ゴボ天うどん

佐世保中央駅 五島うどん 浩ちゃん 牡蛎とゴボ天うどん

雨の降る街をさまよう

会議に参加するために久しぶりに訪れた長崎県佐世保市。ランチは冷めた佐世保バーガーだった。

ハンバーガーは熱々を食べるに限ると再認識した。

バンズ(パンではない)は冷めた湯気でべしょべしょになり、ハンバーグの脂は固まり、体温よりも低い温度では機内食と同じく、塩味以外は本来の実力を発揮できない。

冷たい肉と野菜の組み合わせはしゃぶしゃぶとひき肉以外は厳しいものがある。

長時間の会議が終わるとハウステンボスで懇親会が企画されていたが、私は昨日から風邪で体調が悪い。200名以上が参加する宴会で大騒ぎする気分にはなれない。

たまたま知人が手違いで交流会に不参加となっていたため、私は彼に参加権を譲渡した。これで食事が無駄にならずに済む。MOTTAINAI精神は大切なのだ。

そして私は夜の佐世保をさまよう。雨がしとしとと降っている。長崎ではなく、佐世保は今日も雨だった。

そういえば、知人がこんなことを話していた。佐世保はやっぱり軍艦の街だ。船はさび止めに大量の塗料を使用する。定期的に塗り替えなければならない。長崎市も大きな港があるが、市内の大きな塗料店でも年商は5億円程度だ。だが佐世保では20億円にもなる。

さて、何を食べようか。佐世保バーガーはいらない。レモンステーキも佐世保発祥であったか。う0-ん、この体調でこってりした食事はしたくないなあ。

さまようこと約1時間。ついに私の前にファイナルアンサーが現れた。

五島うどん 浩ちゃん

五島うどんか。長崎県五島列島で生産される手延べうどんだ。たまに土産で買って帰る。カレーもおすすめか。うん、ここならばさっぱりした、風邪で弱った私の体にも優しい食事ができそうだ。

私は暖簾をくぐり、扉を開けた。

メニュー

店内はカウンター席のみ。細長いレイアウトだ。メニューはオープンキッチンの上部に掲示されていた。うどん、カレー、おつまみ、ドリンクにグルーピングされている。

なんとうどんは正統派な食べ方だけではなく、パスタ風やラーメン、タンタンメン?に中華風とバリエーションも豊富だ。つまみも充実している。

さすが九州、うどんにも替え玉がある。地獄炊きとはなんぞや?うどんにカレー、そして焼き飯。食事もしっかりと取り揃えてあるようだ。

とりあえず生ビール、そしてつまみをオーダーした。

ピーマン肉巻き

一品目は豚バラで巻いたピーマンである。味付けは塩抜き。胡椒のみを指定した。高血圧の私は減塩に努めている。

カウンター内部から豚肉の焼けるにおいが漂ってきた。腹が減った。食欲が刺激される。昼間に佐世保バーガーでやられた胃腸がようやく復活してきたのだ。

雨の中を一時間歩いた。

行くあてもなく、失恋で傷ついた心のやり場の無い想いとかはまったくない。行き場を見失っていたのは私の食欲である。夕食である。ディナーである。

豚肉の隙間から見える鮮やかなピーマンの緑はチラリズム。七味をかけて食べると、脂の甘味、肉の旨味にピーマンの香り、胡椒の刺激に七味の辛み。

ん?

口の中に濃厚なコクが広がる。これはチーズだ。ピーマンの中に潜んでいた。やられた。ビールが進む。自宅でも試してみよう。無塩調理でもチーズの塩気で十分なのだ。柔らかく甘いピーマンも豚肉の旨味とチーズのコク、三位一体ゴッドマーズ…以下略。

五島うどんの文字に救われたのか、掬われたのかはまだ判断がつかぬ。

牡蠣のムニエル 塩抜き

バターと醤油で味付けするというので、醤油を少なめにお願いする。こうしなければうどんを食べることができない。

およそカウンターのみのうどん店とは思えないオシャンティな器に盛り付けられた牡蠣。残念なことにレモンは添えられていない。

カレーの香りがするが味はしない。牡蠣の旨味がしっかりと濃縮されてるのにジューシーだ。焼きガキのようなパサパサ感がない。衣のような小麦粉の存在感もない。

牡蠣の香りが口の中いっぱいに広がる。臭みもしつこさもないフワッとした匂いだ。

小柄の牡蠣だからか。厚岸の牡蠣のような濃厚なコクとパンチはないが、逆にスルッとっと何個でも食べられてしまいそうだ。こいつは白ワインに合うだろう。

醤油を控えてもらっただけあってかなり薄味だ。ああ、レモンの酸味が加わればかなりの美味だったであろう。残念だ。

オムライスが名物?

テイクアウトの客が頼んだオムライスは卵がトロトロだ。大将は洋食の心得があるのだろうか。オシャンティなカフェで食べるオムライスのようだ。

ビールお代わり。締めはごぼ天うどん。これを食べにきたのだ。冷たいのを食べたかったが外は寒い、風邪で体も冷えている。温かいうどんにした。

テレビでは松本零士がメーテルのモデルの一人は八千草薫だったと証言していた。

大将が小麦粉を水で溶き始めた。揚げたてが食えるのか?ならば天ぷらもつまみで出せばよかろうに。なるほど小さな電気フライヤーで揚げていたのか。やるな。

ごぼ天うどん

本日のラスト、最終目的のうどんが私の前に差し出された。真っ白な細い麺の上には、白っぽくカリッと揚がった天ぷら。スープの色も薄い。

まずはスープを一口。本当に一口だけだ。酔っても塩分を気にすることは忘れていない。

ああ、カツオとは違う、優しい香りと味わい。これがあごだしの特徴だ。

どんぶりには天ぷらとは別に天かすも少々入っている。衣はサクサクかりふわ。中はホクホクのごぼうである。立ち食いソバの天ぷらにありがちな、揚げすぎてポテトチップスのようになったゴボ天ではない。きちんと水分を保ったほくほくの、そう、スープカレーについている丸ごとごぼう揚げのような歯ごたえと食感である。

細い五島うどんはかけうどんにしてもしっかりとコシがあり、喉越しも良い。熱いスープに溶けた油をまとったうどんの方が、冷やしうどんよりもはるかになめらかで喉越しが良いような気がする。

うどんを食べる。

ほんのりとスープの香りを伴った麺がうまい。そしてゴボウの天ぷらを食べる。ああ、薄味でたまらない。

薄味だからとスープを飲んでしまえば、やはり塩分過多になる。本能に任せてしまうと、大将の善意を踏みにじることになる。驚きを隠せないまま私の塩抜きリクエストという無理を聞いてくれたのだ。それもこれも全てはうどんを食べるためだ。

もう一口だけだ。スープを飲む。ああ、カツオも良いのだが、あごだしの優しい出汁がたまらない。これを食べるのが私のミッションだったのだ。今日このうどんを食べるために私は佐世保に来たのだ。レモンステーキでもトルコライスでもカキフライでもなかった。

答えは五島うどんだったのか。

年季の入った建物だけあって、洋式のトイレはさすがに温水洗浄便座ではなかった。

地獄炊きの解答は?

帰りがけにポスターを見つける。メニューの地獄炊きだてなんだろうかと思っていたら、答えが書いてあった。

釜揚げのことか。

全てを食べ終えすっかり満足した私は、再び雨が降る佐世保の街へと店を出た。

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