油食来 自家製つくね

宮城県仙台市国分町 油食来 つくねと串揚げ

油食来(オイルショック)

この店を訪れるのは平成23年7月以来、実に8年ぶりである。そのときは、入店した時間が確か深夜2時過ぎ。10名ほどの団体で入ったと記憶している。さらに、全員がほぼほぼへべれけであった。その時に店のオーナーから聞いた話が印象的だったので今でも覚えている。ここはハイボール酒場だが、あるコード濃度は3%に調整されている。これは機械が自動的に測ってジョッキにそそぐとのことだ。

なぜに3%なのか?すぐに酔わず、かと言って酔い覚めすることもなく、だらだらと飲めてほろ酔いが続くので、店としては美味しいとのことであった。3%という濃度は、サントリーが研究の末にたどり着いた値とのことだった。そのときもここで串揚げを食べ、からっとあがった衣、一工夫されたネタに舌鼓を打った。なので機会があればいつか訪れたいと、かねてより思っていたのだ。

金曜日の夜9時過ぎ、中年男性2名で店を訪ねると、店内はほぼ満席だった。入口のすぐ手前に、6人がけのテーブルが見える。ドアを開けて店に入る。若い女性のスタッフがすぐに近づいてきた。

「すいません、今、満席なんです。10分ほどで席を用意しますので、お待ちください。」

手前のすぐそこの席が空いてるのに10分もかかるのだろうか。2人で顔見合わせていると、3分ほどで準備が整い、再び店の戸が開き、女性が我々に声をかけてきた。この女性は千葉ちゃんといい、年齢は伏せておく。オーナーの右腕として、5年は働いているということだ。

席に着き、まずはドリンクをオーダーする。私は角ハイボール、ツレは芋焼酎水割りだ。注文した直後にメガハイボールがあることに気づいた。これはいい。お得なだけではない、何度も注文する手間がはぶける。そこで千葉さんを再度呼びつけ、注文をメガハイボールに変更できるかを尋ねると問題ないと言う。連れもつられて芋水をメガハイボールにしたのであった。

メニュー

さて何を食べようか。相変わらずメニューは豊富なようだ。最初は当店のこだわりである。

冬のおすすめメニュー。いろいろと工夫を凝らした料理がリスティングされている。二軒目の我々としては、せっかくの串揚げ屋である。オーソドックスなものを食したいところだ。

なので当然、第一候補は串揚げだ。なんとなくアスパラ。春から初夏が旬の素材をこんな季節はずれに食べるのはいかがなものかと思いつつ、食べたいものは食べたい、理性が効かない五十路の酔っ払いは、3歳児と何ら変わらない。食べたいなぁ。いやだ。食べる。まっこと三歳児じゃき。もうすぐ4歳になる娘のけいたまを怒る資格など、今の私にはあるべくも無い。

そして豚バラ、忘れてちゃならない紅しょうが。深夜食堂じゃあるまいしと思いつつも、それほど美味いわけではないのに、なぜかあのショウガの刺激がたまらず、少しずつかじりながら酒を飲むのだ。メニューにあれば食べたくなるのだ。抑えが効かない五十路体の酔っ払いはけいたまのことなど…以下同文。

焼きとんとつくね串。バラは先ほどチョイスしたので、あとは不要だ。つくねは食べたい。自家製つくねをオーダーしよう、ときっとこのときは考えたのであろう。

料理

お通し

まずはお通した。ショート野菜スティック。みずみずしい。まさに今、私の本能が、身体が求めているのが生野菜である。

待てよ?

なぜ、この店は私が頼みもしない生野菜が、私自身ですら気づかなかったにも関わらず、一番食べたいものだと知っていたのだろうか。まさか、私の思考回路がどこかで読まれているのだろうか。アメリカと中国から流出した軍事技術を駆使した特殊カメラとセンサーが店内に仕掛けられていて、客の動向をクラウドAIで分析し、解析するためにビッグデータとしてどこかに送信されている。この店はそんな秘密機関が営むアンテナショップ…なんてことは無いだろうと思いたい。

は?まさか5年前から潜入、いや働きだした千葉ちゃんはCIA…いやいや若い女性を使うのはむしろ中共…やめておこう。世の中には知らなくてもいいことがたくさんある。知り過ぎて死んだ人間も山ほどいるのだ。

もちろん何もつけずに食べる。野菜それぞれの、素材の真実をしっかりと感じることができるのは、新鮮でみずみずしい野菜でこそ、なせる味わいである。

自家製つくね

スマホに画像は残されているが、注文した覚えも食べた記憶もない。つくね以外は詳細にメモが残されているのだが、これだけまるでミッシングリンクのようにすべてが抜け落ちている。おそらくは美味かったのであろう。

アスパラと豚バラ

串揚げを入れたバットと共に千葉ちゃんが持ってきたのは大きな金属製のボックス。もしや箱の中にはMP3プレイヤーが置かれていて、ふたを開けた瞬間に再生された音声データが、命の保証のないコマンドを我々に与えたのちに破裂して自動的に消滅したりするのだろうかと身構えたが、千葉ちゃんがふたを開けた箱の中には、茶色い液体が悠然とたゆたうだけであった。いわゆる「二度漬け禁止」である。串揚げ用のソースである。

地理的にも大阪に近い連れの香川県民は、躊躇なく茶色い液体に串揚げを沈めた。私は表層部分だけを串にちょこっとつける。そのまま食べれば塩分ゼロだが、いくらなんでも、串揚げをソースを漬けないなどと、まさにエヴァ初号機をダミープラグで動かすかのような、そんな神をも恐れぬ所業を実行する勇気も決断力も私にはない。

