四川・東北料理 沸騰漁府
新橋駅烏森口の道を西に向かったところにある一軒の中華料理店。以前から気になっていた。機会があれば食べてみようとおもっていた矢先、チャンスが訪れた。
四川料理の店である。看板には東北料理とも書いてある。中国ではメジャーだが、日本ではマイナーな東北料理。私も地三鮮と羊肉のクミン炒めくらいしか知らない。調べてみると豚耳のラー油和えも東北料理だった。北京では家常菜(Jiācháng cài)、つまり家庭料理の多くが東北料理だと言われていたので、食べた料理名をいちいち覚えていなかったのだ。
北京人曰く、北京料理とは二つしかない。北京ダックと羊のしゃぶしゃぶであると。いずれも宮廷で1000人もの客に同時に供せる料理なのだと言う。それ以外の「北京料理」と称されているものの正体は東北料理なのだと。
さて、なにを食べようか。水煮牛肉と麻婆豆腐のいずれにするか激しく迷う。が、初来店の店なので、麻婆豆腐を食べることにした。
店内
店内に客は少ないが、一人客なので相席にされた。初老の男性が青椒肉絲を食べていた。これまた四川の定番料理だ。お冷のカップは明らかにサワー用。中身は氷も入っていない、ただのぬるい水道水である。カルキの匂いが鼻に漂う。できれば熱いジャスミン茶が欲しいところだ。
昼過ぎだが土曜日はのんびり、まったりだ。店内には家族連れ。日本語と中国語が飛び交う。八割方が中国語である。向かいの男性が食事を終えて、席を立った。
テーブルには餃子のタレに辛味噌、黒酢。我が家でも愛用している鎮江香酢である。水餃子にはこいつが一番合う。もちろん、炒め物にも使えるのだ。日本のお酢よりもかなりマイルドである。
麻婆豆腐
麻婆豆腐ランチが運ばれてきた。金属製の皿…いや、これは一人用の鍋である。日本で言えば、鍋焼きうどんの鍋に相当するものだ。
サラダは野菜がシャキシャキである。薄味の中華ドレッシングがかかっていた。ああ、個人的にはドレッシングをかけないで欲しかった。
とうもろこしと卵のスープが少し甘めの味付けである。
卓上の香酢と辛子味噌を足してみた。まさに酸辣(サンラー)である。うむ、酸味が甘さをうまく引き立てる。辛味はそれほどでもなかった。こちらの方が、はるかに好みの味だ。
麻婆豆腐は鉄鍋に入っているが、鍋は熱くない。むしろ冷え切った金属が料理の熱を吸い取ったかのようだ。一口食べてみるがさほど熱くない。だが味付けは本場と変わらない。少し辛味と痺れが足りないので、壺の中身を少量足してみる。
ああ、花椒の爽やかな香りが口の中にふわっと広がって消えた。
でもなあ、熱々の麻婆豆腐をハフハフしながら食べるのが美味いのに、最初から熱くなければすぐに冷めてしまう。せめて鉄鍋をお湯にくぐらせて温めるとかしてほしいのだが、酒用のカップに、ぬるい水道水を入れると言う、日本人には考えもつかないことをするくらいだ。
コップに飲料水が入っていれば何も問題ないだろうと言う、中国人的合理的発想だ。
大陸じゃ飲食店と言えども、コップ自体が汚れていて、自分で紙ナプキンを使ってふき取ることから食事が始まる。水道水はもちろん飲めない。20世紀の北京はまさにそうだった。
なので、味はいいのだが、もう少し客への配慮があれば、一層美味しくいただけたのに、と残念な気持ちになった。
この店を訪れることは、もうないな。
数年前に五十路となったバツイチ男性。昨日は沖縄、今日は北海道、明日は四国…出張三昧の日々、三年間で制覇した店は千店舗を超えた。日本全国及び海外での食事を記録したブログである。五十路とは本来「五十歳」を意味するが、現代社会では「50代」と誤った認識が定着している。それにあやかりブログのタイトルを名付けた。(詳しく読む…)