飛行機の時間を勘違い
岡山から札幌に向かう。9時55分の便で羽田を経由して14時前には新千歳に着く。食事は機内で食べることになるか、などと考えながら、岡山駅8時50分発の空港行きバスに乗る。30分で着くから余裕だ。
9時20分。一通のメールが届く。googleからだ。
羽田へのフライト 9:25発
え?
やってしまった。頻繁に飛行機に乗っていると、前日か翌日の便の時間を間違えて覚えてしまうことがたまにあるのだ。それでも運のいいことに、飛行機が遅れたりして間に合うことが多いのだが、今回はどうにもならない。
空港に着くと全日空のカウンターに向かい、次の便を予約する。次の羽田便は昼過ぎだ。羽田からの千歳便は満席で、15時の便しか席が無いという。今は9時半だ。札幌に着くのは18時頃、8時間半後だ。仕方がない、自分のミスだ。幸い、今日は移動だけで、予定は入っていない。空港ラウンジで仕事をしながら、のんびりと北海道に向かうことにした。
飛行機が遅れたこともあり、結局、札幌に着いた頃には19時半を回っていた。今夜は一人だ。連日の飲み会で疲れているので、静かに飲みたい。ネットで狸小路に一人飲みに良さげな店を見つける。ここにしよう。
札幌 狸小路 どん
ここ数年は札幌に宿泊する機会が増え、すすきので飲むことも多くなり、土地勘も付いてきた。狸小路には、十年前に妻とジンギスカンを食べに来たことがある。熟成羊肉が売りの店で、私と妻が美味しそうに食べてるのを見た店主が声をかけてきた。
「お客さん、よーく熟成させたくっさいやつがありますが、食べますか?」
私と妻は「食べます!」と即答。クレイジーソルトで焼いたマトンが美味かった。残念なことに、店の名は忘れてしまった。
その狸小路の一角に小道がある。昭和っぽい。中に入って少し歩くと、平成の店構えを見つけた。ここが目的地だ。
ドアを開け、階段で二階に上る。一階はホルモン焼き屋のようだ。トイレはこの店と共用になっていた。温水洗浄便座だ。
カウンターの席に通される。調理場ではスタッフが忙しく動いている。いい感じの店だ。メニューも豊富だ。
ここには晩飯を食いに来た。あくまでも目的は蕎麦だ。サクッと前菜のように食べることにする。よし、まずは牡蠣とレンコンの天ぷらに漬物の盛り合わせを頼み、味を楽しみながら蕎麦を選ぶことにしよう。
まずは漬物盛りは大根とひょうたんの漬物が出された。この店はお通しを出さないようだ。大根はべったら漬けのような甘みがある。それほどしょっぱくない。
「珍しいですよ。」
スタッフが少し自慢げに私に告げた、ひょうたんの漬物は、かじると思いのほか硬い。噛み切れないほどではない。味はまるで小茄子の漬物だ。しそが効いて美味い。確かに珍しい、初めて食べた。ご飯に合いそうだ。
隣の女性客が日本酒を注文する。そうか、この漬物は日本酒向けだ。なるほど。ならばここは私も日本酒を頼むしかないだろう。ニセコを頼む。酒とチェイサーが一緒に出てくる。なみなみ注がれたグラスに口を近づける。美味い。漬物の大根をつまんで、もう一口。やはり酒に合う。
ニセコ 特別純米酒。米の甘みは残しつつ、すっきりと辛口に仕上がっている。ベタベタしないの酒はすっすと喉を通っていく。やばい。こいつはやばい。
牡蠣の天ぷらは衣が牡蠣の旨みを邪魔しない。焼きガキと違い、牡蠣自体はふっくらとしていて硬くならない。
レンコンは想像していたものとだいぶ違っている。こんな分厚いレンコンをかじって食えと言うのかと思いきや、包丁が入っている。切り口がまた美しい。蓮の実も中にいた。口に入れると、歯ごたえを残しつつホックホクだ。妻が喜びそうだ。これは自宅でも試してみよう。
蕎麦だ。注文した「冷かけ」は文字通り冷たいかけ蕎麦だ。ぶっかけではない。カツオの効いたダシが、冷たいのに優しく胃に入る。ほっとする。手打ち特有のコシを残す蕎麦は、硬めにゆで上げられていて、喉越しも良い。蕎麦屋の蕎麦というより、飲み屋の蕎麦だ。蕎麦を肴に日本酒を飲む。辛味大根よりも、カイワレの辛味の方が優っている。
とろっとろの重湯のような蕎麦湯が蕎麦猪口とともに出される。お猪口に注いでのむ。うまい。漬物が合う。まるでおかゆのようだ。蕎麦つゆを少し混ぜてみる。蕎麦が強くてつゆの味が負ける。というか、蕎麦湯だけで十分にうまいのだ。ひょうたんをかじり、蕎麦湯を飲む。なんだか締めのようだ。
気がつけばBGMはシャカタクのナイトバーズだ。とても好きな曲だ。
カウンターで若い女性と白ワインを飲んでる人生の先輩の話が聞こえてくる。遠い目をして語っている。
「自家用ジェットで、ロサンゼルスまで行って、オペラを見る。」
あんた何者だよ。
そば居酒屋 ごん Facebook
数年前に五十路となったバツイチ男性。昨日は沖縄、今日は北海道、明日は四国…出張三昧の日々、三年間で制覇した店は千店舗を超えた。日本全国及び海外での食事を記録したブログである。五十路とは本来「五十歳」を意味するが、現代社会では「50代」と誤った認識が定着している。それにあやかりブログのタイトルを名付けた。(詳しく読む…)