アスパラは小気味よくコリコリとした食感、確かに生のアスパラだ。小ぶりだが、噛めばしっかりとした味わいが溢れている。これがパン粉に染みた米油のさっぱりとした甘みと風味が混ざり合い、ソースがしっかりと下支えする。この時期だ、アスパラは間違いなく輸入ものであろう。だが、私は別に輸入物をものをすべて否定するわけではない。なにもかも日本製が優れているとは限らない。

実際、小麦粉は日本産だとグルテンが少なすぎて、特に麺料理には向かないと言う。むしろ天ぷらには向いているということか。輸入小麦粉の何が問題かと言えば、ポストハーベストだ。製粉済の小麦粉に農薬を混ぜる、それが輸入小麦粉の実態だ。他国では禁止されている禁断の荒技が、日本向けの小麦粉にだけはなぜか許可されている。

ポストハーベストされた小麦粉では、どんなに大量な虫が混入したところで、三日間ですべて死に耐えると言う、まさに強毒性の白い粉だ。これを我々日本人は何も知らずに食べさせられているのだ。この話を妻にしてからというもの、国産小麦を使用したオキコパン五枚切りしか食べなくなってしまった。

豚バラは三枚肉の塊をとんかつにしてもおいしいとは思えないが、薄めに小さくカットする串揚げだからこそ、まるでロースカツのような脂と肉のいいとこ取りを味わうことができる。

紅ショウガ

ハイボールがなくなった、手を挙げて店員を呼ぶ。以前に比べて店は倍の広さになっている。繁盛してるんだろう。もちろんスタッフも複数いるのだが、我々に気づいたのは一番遠くにいた千葉さんだった。彼女が急ぎ足で我々のテーブルまで来た。メガジョッキ2つ。笑顔で彼女が注文に答えた。

そして紅ショウガ。こいつを一口で食べると地獄を見ることになる。少しずつかじれば生姜の香りが食欲を刺激し酒が進む。まさに毒にも薬にもなると言うやつである。そんな性格の人物もたまにいる。あー、考えてみたら自分がそうだった。

梅水晶

香川県からやってきた連れの坂出市民が、どうしても梅水晶を食べたいと言う。瀬戸内の民には欠かせない酒のつまみだと主張する。そうなのだろうか。私も梅水晶は嫌いではない。だが、こいつには塩分がたっぷりと入っている。かつては毎日一個ずつ食べていた梅干しを、塩を控えるようになってからはほとんど口にしなくなった。いや、まったく口にしていない。仕方がない。だが今宵は宴だ。酒の席で、梅水晶は塩分が多いから食べないなどと言う話は無粋である。たまに食べると、梅の酸味と軟骨の食感の組み合わせが酒のつまみに最適だ。

トマトスライス

一通り食べたところで、もう少し生野菜を食べたくなった。メニューを見る。トマトがある。よし、これにしよう。「いいですね。」坂出市民も同意した。再び店の中心に向かって手を挙げる、やはり一番遠くにいた千葉ちゃんが我々に気づいて、走って近づいてきた。まさか彼女は私のようなオヤジがタイプなのだろうか…違う、やはり我々は特殊機関にマークされているのだろうか。そうでなければ毎回、遠くから走り取ってくる理由が分からない。

「すいません、トマトスライスください。」

私の問いかけに、千葉ちゃんが少し困った顔をした。

「えー、あの…うちのはスライスではないんですけども。」

問題ない。生のトマトが切ってあるやつだったらそれでいいのだ。

「はいそれです!」

千葉ちゃんが満面の笑顔で答えた。いや、私は騙されないぞ、〇〇の手先だということは分かっているのだ。

トマトはスライスではなく串切りだった。しかも甘い。理想的である。これで300円は安い。今春以来、トマトの店頭価格が高止まりしている。1個150円などと言うのもザラである。3個で四百円、一袋五百円ではとても手が出ない。そんなトマトを店で食べれば300円でも安いと感じるこのパラドックス。人間とはなんと罪深い生き物なのであろうか。

自慢の一品メニュー

さて、串揚げも飽きた。なにか他に食べるものはないだろうか。メニューをチェックする。ほう、自慢の一品か。JAPANXとはX-JAPANとは何ら関係ないのだろう。資料によれば下記の通りだ。

  1. 宮城蔵王の美味い豚!
  2. 無菌!新鮮!安心の豚肉!
  3. 肉質やわらか、脂身も美味!

結論=美味い!

なんら定量的定性的データも示さずに、美味いだの安心だの無菌だのとは、ずいぶんと雑な説明である。そもそも加熱して食べるのに無菌である必要は無かろう。まあ、食べれば見れば分かることだ。

ならば、食わせてもらおうか、JAPANXの焼きメンチカツとやらを。

JALANXの焼きメンチカツ

これまたでかい。焼メンチと名乗るだけあって鉄板に載っている。たっぷりとソースがかかったメンチカツから、ソースがかかっていない非汚染地帯をハシで切り離していただくことにする。減塩中だから当然だ。もちろん付け合わせのキャベツは食べる。大きなメンチカツだが衣は厚くない。熱々のメンチカツを噛むごとに、ジューシーなひき肉から肉汁と脂があふれてくる。味わいと香りが広がる。付け合わせのキャベツは口の中をさっぱりとさせてくれる。個人的にはもっともっと薄く薄くスライスされたキャベツのほうがおいしいと思う。だが、出されたものは黙って食べるしかない。まあ、このぶつ切りのキャベツもまあまあいける。

串揚げもお勧めも生野菜も十分に堪能できた。余は満足じゃ。連れに電話がかかってきた。え?国分町で飲んでる団体から呼び出しがかかったって?仕方がない、顔を出しに行きますか。

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