しれとこ味里 海鮮祭り寿司丼

北海道 斜里駅 しれとこ味里(みさと)海鮮祭り寿司丼

異常気象

五月下旬のこの日、北海道網走郡美幌町のホテルを午前十時に出た。ムワッとする、沖縄にも似たような陽気だ。気温は28度。梅雨入りした沖縄の方が気温が低い。帰りの飛行機が午後便のために、空いた時間でどこかに行こうと考えていたら、滝川に住む知人がランチに付き合ってくれるという。彼の車で斜里まで行くことにした。

美幌から斜里までは車で一時間ほど。なんとなく知床の方に行ってみようかと、特にあてがあるわけでもなく向かった。途中は多少の高低差はあれど、ほとんど平原である。原野、畑、牧場。車内の温度計は外気温32度を表示していた。

「これさ、壊れてない?」

知人に尋ねた。

「いや、この温度計ね、意外と正確。」

だとしても、五月下旬の北海道、しかもオホーツク、夏でも肌寒い網走地域である。32度はおかしい。温度計が正確なのだとしたら、気温そのものがおかしい。よもや今、我々がいるこの空間は、実はタイムスリップして、二百年後の温暖化が進んだ未来にいるのではないだろうか。先ほどからFMラジオも途切れている。携帯のアンテナもレベル0だ。変な汗も出てきた。運転している知人が言った。

「やっぱり田舎は電波が入らないさ。エアコンの効きが悪いなあ。ガスが抜けたかい?」

そういうことか。

いやいやいや、だから気温がおかしいって。34度って表示されてるよ。

道の駅のレストラン

出発前に海鮮丼が食べたいと意見がまとまっていたので、目的地は「道の駅しゃり」に併設されているレストランに定めていた。その名も「知床キッチン熊湖」。くまこ、と読むのだろうか。

メニューも充実してそうだ。外国人観光客も少なくないのだろう。英語表記も併記してある。魚料理だけでなく、肉料理も豊富だ。

ところで、一般的に、道の駅が一番忙しい曜日はいつかと尋ねられれば、百人中百人が日曜日と答えるだろう。土曜日と答える人もいるかもしれないが、日曜日がヒマだと考える人は皆無だと思う。

つまり日曜日が定休日の道の駅は存在しないはずであろう。

それがどうだ。この店は。

日曜日が休業日。平日の営業時間が夜10時まで。つまり、地元客しか来ない道の駅ってことなのか。

なんだ、そりゃ?

隣の建物、道の駅に向かう。中に観光協会があったので、近くに飲食店がないか尋ねてみた。担当者がカウンターの奥からクリアファイルを持ってきた。近隣に位置する飲食店の出前表だ。メニューだ。パラパラめくりながら、日曜日に営業している店を教えてくれたのだが、一軒のみ。徒歩5分くらいのところにある鮨屋だ。知人と車に乗り込み、店に向かった。

うーん…なんだか食欲が湧かない店だ。これだけ腹が減っているのに、行く気にならない。思い切って国道まで出てみることにした。大きな交差点のあたりにいくつかの店があるようなのだ。

早速みつけた一軒目、昼間は営業していない。二軒目、ピザは食いたかない。三軒目、海鮮料理だが、あきらかにつぶれてから数年は経っている。

なかなか店が見つからない。

走り回るうちになんとか一軒の店を確保した。よかった。ご飯が食べれる。

しれとこ味里(みさと)

たどり着いた店の入口には「海鮮丼」と大書されていた。名物メニューもあるらしい。しかし暑い。北海道らしからぬ気候に、体力を吸い取られていきそうな気がする。

世界に一つしかない知床の味と書かれたメニューには、やたらでかいつぶ貝のかき揚げに銀ガレイみそ焼き。いわゆるカラスカレイをこちらでは銀ガレイと呼ぶ。三陸あたりでも獲れる魚で、かなり美味らしい。ギンムツよりも美味いのだろうか。さくらますルイベも定番なのだろう。どちらかと言えば、富山の鱒寿司のほうが有名な気もする。とにかく暑いので、さっさと店に入ることにした。

