麻辣刀削麺

東京都港区 浜松町駅 名匠頂味軒/刀削麺酒樓

新装開店?

東京都港区芝、第一京浜を新橋から品川に向かって金杉橋を過ぎ、次の信号の先に中華料理店がある。以前は確か黄色い看板であったと記憶していたが、いつのまにか白い看板に変わっていた。しかも新しい。店名も以前は三文字であったような気がする。

名匠頂味軒。直訳すれば、名人が作る最高の味の店。なかなか攻めのネーミングではないか。ちょうど晩酌の店を探していたので、立ち寄ってみることにした。

オーダーは店外に貼り出してあった「晩酌セット」900円。ドリンク一杯に前菜もしくは焼き餃子、料理一品のお得なセットである。店内に入ると客はいない。午後十時半だ。ピークは過ぎたのだろうか。テーブル席に案内される。

さて、何を食べようか。

メニューを見る。誤字がひどい。パリパリが「パリパイ」など、謎のオノマトペが多数散りばめられている。読んでいてなかなか楽しい。暇つぶしには最適だ。前菜ではなく焼き餃子と料理には麻婆豆腐をセレクト。これだけでは物足りないので、好物の干し豆腐千切りサラダを注文する。

店内は白を基調とした内装で、清潔感があふれていて気持ちがいい。

まずは前菜代わりの干し豆腐の千切りサラダ。なぜか生温かい。お湯で戻して、冷やさずに出したか。黒いツブツブは謎の調味料だ。食べてみると、これはこれでなかなかイケる。だが、私が求めていた味とは異なる。食べ進むうちに、大量の干し豆腐の下から生野菜が出てきた。まさに瓦礫の下からといった感じの様相である。しかも敷いてあったのはレタスサラダ。こちらにはドレッシングがかかっている。この料理は中国人の店であれば、調味料の配合に違いはあれど、たいがい同じような味になる。それがどうしてここまでアグレッシブな料理になるだろうか。

メインの麻婆豆腐。中国の食堂で食べたのと同じような味に感じる。いや、少し優しすぎるだろうか。パンチと刺激がマイルドにな気がする。

サイドメニューの焼き餃子。皮が分厚い。水餃子用のものを焼いたのだろうか、皮がパリパリしていない。片栗粉が入っていないからだ。

日本では焼き餃子と水餃子は調理法の違いだけであり、同じ餃子を使うのが主流である。焼き餃子用のもの水餃子にするので、皮が薄くてペロンとワンタンのようになるのが特徴だ。

対して中国、特に北京あたりでは水餃子が主流だ。小麦粉と水だけで、しっかりと厚みのある皮を作り、中身を包む。大量にゆでても破れず、食べ応えがあるのが特徴だ。これを日本の焼き餃子のように焼くと、中の餡と皮が分離してしまうので、餃子の皮の袋に中身を入れたような感じになってしまうのだ。食べると皮がゴワゴワしているので食感も悪い。

中国で焼き餃子と言えば、前の晩に食べきれなかった水餃子を焼いて食べるのが一般的なので、当然のことなのだ。そう、長崎で言うところの「昨日の皿うどん」状態なのだ。これは餃子を軽く潰して、両面をしっかりと焼くことにより、皮をパリパリにする。無論、美味しいのである。

水餃子は北京、焼き餃子と蒸し餃子は点心、つまり広東料理である。揚げ餃子は日本人が考案した。中国発祥の餃子一つとってみても、中国と日本とではかなり常識が異なることを、大多数の日本人は知らないのである。

斬新だ。

安定の刀削麺酒楼

翌日、ブランチに向かったのは刀削麺酒楼である。二食続けての中華だが、東京に来るとどうしても麻辣刀削麺が食べたくなるのだ。沖縄では食べることが叶わないのである。もちろんパクチー多め、小ライス付き。

ああ、魅惑の麻辣、辛さと痺れのとりこなのである。刀削麺独特の食感もたまらないのである。最近は冷凍食品でも売っているのを見かけた。一度食べてみたが、そんなに悪くはなかった。しかし店でできたての料理を食べるのに比べてら、話にならない。

モチモチの食感、コシのある太くて短い麺はたっぷりとスープをまとい、辛味としびれとパクチーの個性的な香り、豚肉の旨味が合わさって、口の中で一つにまとまり、やがて余韻を残して消えていく。麺がなくなれば、残りをライスで食べ尽くす。至福のひと時なのである。

名匠頂味軒 再訪

三週間後の夜、再び店を訪れて晩酌セットを注文する。今回は水餃子を食べてみた。

写真を撮り忘れた。

出てきた料理を見てびっくり。これはスープ餃子である。確かに日本ではこれを水餃子と称して提供する店もある。しかし中国人に出されたのは初体験だ。

日本語ではおこげと訳される锅巴。鍋で炒めた熱々の餡をおこげにかける光景を見ながら唾を飲み込む。ジューっと鳴る音が耳から食欲を刺激する。立ち昇る香りが鼻腔をくすぐる。視覚、聴覚、嗅覚にまで訴える料理を一口食べれば、口の中に広がる豊かな味わいとおこげの食感。まさに五感で味わう、人間の持つ全てのセンサーを駆使して受けとめる、素晴らしい料理なのである。

不味いわけがない。

締めにジャージャー麺をリクエスト。炸醬麵、ストレートの中華麺の上に肉味噌とキュウリがのったもので、北京ではよく食べられる。久しく食べていない。きっと大陸式のものが出てくるだろうと期待していたのだが…え?

これなに?

再びなんちゃって中華だ。

盛岡ならわかる。冷麺もじゃじゃ麺もなんちゃってだ。日本の地方で独自進化を遂げた料理だ。しかし、ここは中国人の店だ。なぜに肉味噌が野菜あんかけなのだ?

ここのシェフは日本人の店で修行したのだろうか。いまいち納得のいかないまま、麺を平らげた。不味くはないが、私が求める味ではなかった。

この辺りには中華料理店が数多くある。そのほとんどは中国人の店である。にもかかわらず、中途半端な味の店が多数派であるように感じる。しっかりとした和食を作る中国人の居酒屋もあるのだから、自国の料理くらい正宗(中国語で正統派の意味)としてもらいたいと切に願う。

(Visited 33 times, 1 visits today)