岡山駅前 すし幸
沖縄から岡山に行くには早朝便と夜便しかない。早朝に行っても仕方がないので翌日は家で仕事をしてから那覇空港に向かった。30分遅れで離陸したJTA016便を降りてバスに乗り、岡山駅に着いた頃には21時半を過ぎていた。
岡山の繁華街は駅からタクシーでワンメーターほどの距離だが、明日もあるので駅前でパパッと食事を済ませたかった。しかし駅前にあるのは松屋、CoCo壱、宮本むなし。地元のものが食べれる店はないかとウロウロして探し当てた小料理屋さんはもう閉店だという。少し先まで歩くと赤提灯が見えた。寿司屋のようだ。ドアを開けると客は誰もいなかった。大将と若大将がカウンターに座っていたが、店はまだ開けてるということで入れてもらった。
個人的に岡山で食べたい魚といえばサワラとシャコだ。美味しんぼに書いてあったからだろうか。バブル時代の名作は北斗の拳とともに私の人生に大きな影響を与えているようだ。(ナンノコッチャ…)だから春といえば岡山でサワラのタタキを食べたいなどと思っていたのだが、サワラの旬は秋から冬だということを知ってショックを受けたのは四十も過ぎてからのことだ。
刺身盛合せ
その昔は春から夏にかけて瀬戸内海にサワラが産卵のためにおしよせたとのことで鰆と書くのだとか。卵や白子を抱いたサワラも美味しいとのことだが食べたことがない。
ということでまずはつまみで刺身をいただく。生とり貝、イワシ酢〆め、アジ、ボタンエビ、さわら塩タタキ、真鯛。ボタンエビは北海道でいつも食べてるのでさすがに比べられないが、その他はいい仕事をしている。青魚は酢で締めるに限るは私の持論で、鯖はもとより鯵も鰯も酢じめが好きだ。とり貝とホッキ貝も生が好みだ。茹でたのは美味しいと思わない。サワラの塩タタキは安定のうまさだ。
焼きチンタイ貝
続いてチンタイ貝の焼き物。マテ貝のような形だが別物とのこと。チンタイ貝は地元の呼び名で、有明海ではあげまき貝と呼ぶ。あさりの味を濃縮したような感じだ。
シャコ酢
焼いたシャコをカニ酢につけて食べる。美味い!シャコはもともと瀬戸内の名産だったが今はあまり獲れず北海道のものを使うとのこと。今日は珍しく地物です、いい型のシャコが入ってきましたと大将が言った。久しぶりらしい。本当に大きい。味も濃い。シャコをカニ酢につけるとこれほど美味いとは想像できなかった!ハサミの部分の肉までしっかりといただく。
中国ではシャコのことを屁屁皮皮蝦(ピーピーシャー)と呼ぶ。昔、北戴河にある中国共産党の別荘に連れていかれた時に、山盛りの茹でた赤貝とシャコを食べた。市場ではシャコがキロ単位で売られており、買ったものを北海道の活毛ガニのようにその場で茹でてくれる。
日本でも中華食材の店に行くと、シャコのハサミの部分の肉だけを詰めたものが売られていることがある。アメ横でも見たことがある。それからハサミの部分の肉もいただくようになった。
さよりの握り
腹が減っていたので握ってもらう。タイの昆布締めはそのまま食べる。続いてさより。どちらも美味い。
サクラマス。臭みがなく、脂もくどくなくてサッパリとした甘み。私はマスやサーモンの生は好きではないのだが、これはうまかった。アナゴ塩、ほろほろの身でアナゴの味がしっかり。
タイラギの握り
「今日は牛窓のタイラギが入ったんですよ。ここのは別格です。牛窓ってわかりますか?」
若大将が言う。
「ええ、わかりますよ。」
つい答えてしまった。わかると言っても、じゃらんで岡山の宿を予約するときにいつも「牛窓」と表示されるので知っている程度である。こっそり地図で場所を調べた。岡山市の隣、瀬戸内市の港町。向かいが小豆島だ。
タイラギは身が大きく、歯ごたえもある。味も濃い。ああ、幸せだ。
べかの握り
締めは「ベカ」だ。見た目はイカだ。
「これなんですか?」
「べか。米(べい)イカだからこちらではべか、べかって呼ぶんだよね。」
後日調べてみたらヒイカのことであった。和名はジンドウイカ。米粒のような卵をもっているので、岡山では米イカと書いて「べいか」と呼ぶようだ。
焼酎炭酸割りの酒が濃いせいなのか、だいぶ酔ってしまった。若大将と話していたら、なんと地元の知人のボトルが置かれていた。一杯ご馳走になったところで勘定を済ませ、店を出た。
翌日、知人からメッセージが届いていた。
「あ、すし幸ですか?コスパいいですよね!」
まったくだ。味も値段も満足だった。
数年前に五十路となったバツイチ男性。昨日は沖縄、今日は北海道、明日は四国…出張三昧の日々、三年間で制覇した店は千店舗を超えた。日本全国及び海外での食事を記録したブログである。五十路とは本来「五十歳」を意味するが、現代社会では「50代」と誤った認識が定着している。それにあやかりブログのタイトルを名付けた。(詳しく読む…)