天ぷら串 山本屋
冬の東京は陽が落ちるのが早い。あと二週間ほどで冬至だ。現在時刻は17時。すでに真っ暗である。風もあって寒い。早くどこかで暖を取りたいところだ。東京駅前での会議が終わったが、今日は人数が少ないので懇親会も設営されていない。帰りを急ぐ4名ほどで、少し飲んで帰ろうかと言う話になった。
八重洲口は東京駅の真ん前だと言うのに、いまだ再開発されていないエリアがある。二階建てのバラック長屋が続くような裏路地を歩くと小規模な飲食店が軒を連ねていることを、トンデモ居酒屋「響」に行く道のりで知った。
早速、長屋に向かう。4人で個室で飲める店は無いか。そんな我々の目の前に現れた一つの看板「天ぷら串 山本屋」。
天ぷら串。
ありそうでなさそうなスタイルだ。天ぷら以外の食も充実してそうな雰囲気である。なにか新しい、斬新なスタイルの飲食店は、今まで味わったことがない体験をさせてくれそうな期待が持てる。
繁盛しているのか、限られた空間を最大限に有効活用しているのか、この寒い中にオープンカウンターとでも呼べばいいのだろうか、店外のカウンター席まで用意されている。毛布付きだ。店の前に立っていたスタッフに尋ねると、個室が用意できるという。ならば、ここで食べようではないか。
店内
店に入ると一階はカウンターとテーブル席となっていた。個室は二階だと言う。
案内されたのは屋根裏部屋みたいな個室。天井が低い。吹き抜けにして開放感を演じつつ、可能な限り個室を敷き詰めたようなデザインである。東京向きのレイアウト、外国人が日本の建物をウサギ小屋と呼ぶのも分かる。
ここで我慢していたトイレに向かう。無駄に豪華だ。ダダのような模様の壁紙が落ち着かない。違うのか?このような模様を何と呼ぶのだろうか。だが、トイレ自体は清潔感があって心地よい。温水洗浄便座であるのも嬉しい。
びっくり生レモンサワー
おしぼりは熱い、冷たい、凍ってるの3種類が選べる。凍ってるのは、本当に凍ったおしぼりが差し出された。もちろん、使いやすいように広げたまま凍らしてある。
とりあえず生ビールで乾杯。時間もまだ早い、それほど腹も減っていないので、軽くつまもうと言うことになった。
そして二杯目。角ハイボールにしようとしたが、レモンサワーが気になった。それもただのサワーではない。
「びっくりレモンサワー」
スタッフを呼びつけて、いかなるものか問いただす。凍らしたレモンスライスがどうのこうのと、たわけたことをぬかすので、ならそいつを持ってこい、と告げた。しばし後、我々の前に現れた異形のドリンクに4人ともうなった。
なに、これ?
6枚ものレモンスライスをずらして重ね合わせ、凍らせたものをグラスにぶっこんである。タワーのごとく、基底部のスライスが最大半径であり、高度が上がるにつれて径は縮小している。小さなスライスから解凍が進み、溶けたレモンが下部のスライスを伝ってグラスへと崩落していくのである。
えくせーれんとおおおおおおおおお!!!!
最終的に6枚のレモンスライスがグラスの中に重層化される。ここに酒と炭酸だけを追加するサービスで、最後までサワーを楽しめる。まさに「MOTTAINAI」スピリッツなのである。
天ぷら串
スタッフがおもむろに食材が詰まった木箱を持ってきた。このなかから天ぷらの具材を選ぶのだと言う。いずれも捨て難いものばかりだ。また、メニューではなく、現物を見られるサービスというか演出が個人的には好感度アップなのである。
さて、なにを食べようか。ネタによっては、ただ天ぷらにするだけではなく、トッピングや味付けが選べるとのことだ。空気を読まずに玉子焼きを頼んだ者がいた。
まずはチーズと大葉がトッピングされた天ぷら串だ。中身は忘れた。
続いてはシイタケ。なかなか大きくて肉厚もある。ジューシーで香り高い天ぷら串はシンプルにいただくのが一番である。
トマトソースチーズトッピングのベーコン巻きだったか何かである。串揚げ屋で出ていてもおかしくないメニューだ。パン粉も天ぷら衣も、主要な原材料は小麦粉である。パンはひと手間かかっているので、やもするとパンの味がネタを邪魔することもあるが、天ぷらではそれがない。あらゆる調味料との親和性も高いのである。
気が付けば19時前。一人がそろそろ次の予定がと言った。そうであった。19時まで軽く食べて帰ろうと、この店に来たのである。ようやく腹が減ってきたところではあったが、後ろ髪を引かれる思いで店を後にした。
また逢う日まで。
数年前に五十路となったバツイチ男性。昨日は沖縄、今日は北海道、明日は四国…出張三昧の日々、三年間で制覇した店は千店舗を超えた。日本全国及び海外での食事を記録したブログである。五十路とは本来「五十歳」を意味するが、現代社会では「50代」と誤った認識が定着している。それにあやかりブログのタイトルを名付けた。(詳しく読む…)