久慈から八戸へ
久慈での会議が終わり、青森県五所川原市へ移動する。天気がいいので、子供の頃から行ってみたかった奥入瀬渓谷に行くことにする。高山と同様、時刻表の表紙の写真が子供心に印象的で、いつか行ってみたかったところだ。40年近く経ってようやく念願叶うことになった。久慈から五所川原に向かうには青森県を横断しなくてはならない。久慈からは八戸線にのんびり揺られて、海を見ながら八戸に行き、そこからレンタカーで奥入瀬渓谷を通りつつ、五所川原へ入ることにした。
山を通るのだからきっと美味い蕎麦が食えるだろうと思ったのだが、ネットで調べてみると、蕎麦屋自体が少ないようだ。しかも青森では蕎麦とうどんをあまり区別しないとも書いてある。最近では青森といえばむしろカレーバターミルクラーメンやしじみラーメン、煮干しラーメンなど、ラーメンの方が有名な気がする。そう言えば5年前に青森に来たときは、タンメンに酢をまわしかけているのを見て、驚いた記憶がある。蕎麦文化はあまりないのかもしれない。
窓を開けたまま走る列車の風が心地よい。青森はもう秋だ。車窓には三陸のエメラルドグリーンの海が広がる。これはこれで綺麗なものだ。たまにはこんな移動も悪くない。2時間近くも乗っていたら飽きるかと思ったが、新幹線と違い景色がすこぶるいい。これならランチ列車を走らせればいいのになどと思っていたら、駅で豪華車両とすれ違った。そうだよな。これも一度乗ってみたいな。一人で乗ってもなんだから、嫁か娘と乗りたいものだ。
しかし、今は目の前の問題を解決せねばならぬ。ランチに何を食べるのか?ガッツリでもいいのだが、何があるのか?ぼんやりとネットを見ていたら、とある料理が目についた。
十和田バラ焼き
そうだ。確か現れた直後にB級グランプリで優勝したやつだ。どんな料理かイマイチわからないが、いい機会ではないのか?十和田市内で食べられるようだが、中でも人気のある店はどこだ?さらに調べる。「司(つかさ)」ここか。よし、決めた。はちのへえき前のトヨタレンタカーで車を借りると、ナビに目的地をセットした。
十和田市内に入ってほどなく店は見つかった。商業施設なのか?その駐車場に屋台のように立つ店が司だ。時計はすでに13時を回っていたので、店内はそれほど混んでいないようだ。
屋台を模したカウンターの席に案内される。ランチメニューはシンプルだ。もちろん、ここは豚バラ焼きランチだ。りわばーちゃんのからし漬けも一緒に頂くことにする。
テーブルの上にはローズサイダーやローズソルト、日本酒「薔薇と酒の日々」など、薔薇を使った製品が数遠く並んでいる。店のスタッフに尋ねてみると、これはすべて「豚バラ焼き」と「薔薇」を掛けただけで、薔薇を使ってるわけではないとのこと。なるほど。なのでタレも「ベルサイユのバカったれ」な訳だ。
ほどなくしてバラ焼きの鍋が目の前にセットされた。中には玉ねぎと肉がのっている。スタッフが尋ねる。
「焼き方は分かりますか?」
初めて食べるのでわからないと告げると、スタッフが焼き始めた。
肉とタレの焦げる匂いが香ばしい。食欲をそそられる。こいつをごはんの上に豪快に載せて食べるのだ。箸で茶碗からがっつりと米と肉を取り、口に放り込む。
美味い。甘辛いタレがご飯と合う。肉は柔らかく、玉ねぎもほどよくしんなりとしている。
続けてきゅうりの辛子漬けをかじる。美味い。さっぱりしていて、食が進む。
お椀をすする。美味い。中身は味噌汁ではなく卵スープだ。
B級グランプリで優勝するのもわかる。というより、粉ものやカレーなどと明らかに一線を画している。屋台で買って、歩きながら食べるものではない。プレートにのせて、立ちながら食えるものでもない。これは料理だ。テーブルでも机でもちゃぶ台でもいい。座って、茶碗を持ち、箸でいただく食事だ。
気が付けば、ご飯をお代わりしていた。ふと、テーブルの上に一味があることに気付く。今さらだが、バラ焼きにかけてみる。ご飯と一緒に口に頬張る。おお!甘辛がピリ辛になって、二度おいしい!それだけじゃない。米がうまい。コメどころだし、水もきれいなところだ。
トンテキと真逆のバラ焼き。女性向けには薔薇焼き。青森の食は奥深い。家に帰ったら、家族で食べよう。きっと妻もけいたまも喜ぶはずだ。おうちごはんのレパートリーも増えて一石二鳥なのだ。夏の終わりを迎えた奥入瀬を目指す道中で、家に帰るのが楽しみになっていた。
バラ焼き大衆食堂 司
数年前に五十路となったバツイチ男性。昨日は沖縄、今日は北海道、明日は四国…出張三昧の日々、三年間で制覇した店は千店舗を超えた。日本全国及び海外での食事を記録したブログである。五十路とは本来「五十歳」を意味するが、現代社会では「50代」と誤った認識が定着している。それにあやかりブログのタイトルを名付けた。(詳しく読む…)