元気 源右ェ門 東風うどん

石川県小松市 粟津駅 元気 源右エ門 東風うどん

豆腐屋の麺料理

風邪をひいた。昨晩の大懇親会で雨に当たったのがいけなかったようだ。喉が昨日よりも痛い。体がだるく、熱っぽい。痰がかなり出る。間違いない、風邪だ。とりあえず抗生物質とアスベリン、カルボシステイン、トラネキサム酸を飲む。おとなしく横になる。チェックアウトは11時だ。ブランチに何を食べようか。

加賀のうまいもの、間違いなく魚介類だが、それは今晩の食事だ。肉は昨晩食べた蕎麦も昨日、堪能した。もうこのあたりで食事ができる店は無い。石川県と言えばカレーかうどんか、それが問題だ。カレーは刺激的だな、ガッツリとボリュームがあり、スパイスが胃腸の調子を整えてくれる。だがここいらは金沢カレーの影響圏だ。カツカレーを食べるのは目に見えている。それは今の私にとって非常に危険な行為だ。揚げ物はやめておけ。となるとうどんしかない。小松うどん。うーん。小松うどんねぇ…ネットで検索していると、ふと一軒の店が気になった。

「豆腐屋の麺料理」

どういう意味だ?これは行ってみるしかないだろう。Googleマップにナビを任せ着いた先はここであった。

元気 源右衛門

店の前の駐車場に車を停め、入口に向かう。

店内は客がまばら。まだ11時半にもなっていない。空いていて当然であろう。おひとり様恒例のカウンター席に案内される。緑が多くて癒される。

駐車場の隣がちょっとした庭園になっている。カウンター席から眺めることができる。ああ、心落ち着く。

店内はテーブル席とカウンター席がある。デシャップは調理場のカウンターである。こちらも年季の入ったお姉さま方が店を仕切っていた。デシャップとは英語のdish upが語源とされ、厨房から出てくる料理をホールに提供する場所、もしくはそれを担当する人のことである。飲食業界では一般的な用語である。妻もかつて、温泉施設の居酒屋でデシャップを担当していた。

メニュー

さて、何を食べようか。店の説明に目を通す。なるほど「手作り製法 織田屋 生しぼり」と書いてある。豆腐屋さんが製品を製造し、提供する飲食店と店舗なのだな。

メニューに目を通す。冷やしメニューか。東風…トンプー?ああ、懐かしいな。あの曲のイントロが好きだったな。YMO、70年代テクノ、初期のライブ盤が最高だった。ワーカーホリックのニューヨーク版よりも、FMでエアチェックしたボトムライン版のほうが断然いい。YouTubeで拾ったが、なかなかの音質に感激してしまった。あのライブでは千のナイフとThe end of Asiaが最高だ。そうそう、この曲の意味は、最近まで「アジアの終わり」だと思っていた。アジアの滅亡だと考えていた。なんでこげなタイトルなんか、ずーっと意味が分からなかったが、この”End”は「果て」、要するに地理的なアジアの終わり、つまり極東こと「日本」を指していたのだと気づいたのは、わりと最近だ。曲を知ってから40年も経ってからだ。

で、なんだっけ、そうそう東風…こち?南風は「はえ」だ。東風平と書いて「こちんだ」は、私が住む南風原(はえばる)のお隣だ。なぜに加賀で沖縄???調べてみた。東風、「あゆの風」とも「こち」とも読む。春から夏にかけて東国から京都に吹く風を指し、これが転じて能登を中心とする沿岸地域を指すようになったようだ。大伴家持も詠っているのだとか。

勝山は分かる。福井のド田舎だ。

今は冷たいクールな料理よりも、ほんわかと優しく体を温めてくれるあったかメニューがいい。うどんしか選択肢はない。東風、MOA、ゆば、カレー…ラーメンもあるのか。いや、うどんでいこう。MOAって、自然農法のやつだろうか。そういえばMOAってどんな意味なのだろうか。調べてみた。”Mokichi Okada Association”。おかだもきち…誰?斎藤茂吉なら知っている。

さらに調べる。Wikipediaにあった。世界救世教なる宗教の創始者らしい。うーん、これ以上は深掘りしないでおこう。ということで、東風うどんを食べることにした。

豆腐売場

食事ができるまでの間、せっかくなので店舗を見学する。これから沖縄に帰るのだから、美味そうなものがあればお土産に買って帰りたい。クーラーボックスも持っているから、氷さえもらえば大丈夫なのだ。揚げが美味そうだ。世の中には厚揚げではない分厚いふっくらした揚げが、あまた存在する。代表的なのが栃尾揚げだが、三角揚げや定義山揚げなど、実は全国に点在していることを知った。沖縄には存在しないので売ってもいない。この店の揚げもなかなかの厚みだ。買いだ。

豆腐もなかなか美味そうだ。沖縄では島豆腐がメジャーなので、内地式の絹豆腐のチェアはそれほど高くない。島豆腐ももちろん美味いのだが、鍋料理や冷ややっこには内地のやわらかな口当たりの良い豆腐が食べたくなる。これも買いだ。

