンター席と呼んでもいいのだろうか。
メニュー
さて、何を食べようか。
メニューが豊富である、と言うよりも多すぎる。どれから見ればいいのかわからない。分厚いメニューをめくるが、なかなかドリンクメニューまでたどり着けない。まずは生ビールを注文。
食事が充実している。ランチにはいいだろうが、こんな時間にがっつり食べられる年齢ではない。悲しい。もう少し若ければ…と、若い女性に逆ナンされたのに、性欲よりも早く帰って眠りたい気持ちが強くて、めんどくさくなった五十路の悲しみを味わったような気分だ。
夕方から朝までは十割蕎麦を食べることができる。手打ちとは書いていない。東京の居酒屋でこの価格であれば機械打ちであろう。
焼き物は定番メニューが多い。
客のほとんどが日本人だが、店員はほとんどが中国人のようだ。厨房とフロアとのやりとりは全て中国語で交わされていた。料理を作ってるのも中国人スタッフだ。だが昨日の店のように失礼な対応はなかった。
私の正面にある壁の向こう側には、一人だけ日本人のスタッフがいたようだ。おそらく弟子であろう。
まずは冷やしトマトと厚揚げ生姜焼きを注文する。
お通しは大豆もやしのキムチ風味。いまいち。ほとんど箸をつけなかった。
冷やしトマト
冷やしトマトは、メニューには「醤油ベースのドレッシングが合う」と書いてあったが、出てきた皿にはマヨネーズが添えられていた。
しかも少量。
昨今はトマトの値段が高騰している。しょうがないのだろうか。ドレッシングはどこに行ってしまったのだろうか。
厚揚げ生姜焼き
厚揚げは普通に焼いたものである。焼いただけであれば問題ないだろう。不味い厚揚げなどあまり食べた記憶がない。
記憶に残るのは長野駅前だけだ。
厚揚げの上にはネギと鰹節とカイワレ大根である。味わいは一般的なのだが、おろし生姜がいただけない。辛みが尖りすぎて、とても食べれたものではない。
見た目にはチューブ生姜に見えないが、風味の特徴はチューブ生姜によく似ている。業務用だろうか。
生姜を売りにしている厚揚げなのに、生姜がいただけないとは皮肉な料理である。
ジャンボ串カツ
ジャンボと名乗るほどビッグではない。見た目のインパクトがそれほどでもない。豚肉はおそらく肩ロースだ。だが食べてみると確かに普通の串かつよりはボリュームがある。
それよりも問題なのは、最初から串カツに中濃ソースとマスタードがかかっていることだ。私はソース無しで食べたかった。串カツをプレーンで食べたかった。
高血圧なので減塩が欠かせないのだ。
そういった昔の都合が全く考慮されずに、ステレオタイプでとんかつにはソースとマスタードであると決めつけられている。
そういえば、昔オフィスでパートの女性にレトルトのカレーとご飯を電子レンジで温めるよう頼んだことがある。私の眼前に運ばれてきたカレーは、ご飯とルーがすでに混ぜられていた。
彼女は気を遣ってくれたのだろう。どうせ混ぜて食べるのだからと私の手間を省いてくれたのだろう。だが、そのような気遣いは不要であった。むしろやめて欲しかった。
私は混ぜる派ではない。少しずつ彼達を削るように食べれるのであった。
最初から外れてしまっては、私と楽しみがなくなってしまうではないか。せっかく気を遣ってくれるそうで、私が気分を買いしてしまった。それほど食べ物と言うのは、嗜好品と言うのは人によって角が違うのである。そして受け入れられない細工をされると、それは当然深不快となってしまうのだ。
更科蕎麦
締めは楽しみにしていた更科蕎麦。見た目はうまそうだ。真っ白い。太さにムラがあるのは手打ちなのか、それとも乱切りなのか。
とりあえずそばつゆに薬味を入れ、蕎麦をつけて食べる。
喉越しもよく、舌触りもなめらか、腰も伸びもある。
だがこの太さがバラバラなのは蕎麦の切り方ではない。少々不揃いなんてレベルではない。麺があちこちで団子状にくっついているのだ。
更科そば、特に生麺は茹で方が難しい。きっちりとばらさなければ湯の中でこのようにくっついてしまうのだ。
なので蕎麦を箸で持ち上げてもあちこちでくっついてしまい、なかなか蕎麦猪口に入れることができない。何とか一口分に量を整えて蕎麦つゆにつける。口に入れる。
なんだこれ?
蕎麦つゆがひどい。
蕎麦とつゆの完成度があまりにも乖離している。
蕎麦つゆは辛口で出汁が聞いていない。極論すれば醤油と大差ない。薬物のネギを噛み締めれば甘く感じるほど、そばつゆの存在感がない。味わいがない。更科蕎麦の魅力を全く引き出せていない。
さらに、だ。蕎麦湯が出てこない。他の客には蕎麦湯はデフォルトで運ばれていた。しかし私の席ではいくら待っても蕎麦湯が来なかった。
諦めて店を去る。
ごちそうさま
会計は中国人スタッフがテキパキとこなしていた。フロアの店員の対応は丁寧だ。同じ中国人でも昨日の店とは雲泥の差である。
中華料理店の中国人は対応が雑なことが少なくないが、和食店だとまあまあ丁寧なことが多い。
それでも、この店の蕎麦の扱いは雑すぎる。調理する中国人が悪いのか、店主がきちんと教えていないのかは分からないが、一つ言えることは、私がこの店を再び訪れることはおそらくないだろうということだ。
数年前に五十路となったバツイチ男性。昨日は沖縄、今日は北海道、明日は四国…出張三昧の日々、三年間で制覇した店は千店舗を超えた。日本全国及び海外での食事を記録したブログである。五十路とは本来「五十歳」を意味するが、現代社会では「50代」と誤った認識が定着している。それにあやかりブログのタイトルを名付けた。(詳しく読む…)