店内に入ると、まずは数多くの色紙が目に入る。例によってよく分らん…まいうー?石塚英彦、最近テレビで見なくなったような…私がテレビを見ていないだけだろうか。出張中のホテルでは、テレビをつけることがほとんどないくらいだ。吉幾三に出川哲郎くらいは知っている。なかなかいろんな人が来ているのだな。

さらに中に進むと、お土産コーナーが出現した。銀ガレイにホッケ、サクラマス、キンキにつぶ貝などなど。ときしらずも販売している。

お土産コーナーを過ぎたあたりのテーブル席に案内された。店内は暗い。窓から明かりが入ってきているのだが、ちょうど店の中央部にあたる上に、照明も控えめなので、かなり暗いので、これで写真が撮れるのか、少々不安になる。

メニュー

対面に座った知人とメニューを見比べる。

海鮮丼もいろいろとあるのだな。北海道でももずくが採れるのに驚く。サクラマスルイベ漬け丼にも惹かれるのだが…次のメニューを見てみよう。

つぶのかき揚げが名物とのことだが、あまりのでかさに躊躇する。昔、留萌で食べた、冗談みたいなかき揚げがトラウマになっているのだ。

平成23年春、北海道留萌で食べたかき揚げ丼

斜里と言えば、知床の入口である。ここまできて肉のどんぶりを食べるのは、魚が嫌いな人間か地元民くらいだろうから、次のメニューに移る。

これはこれで魅力的である。ほっけを除いて美味そうである。子どもの頃、北海道出身の母のもとに、毎年、大量のほっけ、ジャガイモ、とうきび(とうもろこし)に少量の筋子が北海道から送られてきた。筋子は大好きだったのだが、ホッケはすっかり嫌になってしまった。カツオの刺身もやたらと食わされて嫌いになったが、大人になって克服した。だが、ホッケはいまだに食べる気がしない。

蕎麦も好きではあるが、ここまで来て食べるものでもないだろう。蕎麦を食べる気ならば、美幌から近い、北見の更來に向かったところだ。結局、二人とも海鮮祭り寿司丼を食べることにした。

海鮮祭り寿司丼

待つこと10分ほど。海鮮祭り寿司丼が運ばれてきた。ちらし桶にぎっしりと海鮮が詰まっている。これはなかなかすごい。見た目にもカラフルで美しい。

食べやすいようにダイス状に切り分けられた各種ネタ。宝石のように散りばめられたいくら。シャリは酸味控えめ、酢飯の感じがあまりしない。たっぷりの練りわさびを小皿で醤油に溶き、刺身に回しかける。ウニにはかけない。

脂ののった甘い魚の身とウニ、塩気の効いたいくらとの甘いしょっぱいループが回り始める。ネタがなくなるまで箸が止まらない。

刺身、いくら、ウニ、いくら、北海道ならでは鮮度の高い、そして熟成された、極上の海の幸。甘いもしょっぱいもしっかりと受け止めるシャリ。最初に一言「美味いねぇ」と言ったきり、押し黙る五十路のおっさんが二人。ただただ喰らう。マシンのようにどんぶりを侵食していく。そう、二人ともまさにバーサーカーと化し、祭り寿司をたいらげていくのだ。

至福の時間はいつも刹那だ。五十路の胃袋もかなりきつめだ。ランチを求めて北の大地をさまよい、たどり着いた先で見つけた海の宝石箱が空になり、胃も心も満たされた。ああ、美味かった。では、女満別空港までよろしくねと知人に告げ、会計を済ませて店を出た。

やはり暑い。異常気象だ。地球は大丈夫なのだろうか。この日、日本全国で最高気温を記録したのがこのあたりだった。

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