夜の予定をこなしたので、谷塚のホテルに戻る。軽く食事もしたので、軽く飲んで帰ろうと思った。なので今日もまるやだ。三日目ともなると、ちょっとした常連気分だ。お通しも安定だ。今日のマグロは漬けではない。生だ。甘くてうまい。ほどよい脂がのっている。
さて、少々小腹が空いた。明日にはこの町を離れる。初日に見た、あのうどんを食べずに帰るわけにはいかないだろう。鶏南蛮うどんを注文する。大将が黙々とうどんを作り出す。そして私の前に差し出されたそれは、見た目にもつるつるのうどんが、きらきらと輝き、食欲をそそる。
これだよ。一昨日、隣の客が食べてたやつだよ。初めてこの店を訪れた日に、カウンターで美味そうなうどんを食べている客を見て、私も無性に食べたくなったのだ。しかし腹が減っていなくて、泣く泣く断念したのだ。
メニューに「鶏南蛮うどん」とぶっきらぼうに書いてあれば、大抵の客は違うものを想像するのではないか。ポテトサラダと言い、この店の料理はいい意味で客の予想を裏切る。対象のイマジネーションが半端ない。こんな店が辺境の地に埋もれているとは驚きなのだ。
つけつゆは見た目、薄味に見える。スープを一口、飲みたくなる。どんぶりの端に口をつける。
熱い。
火傷した。
気を取り直して、うどんをハシでつかみ、つけ汁に入れて、たっぷりと浸してから口へと運ぶ。
美味い。
つるつるで滑らかなうどんに絡む鳥の脂がいい。つけ汁はややうす味だが、物足りなくはない。絶妙なバランスだ。鳥肉のサイズがうどんと一緒に食べるのに最適化されている。つけうどんは食べ進めるとどうしてもつゆが冷め、味も薄くなる。元々が熱すぎたので、冷めた今がチャンスだ。一口飲んでみる。美味い。どこまでも計算されつくされている。完食だ。
締めは銀杏。秋の味覚だ。これまた火加減が絶妙なのだ。美味い。
これでなにも心残りはない。明日には沖縄に戻る。さらば、草加市、さらば瀬崎町、さらば私の黒歴史。二度と訪れることはないだろう。
数年前に五十路となったバツイチ男性。昨日は沖縄、今日は北海道、明日は四国…出張三昧の日々、三年間で制覇した店は千店舗を超えた。日本全国及び海外での食事を記録したブログである。五十路とは本来「五十歳」を意味するが、現代社会では「50代」と誤った認識が定着している。それにあやかりブログのタイトルを名付けた。(詳しく読む…)