麺の話
中国人、特に北に住む人々はことのほか麺が好きだと聞く。確かに大陸では水牛がいれば米がとれる。寒いところは小麦を食べる。そもそも中国語では小麦粉を水で練ったものはすべて麺だ。日本語では「餃子の皮」と言うが中国では麺であり、主食である。年越しも餃子だ。
だから中国人にとって餃子ライスはチャーハンライスと変わらないので理解に苦しむ。もっとも日本人でも、ラーメンライスは美味しいが、焼きそばライスはおかしいと言う人もいる。粉もん大好き関西人に言わせれば、炭水化物on炭水化物はうまいがな、となる。それでも日高屋の「ラ餃チャ(ラーメン、餃子、チャーハン)セット」はさすがにどうかと思う(笑)
日本語の麺は中国語では「麺條」である。(簡体字では面条と書く。)條はヘビのような長細いものを意味する。ちなみに春雨は「粉丝」、ビーフンは「米粉」。中国南部では小麦が取れないので米粉の麺になる。これは「米線」と言う。
中国に行って「麻婆春雨」を注文しても通じない。「春雨」は普通に人名だ。以前、北京の会社に「張春雨」と言う社員がいた。麻婆春雨をお土産に渡したら翌日「うまかった!」と満足げだった。ちなみに麻婆春雨は中国語では「肉末粉丝」と言う。「肉末」はひき肉のことだ。
その中国人から麺を取り上げたらどうなるか?今から800年前、日本では鎌倉時代。中国ではモンゴル民族が元を興し漢民族を支配した。元は漢民族が反抗しないようにすべての刃物を取り上げたと言う。これでは麺を打っても切ることができない。それでもどうしても麺が食べたかった中国人が茶碗を割って、そのかけらを使い麺を削って食べたのが発祥とも言われている。(諸説ある)
広い中国でも麺の本場は陝西省は西安。唐の時代の都「長安」である。なんでも酸っぱ辛くしてしまうところだ。なにしろ百種類以上の麺があると聞く。ただしラーメンだけはなぜか蘭州が本場なのだそうで。
刀削麺が食べたい
前置きが長くなったが個人的には年に何回かどうしても刀削麺が食べたくなる。食べ方はいろいろあるのだがこれだけはブレない。常に麻辣だ。それもパクチーたっぷり。しかし沖縄で刀削麺を食べられる店を知らない。ネットで調べても沖縄人が県外で刀削麺を食べた記事しか出てこない。そんな記事はどうでもいい。この記事も同じだろう?というツッコミは認めない。結局、県外に来たときにしか食べられないのだ。
東京でも刀削麺の店がたくさんあるわけではない。すべての店が上手いわけでもない。ハズレを引いたことも何度もある。だから行動範囲内にある、そこそこ美味い刀削麺の店は私にとってとても貴重なのだ。
今の会社の東京支店は港区芝にある。その近くに目当ての店がある。朝から支店に顔を出していた私は事務の原田さんに声をかけた。
「お昼はどうする?私は刀削麺に行こうと思うんだけど。」
「いいですねぇ。」
彼女のお父さんはテレビでもたまに見かける元野球選手だ。そして部類の辛いもの好きだ。
「あの店、一人でもたまに行くんですよ。」
以前、彼女を連れて行ってからすっかりお気に入りになってしまったらしい。辛味には麻薬のような常習性があるとも聞く。中国人の前妻も同じようなことを言っていた。
「重慶火鍋を食べるとね、食べた夜は胃が痛くなって、翌朝はお尻が痛くなって、もう食べないって思うんだけど、三日もするとまた食べたくなるのよね。」
バカだろう?と思われるかもしれないが、今では私もそう思う。
麻辣刀削麺
昼どきのピークを避けて原田さんと店に入る。注文は二人とも迷わず「麻辣刀削麺」。原田さんはパクチー抜き、私はパクチー大盛り。
麻とは花椒のこと。花山椒とも言う。味覚というより舌が痺れる刺激がクセになる。辣は「辛い」だ。インゲンと豚ひき肉を花椒と豆板醤で肉味噌にしたものを麺にかける。
日本では麺は出汁を使ったスープに入れたりつけるのが普通だが、中国料理ではスープを使わない料理が多くある。むしろ出汁を使うのは広東料理くらいではないだろうか。炒めた具材を麺と和えたり、鍋にお湯を加えてスープにしたりすることが多い。
原田さんは咳き込みながら食べてるので心配になるが、本人はケロっとしてる。私はまあまあこの店を気に入っているが、過去にはもっと美味しい刀削麺を食べたことがある。それでもこの辺りにあるいくつかの中華料理店と比べると断然美味しい。他のメニューも食べてみたいと毎回思うのだが、きっと次回この店に来た時も私は迷わず「麻辣刀削麺」を頼むに違いない。
西安刀削麺酒楼 芝店
住所:東京都港区芝2-18-4 (都営三田線 芝公園駅 徒歩3分)
電話:03-6809-5669
定休日:日曜日
数年前に五十路となったバツイチ男性。昨日は沖縄、今日は北海道、明日は四国…出張三昧の日々、三年間で制覇した店は千店舗を超えた。日本全国及び海外での食事を記録したブログである。五十路とは本来「五十歳」を意味するが、現代社会では「50代」と誤った認識が定着している。それにあやかりブログのタイトルを名付けた。(詳しく読む…)