東屋 サービスおみくじ丼A

宮城県 仙台駅 仙台朝市 東家 サービスおみくじ丼A

仙台朝市

ランチを食べようと仙台駅前のホテルを出た。午後3時からは会議である。その後に懇親会、二次会、三次会…どこまで行くかわからないが、午前0時前には撤収するのが私のルールだ。昨晩も同時刻に一人で撤収した。昨日は朝4時半に起きたので午後11時にはかなり眠かった。正直、昨晩はキャバクラに行きたくなかった。いつもなら喜んで行くのだが、団体で行ってもあまり面白く無い。女の子がつかないので輪をかけて面白くなかった。さすがに今朝は起きたら午前7時だった。

さて、何を食べようか。

あてもなしに歩いていた私の前に現れたのは仙台朝市、通称アメ横。明日はここで物資を調達する予定だ。そうだ、いい機会なので下見をしよう。青果店と鮮魚店を巡った。前回訪れた時とは、明らかに商品の顔ぶれが変わっている。季節が廻ったのだな。あらかた目星をつけた私は、仙台朝市に隣接した飲食街に向かった。飲食店街と書いてはあるが、すべてで10店舗程度の小さな地下ダンジョンである。

階段を下りて地下の名食街へと足を踏み入れる。黄色い階段の下に広がるダンジョンに待ち構えているのはなんだろうか。

アニソン酒場が開くには早い時間のようだ。寂しい通路に掲示されたメニュー板は3つ。中華、焼き魚、海鮮丼。この三択だ。

東家(あずまや)

中華はスルーだ。焼き魚も捨てがたいが、やはり海鮮丼が食べたい。明朝買うであろう食材で、明後日のランチも海鮮丼であるが、魚が好きな私は何度食べても飽きないのである。一番奥の店に向かう。通路には人の気配がまったくない。店に客が入る雰囲気はゼロである。もしかして、私は足を踏み入れてはいけないところに来てしまったのか。これらの店の入口は別世界とつながっていて、入った途端に見慣れぬの衣装を着た、見たことのない肌の色をした人間や魔人が、海鮮丼を食していたりするのではないか。

そういえば、高校生の頃、初めてこの地に足を踏み入れた時、電車で聴こえてきた同世代の会話がまったく理解できずに、外国に来てしまったのではないかと畏怖した記憶がある。まさに魔界との接点、伊達家が張り巡らした結界が、令和になっても残されているのだろうか。店頭メニューを眺める。定食も捨てがたいが、やはり丼だ。海鮮丼だ。この日替わりおみくじ丼。ものを食べてみようか。とりあえずあたりをつけたので、ドアを開けて店に入る。

そのドアの奥に見えた光景は、なんてことでしょう。店内は満席。あまりのギャップに驚く。カウンター席は一つも空いていないが、テーブル席に案内してもらえた。ラッキーである。

ランチメニュー

改めて丼メニューを眺める。

そういえば、壁にもメニューがあった。うにぶっかけ飯。「ちょっと贅沢な卵かけご飯」しかもランチメニュー限定。ちょっと贅沢だろうか?激しく贅沢ではなかろうか。東北の人間にとってウニとはかくも身近な食材だと言うことか。沖縄からは想像できない世界である。

2ページにわたるメニューのなかにサービス丼は三種類。

  • 日替わり

日替わりを食べるつもりでいたが、写真を見比べて、やはりせっかくなので一番高いやつを食べることにする。そうだ、迷った時は最も安いか高いか、両極端を選ぶのが間違いないと、経験的に私は理解している。

ならばここは一つ、おみくじ丼、それもサービスおみくじ丼のAを食べることにする。

「お決まりですか?」

スタッフが私に声かけてきた。すいません、サービスおみくじ丼のAをください。

「エー、一丁!」

長い料理名をオーダーした私のセリフは、店員により一言で片付けられてしまった。

東屋 サービスおみくじ丼A

お盆にのせられて運ばれてきたのは、海鮮丼に味噌汁、沢庵に醤油皿。減塩中の私は醤油を使わない。おかげで食通と間違われる始末だ。ただの高血圧患者である。沢庵も残念ながらスルー、味噌汁も一口だけいただこう。いや、具だけはすべて食べるのだ。

白いご飯が温かい。嬉しい。酢飯だとがっかりだ。そいつは鮨だ。ちらし寿司だ。海鮮丼を名乗るなと言いたい。まずは肩慣らしにタコから食べよう。いつは密かに好物なのだ。ふむ、身が柔らかい。噛めばコクと甘みが口の中に広がる。いいね。一発目からいい感じだ。では、二番手は…君に決めた!エビだ。尻尾だけを見せ大葉の裏に潜むエビをつまみだして口に入れる。

ん~。
普通。

どっしりとした存在感の大トロの下から出現したのはすき身である。これまた大好きな部位である。南行徳に住んでいた頃は、年末になると駅前のスーパーでマグロの皮の部分だけが売られていた。買ってきて妻と一緒にスプーンですき身をこそげ落とし、正月にはネギトロにして食べていた。昔はさほど人気がなかったのに、いつの頃から品薄で、ほとんどが飲食店に流れていくために、素人が買える機会はほとんどない。玉に市場で見かけても「予約済」の札が貼られていたりする。

待て、すき身だけではない。その下に、まだ何かがいる。箸で摘出する。こいつは…中落ちだ。大トロ、すき身、中落ちとマグロ大集合ではないか。スタンダードなマグロ赤身も中トロもどんぶり上には存在しないが、個人的なはとても嬉しい。

中落ちもいい、ご飯に合う。大トロも甘い。口の中でとろけていく。サーモンはものすごい弾力だ。こんなのは食べたことがない。新鮮なのか。イカも同じく弾力があって甘い。新鮮な証拠だ。鮮度に拘っているとの店側の主張は嘘ではなかった。ほんのりとウニの香りが移っている。イカウニ状態だ。

ウニはクリーミー、旨味を邪魔する、鮮度落ちの証拠となる臭みは微塵も感じられぬ。イクラとのコンビネーションは最強だ。ブリはふわっと柔らかく、臭みなく、脂がのった旨味が口の中にぶわっと広がる。ほうぼうも甘い。白見ながらしっかりと脂がのっている、旨味を感じられる。

すき身は大トロ以上にクリーミーで甘い。店員からは醤油をつけながら食べるようにと言われたが、いくらは素晴らしい調味料だ。どの食材と組み合わせても、自身の力でコクと甘味をブーストし、一段上の味わいに引き上げてしまう。メーカーには申し訳ないが、この素材に醤油をつけるなど狂気の沙汰である。もったいない。

気が付けば客の大半が帰り、店は静けさを取り戻した。店内に流れる琴とバイオリンの演奏による「涙そうそう」がゆったりとした時間の流れを演出していた。締めのお茶を飲みながら、ほっこりとした気持ちになる。さて、部屋に戻って一仕事したら、会議へと向かいますか。

(Visited 47 times, 1 visits today)