レストラン アルバ
以前も昼から会議をやるのはどうかと思ったが、今回もだ。しかも、弁当すらない。設営側に確認したから間違いない。主催者代表は、ブランチに食べた豪華海鮮丼を、先ほどすべてトイレで吐いたと挨拶で話していた。
なんやねん、それ。
つまりだ、日程を決める権利を持つ主催者代表は、朝はあらかた二日酔いなので、起きるのも遅ければ、朝飯も食べない。むしろ昼まで待てないので、ブランチを食べるのが主流なのだろう。そうであれば、昼からの会議も問題ない。
そういうことか。
しかし私は諦めない。隙を見てメシを食ってやる。こちとら、朝飯はロイヤルホストのカレーだったんじゃ。
昼から会議が始まる。前回は重い会議の後にライトなディスカッションであったが、今回は逆だ。その上、早く終わったので、30分の空きができた。
今だ、チャンスだ、ブレストファイヤー!
ホテルの周りに飲食店は見当たらない。いや、私の眼前にはホテルのレストランがあるではないか。
「あそこでコーヒーでも飲みましょう。ご飯も食べれますよ。」
前回も飯に付き合ってくれた山根氏が声をかけてくれた。アルバに突撃なのだ。
メニュー
さて、何を食べようか。メニューを見る。うーん、どれにしようか、迷っている場合ではない。一般的に時間がない時の強い味方はカレーであるが、二食続けて食べるほど酔狂ではない。外国人であろうスタッフに何が早いか尋ねてみる。
ナポリタンを勧められる。
うーむ、長崎らしさが微塵も感じられないメニューだ。せめてチャポリタンにならないのか。想像で作ってみただけなので、本物を見たことすらない料理なのだ。
却下である。
他に何か無いのか尋ねると、厨房に聞いてみると言う。その答えはいかに?!
「長崎和牛重ならすぐできるそうです。」
海を見ながら和牛重。シチュエーションを無視した斬新な提案だ。もうヤケだ。時間もないので、仕方なく食べることにした。
長崎和牛重
長崎和牛とは、長崎県内の半島や離島で肥育された牛肉の総称である。スタッフの説明に嘘はなかった。ものの数分で長崎和牛重が運ばれてきた。木の芽の香りがいい。
これだけの脂身なのにあっさりしている。臭みがない。すき焼き風ではない。調味料に頼ることなく、長崎和牛が持つ脂本来のコクと甘みを活かし、塩味で肉の旨味を引き出している。
時間がない上にトイレに行きたい。小便を我慢しながら、急ぎ食べる食事ははっきり言って苦痛だ。なんの罰ゲームだ。立ち食い蕎麦ならともかく、長崎和牛だぞ。ゆったりと食べてしっかりと味わうべき一品だぞ。それが何でかっこむように食べなければならないのだ。ああ、膀胱がやばくなってきた。このままでは、そう遠くない未来に限界が訪れそうだ。
いや、和牛重なのだ。じっくりと堪能せずにいられようか。添えられた温泉たまごをお重に入れ、軽く牛肉と混ぜ合わす。ごはんと一緒にさじですくい、口に入れる。
おお!
肉の旨味、玉子の母性的な甘みに脂の官能的な甘みを、塩味が引き立てる。牛肉の下には、きのこの滑らかな食感と香り。これらすべてを優しく受け止めるのは固めにたかれた白いご飯だ。ほんわりと一つにまとめ上げながら、噛むうちにだんだんと食道に送られ、後ろ髪を惹かれるような後味が余韻のように残る。
ああ、なんと官能的な味わいなのだろうか。
あ、限界。暴行の刺激が私を一気に現実に引きずり戻す。生理的現象から逃げることは不可能なのだ。なんとか15分で食事を終えると、ゆったりとコーヒーを飲む山根氏を横目に、トイレに駆け込んで、事なきを得たのだった。
食事の前にトイレに行けばよかった。
数年前に五十路となったバツイチ男性。昨日は沖縄、今日は北海道、明日は四国…出張三昧の日々、三年間で制覇した店は千店舗を超えた。日本全国及び海外での食事を記録したブログである。五十路とは本来「五十歳」を意味するが、現代社会では「50代」と誤った認識が定着している。それにあやかりブログのタイトルを名付けた。(詳しく読む…)