おからは無料でいただけるようだが、荷物になるのでやめておこう。

東風うどん

店舗でいくつかの商品をチェックし、帰りがけに買うものを決め終えた。席に戻ると、すぐにうどんが運ばれてきた。小皿がいくつも付いている。これも田舎の心遣いを感じさせる。都会の定食にはこれほどのサービスは望めない。

サイドメニュー

冷奴、揚げ焼きに再び冷奴。じーまーみー豆腐のように見える。まさに豆腐三昧、すごくヘルシーな気がするのは思い込みであろうか。

まずは手前の冷奴だ。豆乳が高密度に詰まった豆腐。味が濃い。これが手絞り製法の特徴なのだろうか。少し甘めの出汁の効いたタレとの相性もいい。食感はさほど滑らかではなく、柔らかくないが、体調が良くなる気がする。

焼き揚げは専用のたれをかけて食べる。口に入れるとモチモチの食感。たっぷりのネギに生姜の香りとほんのり七味。美味い。

奥の豆腐は柔らかく滑らかな絹豆腐。こちらの方が好みである。

揚げ出しか見まがうような絹揚げは、加熱しても密度が詰まったままだ。あちこーこー(沖縄の方言で熱々を意味する)の島豆腐を食べているかのようだ。貴重な生野菜である薬味も残らず食べ尽くす。冷たい唐揚げは見た目よりも薄味。箸休めにぴったりだ。違う、大豆の唐揚げだ。湯葉だろうか、中国の干し豆腐に近い感じがする。メニューを確かめると、大豆と書いてあるではないか。

いなりうどん

見た目はただのきつねうどんである。関西風のうどんである。讃岐うどんのようながっしりとした、しっかりとしたコシのあるうどんには見えない。どちらかと言えば、宮崎うどんのような丸みを帯びた細い麺である。おそらく柔らかい、とは言っても、伊勢うどんのようなもっちりもちもちのようなふんわりうどんではない。歯ごたえはないが食べるのに力が不要な、風邪をひいた私を癒してくれる、そんな歯ごたえのない食感の、きっと優しいうどんであろうと、見た目から妄想してみた。

いただきます。まずはつゆからだ。一口飲む。カツオの香りにピリッとした生姜の刺激、ほんのりと広がる辛味とゆずの香り。最初から生姜と七味がうどんにかかっているのだ。子供が食べるときには注意が必要だろう。

ああ、だしの効いた優しい味わいの黄金色をしたスープが、私の胃壁にゆっくりと染み渡っていくようだ。ここ何日も汁物を食べていない。干ばつで乾いてひび割れた大地に降る、恵みの雨のようだ。こいつはついつい飲んでしまう。このままではうどんを食べる前にスープがなくなってしまう。だめだ、麺も食べないとペース配分が狂う。理屈ではわかっている。だが、止まらないのだ。確信した。私は疲弊した内臓を癒してくれるような味に飢えていたのだ。密かに優しさを求めていたのだ。

どんぶりの三分の一ほどを飲み干したところで落ち着いた。続いて細い麺を食べる。舌触りはツルツル、讃岐うどんほどではないがコシがある。これは意外だ。そしてなにより喉越しが滑らかである。見た目と食感にギャップがあるうどんには、なかなか出会うことがない。

たっぷりとスープを吸った揚げは重量級で危険だ。重い。箸から落とすと汁が跳ねる。服に付く。しかし、箸で簡単にちぎれるほど柔らかい。口の中に入れれば、でホロホロと砂山が崩れるかの如く崩壊していく。いったい揚げをどのように煮込めば、こんなにも柔らかくなるのだろうか。こいつは普通の油揚げではない。栃尾揚げとまではいかないが、かなり厚みがある。私が大変好みのスタイルだ。焼いてもうまいに違いない。妻が喜びそうな油揚げだ。お土産に買って帰ろう。

吸水性ポリマーのようにたっぷりとスープを吸った油揚げを箸で千切り、少しコシのある、つるっとした独特のうどんと合わせて食べる。いなりはたっぷりと吸収した液体を放出しながら崩壊していく。口の中に出現したスープの海にうどんが飲み込まれる。それを私はすべて飲み込む。これはたまらない。

蒲鉾様に見えるものも練り物ではない。これも大豆だろうか。まるで精進料理である。

うどんと豆腐だろうから、スルッと食べれて、すぐに腹が減るだろうと舐めてかかっていた。とんでもない。腹がきつい。大豆でお腹がいっぱいだ。締めは豆乳。大豆の味だ。臭みがない、すっきりとした味わい。こいつがすべての元凶、いや原料か。

トイレは店の外にある。温水洗浄便座。清潔なトイレである、便座に座って用を足していると、窓からひんやりとした風がそよそよと入ってくる。うどんと生姜でぽかぽかに温まった体を冷ましてくれる。ああ、心地よし。癒される。

ごちそうさま。最後に目を付けておいた商品を購入してレジで支払いをした。サービスだとおからを渡された。荷物が増えるからいりませんとはとても言えなかった。好意は素直に受け取るものなのだ。

さて、物資を調達して沖縄に帰ろう。

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