更科蕎麦

豊水すすきの駅 東家本店 もりそばとミニ海老天丼セット

白い蕎麦が食べたい

昨晩は火鍋を食べた。ならばランチは肉以外がいいだろう。ホテルのある豊水すすきの駅近くの店をネットで検索する。一軒そば屋がすぐ近くにあると言う。

ほう、白いやつだと?
連邦軍の新型か?

そうではない。更科だ。細くて白い、繊細な味わいの蕎麦だ。それは食べたい。ぜひ味わいたい。ホテルをチェックアウトし、75リットルの巨大なスーツケースの上に、重さ7kgのパソコンバッグを載せて、目的地に向かって歩く。

たどり着いた店は、中二階に店があるのか。十段もない階段だが、75リットルのスーツケースを持って上るのは、なかなかの荒行である。だが、これを登り詰めなければランチにはありつけない。登り切った先には新しい風景が見えるに違いない。なぜ階段を上るのか?と問われれば私は即座に答えるだろう。そこに店があるからだ、と。

登り切った先にあったものは、斬新なメニュー案内だった。「かに天ざる」がいかにも北海道らしい。「かしわぬき」はカシワ(=鳥肉)を抜いた蕎麦ではなく、鶏肉を入れて、蕎麦を抜いた、つまり鳥スープのことである。北海道の名物らしい。飲んだ後にはいいだろうが、ランチにはありえない選択肢だ。ちなみに肉には下記のような別名がある。

  • かしわ=鳥肉
  • もみじ=鹿肉
  • ぼたん=猪肉
  • さくら=馬肉

東家本店

店内にはカウンター席とお座敷、テーブル席がある。おひとり様なので、問答無用でカウンター席に案内された。

初代が釧路の竹老園から暖簾分けされて、二代目がすすきのに店を開いたのか。道理で釧路名物のカシワ抜きがメニューにあるわけだ。竹老園にはまだ訪れたことがないが、いずれ食べることになるだろう。沖縄本島に住む私にとって、釧路は宮古島よりはるかに近い。それくらい、北海道に来る頻度が高いのだ。

さて、何を食べようか。

冷たい蕎麦を食べるには違いないが、ぶっかけではなく盛りを食べてみたい。だが、せっかくのランチ。1日一回だけのガッツリ炭水化物を許された食事。蕎麦だけでは物足りない。やはり丼とセットが食べたい。

「つる。」

私より後に入ってきた客が店員に告げた。つる?メニューを見返してみる。

これか。「エビ小天丼ともりそば」のセット。うん、これにしよう。私も店員に「つる」と告げた。

告げたそばから後悔の念が湧き上がってきた。蕎麦だけに。違う。なぜエビを頼んだのか。むしろ、ここはホタテであろう。入船セットであろう。エビなんざ輸入もののブラックタイガーに決まっている。ホタテなら道産に違いない。それをなぜに?

いや、常連客らしき人間のチョイスだ。それに私が食べたいのは蕎麦であって、道産海産物ではない。目的と手段は分けて考えなければなければ、戦略レベルでは正しくで戦術レベルで間違いを犯すというものだ。落ち着くんだ。私は間違っていない。己に言い聞かせながら蕎麦が来るのを待つ。

なかなか来ない。

店内になぜか鐘の音が響く。正午だ。オーダーしてから10分以上過ぎている。心穏やかに待つしかあるまい。更科蕎麦のうんちくでも読むことにするか。

もりそばとミニ海老天丼セット

13分後、ようやく私のつるセットが運ばれてきた。

白くキラキラに輝くまごうことなき更科そば。これを少し辛口のつゆにつけてすする。香りと食感を軽く楽しんだのちに飲み込む。蕎麦が咽頭から食道を通り抜けて胃に達していく。香りよく、のどごし滑らか、しっかりとしたコシもある。

ああ、美味い。

天丼はご飯熱々。コメも美味い。ほんのり甘めの天丼のタレと、厚めに切られた薄味のたくあんとがあまじょっぱいループを形成する。これはこれで美味い。天ぷらは海苔とイカとエビ。衣は少々厚めだが、ご飯の熱でふやけてしまっている。

ここでふと気づいた。おしぼりがない。隣の客の蕎麦を見る。なるほど、セットではないざる蕎麦は、私のよりも、せいろがふた回りほど大きい。店内は年配の一人客が多数派である。

更科蕎麦と天丼を堪能したのちは、蕎麦湯を飲む。上品なスープだ。

とりあえず満足。北海道でしか味わえない白い蕎麦。道外では本当に少ない。醍醐蕎麦と称する店もあるくらいだ。札幌市内に美味しい蕎麦店は郊外に多いように感じるが、すすきのでこんな蕎麦が食べられるなんて、素晴らしい。今後も訪れることまちがいない。いずれ「かしわぬき」と「もり蕎麦」を食べてみよう。

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