仙台駅地下 浅草軒
仙台駅には駅ビル「エスパル」がある。本日のランチはここで食べようと決めていたが、どの店にするかまでは考えていなかった。多数の飲食店があるのだから、それほど悩むこともないだろうと思ったのだ。
案の定、すぐに候補が定まった。一軒の店の前を通りかかったときに、店頭の鉄鍋ビーフシチューピラフに惹かれた。
ふむ、ここにするか。
店に入るとテーブル席に案内された。さて、何を食べようか。メニューを一瞥する。
ハンバーグも捨てがたい。両方食べられる欲張りメニューもある。
いやいや、それならいっそ全部ありの欲張り御膳という手で行くのも。厚切りポークジンジャーの鉄鍋ピラフも魅力的だ。
どうしよう。
どうしよう。
厚切りポークソテー御膳にしよう。注文を取りに来たスタッフに塩抜きにできるか尋ねると無理だと言う。
はあ、仕方がない。
店内には肉の焼ける香ばしい匂いが漂っている。これはステーキだな、今度はハンバーグだと、食欲がを刺激を容赦なく掻き立てる香りを嗅ぎ分けながら空腹を紛らわす。
早く来い来いポークソテー。
スタッフがデシャップからお盆を受け取るたびに、次こそ私の御前ではないかと期待が高まる。
ああ、私の前に入った三人組のであったか。あちらも厚切りポークソテー御膳をオーダーしていた。私も早くありつきたい。
だが、この後に私を待ち受けていた現実によって奈落の底に落とされるとは、1ミリも予想できなかった。
厚切りポークソテー御膳
ようやく私の御前が運ばれてきた。
味噌汁はしょっぱいだけ。出汁がまったく効いていない。飲めたものではない。
サラダはドレッシングをかけ過ぎだ。少ししょっぱい。ニンニクチップが硬くて砂利を噛んでいるようだ。もう少し食感を考えて欲しい。
そして厚切りポークソテー。
え?
マジで?
これって厚切りなの?なんでこんなに貧弱なの??厚みがバラバラなの??食べてみると肉質はいい。きめ細かな舌触り、とても柔らかい。箸で切れるくらいだ。
しかし味がしない。
肉の旨みをわずかしか感じられない。胡椒が効いているが、味付け自体は甘いのが辛いのか中途半端で、素材の魅力を引き出せていない。小麦粉を表面につけて焼いたものの、汁を吸ってゲル状になりベタベタ。カリカリでなくてどうするの?
おまけにこのキャベツはなに?パサパサで味気ない。若干の変な匂いもする。メニューの写真よりも不味そうで、量もはるかに少ない。
業務用のキャベツスライスだろう。何度も何度も丹念に水洗いするために色つやが悪くなり、乾燥し、味がなくなるのだ。
隣の客の鉄鍋が運ばれてきた。厚切りポークジンジャーの鉄鍋ピラフだ。
え?
なんで?
私は目を疑った。隣の客のピラフは明らかに厚切りだ。美味そうだ。隣の芝生は青く見える訳ではない。実際に青いのだ。なんだ、この差は?
きっちりと一枚肉を幅広にカットされている。
対して私のソテーはまるで切り落としをソテーしたような乱雑な盛りかたである。
付け合わせのパスタが多すぎる。塩っぱいし食べきれない。フライドポテトはまだマシだが、やはり少し塩気がきつい。
最後の一切れ、唯一の厚切り肉を食べる。食べてみると半分が脂身だ。肉の味が刹那もない。だから厚いのか。ひどい。
ご飯はうまかった。漬物もまあまあだ。ただ、塩分を控えている私は味見程度にしか食べられない。結局、漬物と味噌汁、パスタのほとんどを残して終了である。
ああ、鉄鍋ピラフシリーズにするべきだった。
ごちそうさま
まともな料理が来ればきっと旨いのだろうが、私のは酷すぎる。説明責任を果たしてほしいくらいだ。
駅近で一見客なんて来なくても、地元客や観光客がひっきりなしに訪れるから、どうでもいいのだろう。
味噌汁とキャベツスライスに店の姿勢が現れているではないか。セントラルキッチンは否定しないし、業務用キャベツもコストダウンには必要だろうが、店側の論理ばかりで客のことなど見ていないのだ。
これで1408円(税込)である。
後悔しかしない。
私は二度とこの店を訪れない。
食事を終えて、新幹線に乗るべくエスカレーターで二階に向かう。私の目の前に現れたのハチのナポリタンとハンバーグ、店内の雰囲気もはよく、客も多い。皆、笑顔で食事をしている。
しまった、新幹線の改札近くにこんな素敵な場所があったとは。やられた。もうエスパルの地下では食事はしないと、心に固く誓った。
三時間後、久慈で激しい胸焼けに襲われ、その意思はますます強固なものになったのだった。
数年前に五十路となったバツイチ男性。昨日は沖縄、今日は北海道、明日は四国…出張三昧の日々、三年間で制覇した店は千店舗を超えた。日本全国及び海外での食事を記録したブログである。五十路とは本来「五十歳」を意味するが、現代社会では「50代」と誤った認識が定着している。それにあやかりブログのタイトルを名付けた。(詳しく読む…)