長崎県島原市 姫松屋 具雑煮

長崎県島原市 姫松屋 具雑煮おすすめ膳【殿膳】

ぶらり一人旅

仕事で訪れた島原であるが、午後に少々時間が空いた。ホテルを出て食事に向かう。13時04分発の電車で街の中心地に向かおうとして、シーサイドホテルを出た。数分歩くと島原外港。明日の空港行きのバス乗り場を確認しようとしたところ、諫早行きのバスが停まっていた。運転手に確認すると島原を通ると言う。駅まで行かずに、一時まで待たずに、移動できそうだ。バスで街に向かうことにした。

バスの入口にはICカード用の端末があるのだが、Suicaは使えないと言う。整理券を取り、五百円玉を両替しておく。

商工会議所前でバスを降りる。さて、何を食べようか。私の目的は具雑煮である。この地の伝統料理だ。街を歩くと水が多いことに気づく。錦鯉が泳いでいる。綺麗な水流に背中の柄が映えて美しい。地元食のかんざらしを供す店がいくつもある。まるで昭和だが、建物は古くない。風情あふれる和の情緒だ。

で、何を食うのだ、私は?

具雑煮 姫松屋

食を求めて街をさまよううちにパラパラと雨が降ってきた。傘は持っていない。天気予報では晴れとなっていたし、先ほどまで日差しがあった。そんな私の目の前に現れたのは一軒の店。ふらりと入ったのは「姫松屋」であった。

メニュー

階段を上がるとメニューを確認。ドアを開けて店に入る。店の奥に位置する、お一人席に案内された。本当に一人しか座れないテーブル席である。個人的にはとても嬉しい。

さて!何を食べようか。うどんやそばもおいてある。

いやいや、何のためにこの店に入ったのか、目的を思い出せ。かつ丼の三文字に心を惑わせられてはならない。具雑煮だ。

色々とあるが、こんな時は素直にオススメにしたがうのが経験上、良しである。殿膳をいただくことにしよう。

店内

店内には名水百選の島原の水をセルフで飲むことができる。飲んでみる。確かに水道水ではない。クセのないまろやかな水だ。お茶も美味い訳だ。この名水から作られる素麺はこの地の一大産業なのだ。

西暦1803年にこの地で生み出された具雑煮、モデルはそれより160年をさかのぼる島原の乱にあるとのことだ。餅と海山の幸を兵糧として三ヶ月もの間、信徒たちと籠城し、戦ったと言う。そこからヒントを得て生み出されたのが具雑煮。二百年の伝統を味あわせてもらおうではないか。

具雑煮おすすめ膳【殿膳】

年配の女性がお盆を運んできた。

「熱いので気をつけてくださいね。フタはおしぼりで取ってください。」

言われた通り、おしぼりを使ってフタを取る。閉じ込められていた匂いと湯気が解放されて立ち上ってくる。

ああ、ホッとする香りだ。

まずはレンゲでスープすくい、飲んでみる。

ああ、懐かしい味だ。

カツオの出汁が効いた鶏肉が香るスープは、我が家の雑煮と同じ味わいなのだ。嬉しい。薄く切った高野豆腐、レンコン、しいたけ、丸もち、鶏肉、春菊、油揚げ、かまぼこ、ちくわ、焼き穴子、白菜にゴボウ。名の通り、具沢山だ。

茎わかめと大豆の煮物は、ほんのり甘い味付けがいい。一般的にはヒジキを使うところである。しかも美味い。優しい味だ。ここ島原は茎わかめの産地でもある。

南蛮漬けはイワシだろうか、骨まで柔らかく、酸味は控えめ、脂ののった魚のみとの味のバランスがびっちりだ。ご飯に合う。

刺身はカンパチだ。これは鹿児島県出水市でも食べたことがある。新鮮な活〆のカンパチの身は、身がしまってコリッコリとした感触なのだ。トントロにも似た、いや、もっと固い。鶏軟骨に近いかもしれない。東京では食べられない一品がさらっと出てくるあたりに、長崎が魚介の産地であることをうかがわせる。

野菜たっぷりの具沢山、昨日の牛肉重とは対照的な料理だ。片やしっかりと肉とご飯を味わう料理、対して肉と野菜、餅とバランスよく具材を使った200年以上続く郷土食。

ここで具雑煮に一味を投入。絡みと刺激が加わった雑煮はおとなしい優しい味から情熱的な味に一変する。食欲を刺激される。じんわりと胃が熱くなる。汗で頭がかゆくなる。雑煮がおかずへと変貌したのだ。ご飯との相性もバッチリ。漬物がいい箸休めになる。フィニッシュへ向けてペースが上がる。一気に食べ尽くすのである。

ごちそうさま

満足じゃ。

本音を言えば、一味よりも七味で食べたかった。香りがより複雑に、豊かになり具雑煮の潜在能力をより引き出せたと思うのだが、残念だ。おまけにつまようじが見当たらない。お盆を運んできた年配の女性につまようじをお願いする。

「上にありますよ。」

上?

仕切りの上の鎮座するは、お手製の包装に包まれたつまようじと七味!

なんだこれ?

普通、飯を食いながらこんなところに視線をやらないよ。なんだよ、七味まであるじゃないか。「七味は上にあります」とか、貼り紙してくれよ…とほほ。

仕方がない、私が悪いということなのだろう。一見客が受ける洗礼なのだろう。

まあいい。

次回来る機会があれば、こんどは七味で食べてやる。

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