谷川米穀店 黄金の釜玉うどん

香川県まんのう町 谷川米穀店 ~黄金の釜玉うどん~

県境のうどん店はお米屋さん?

香川県が「うどん県」と名乗りだして何年目なんだろう。とにかく、香川県にはうどん店が多い。早朝から営業してる店や、昼間のランチタイムのみの短時間営業、中には二時間半で終わり、なんて店もある。基本は「セルフ」らしい。自分で麺を湯がいて、つゆを入れて、薬味も自分で切ったり下ろしたりする店もあるくらいだ。

高松市内にもいろいろうどん店がある。知人は「竹清」が一押しだという。ここは揚げたての天ぷらが出てくるそうだ。それでもうどんはセルフだとのこと。そこをあえて郊外のうどん店をネットで検索する。1件ヒット。「谷川米穀店」場所は徳島との県境。営業時間は11時~13時半のたった二時間半。売り切れごめんとなっている。これは行かねば。

丸亀から「まんのう町」に向かう。初夏や秋にはきれいなところなのだろう。土器川の景色を楽しみながら、山の中に入っていく。30分ほどで目的地に到着。カーナビによるとここなのだが、それらしき店は見当たらない。何台かの車が細い道に入っていくのが見えたので、もしやと思い付いていくと駐車場があった。平日の昼間、しかもこんな山の中なのに、10台以上停められる駐車場はほぼほぼ埋まっていた。車を降りて、坂道を下っていく。奥まった場所の民家が店で、看板も見当たらない。

これではわからないのも当然だ。

黄金の釜玉うどん

扉を開けると、カウンターがあり、うどんの食べ方が書いてある。

まずは注文を聴かれる。4つの質問に答えればいい。

「うどんですか?蕎麦ですか?」「うどん」
「温かいの?冷たいの?」「温かいの」
「大ですか?小ですか?」「大」
「生卵は入れますか?」「はい」

以上で注文は終わりだ。あとは待つのみ。店内はいっぱいで、席が空くまで待つための長椅子が壁際にあるが、待ちきれない人はそこでうどんを食べている。カウンターの奥でご主人らしき男性がうどんを打っている。手打ちだ。そのわきに大きな釜があり、ゆでたてうどんが出てくる仕組みだ。

「温かいうどん、大のかた~」と呼ばれて、カウンターに受け取りに行く。白いキャンバスに卵の黄身が映える。ネギに醤油、七味も少々入れ、あつあつのうどんをかき混ぜる。純白のうどんがみるみる黄金色に変わっていく。これはもうカルボナーラ、いや、卵かけごはんだ!一気にほうばる。讃岐うどん独特のコシがあるのに、釜揚げ独特のふんわりとした、もちもち感がたまらない。これは止まらない。箸が一気に進む。

うどんに酢を入れるなんて

そんな私に冷や水をかける言葉が聞こえた。

「お代わり、小のかた~」

私は周りを見回した。ぞくぞくと「お代わりの方~」と店のおばちゃんがうどんを出していく。しまった!ここは大のうどんを一気に食べるのではなく、小のうどんをお代わりして違う味を楽しむのが通なのか!なにごとも経験だ。なにごとも最初からうまくいわくわけではない。人間は失敗を繰り返して成長するものなのだ。冷静さを取り戻そうとした矢先、隣のおばちゃんがおもむろにうどんに酢を回しいれた。なに?!うどんに酢?!そんなことをする人間は、今までに陝西省の中国人しか見たことがない!私も酢を手に取って、うどんに回しいれた。その味は…微妙だった。なにごとも経験だ、なにごとも…以下同文。

中国人と鍋焼きうどん

20年近く前のこと、中国人5人と一緒に、東京から伊豆に旅行に行った。接待旅行だった。伊豆からの帰りの道中、確か小田原付近で鍋焼きうどんが食べたいという話になり、通りすがりの蕎麦屋に入った。全員が同じものを頼み、あつあつを頬ばるなか、一人だけ怪訝な顔をしていた中国人が言った。

「唐辛子と酢がほしい。」

唐辛子は七味があるとして、なぜに酢?アテンド係の中国人がいった。

「こいつ、陝西省の出身なんで、なんでも酸っぱ辛くないと食べれないんですよ!」

ホントに酢が必要なのか疑問もあったが、私は蕎麦屋の女将に頼んだ。

「すいません、酢をいただけますか?」

女将も不思議そうな顔をして、呑水(とんすい)に酢を入れて持ってきた。中国の酢はマイルドな黒酢だが、日本の酢は純度の高い穀物酢だ。彼はたっぷりと七味をかけた鍋に、迷うことなく酢をすべて投入。かきまぜてうどんをほおばり、一言。

「好吃!(おいしい)」

全員で手を振る。

「没有~(無い無い)」

一人の中国人が言った。

「誤解されたら困るけど、中国人がみんなこんな味覚してるわけじゃない。こいつは陝西人だから、なんでも酸っぱ辛くしてしまうだよ!」

私は思った。これって接待旅行だよな。もてなす相手をそんなにディスっていいものなのか?ま、いいや、本人が鍋焼きうどんうまいって言ってるから、気にしないでおこう。

黄金のうどんは、まるでカルボナーラ

食べ終えて、お勘定をする。うどん大280+たまご50円=330円。安い。店を出て、周囲を見渡す。小川のせせらぎが聞こえる、空気がうまい。店に入る前はうどんで頭がいっぱいで気づかなかった。こういうところで食べるうどんは格別にうまいな、と実感した。

中国人は正しかった?!

この店の正解は、まずはうどん小を頼む。そしてお代わりし、今度は唐辛子と酢を回しいれる。卵かけごはんをおかず無しで二杯食べるようなものだ。炭水化物のかたまりだ。おいしいけど、こんな食事していたらだめだ。体に悪い。香川県が糖尿病による死亡者数が全国3位、患者数を示す受療率は同2位と“糖尿病ワースト県”としても知られるだけある。

ああ、そうか!

突然、脳裏に閃きが走った。

釜玉うどんのグラデーション

酢をいれて微妙な味になったのは、辛さが足りないからだ!名物の唐辛子の佃煮を加えなければいけなかったんだ。陝西省の中国人がやっていたではないか。うどんを酸っぱ辛くして食べるのは中国人だけじゃなかったんだ、日本でも行われていたんだ。私は自分の経験からなにを学んできたんだ?

私は自分の愚かさに愕然とした。うどんを100%味わうことができなかったことに落胆した。さすが、麺の本場である中国の、さらに本場と言われる陝西省。いつかもう一度この店に来て、今度こそは完璧に味わってやると、心に誓うのだった。

谷川米穀店

住所:〒776-0203 香川県仲多度郡まんのう町川東1490
電話 : 0877-84-2409
定休日:毎週日曜日 ※不定期での定休あり
営業時間:11:00頃〜13:00頃まで ※売切しだい終了

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