麺屋 奨
叔父の葬儀に参列するために町田に来た。すでに午後10時半。いつもなら昭和の香りする魅力的な居酒屋か、ちょっと洒落てるけど五十路のおっさんが一人でも入店できるようなダイニングバーを探すのだが、明日は早い。朝7時に朝食をとって寺に向かうと言う。必然的に軽く食べてさっさと寝ることになる。となると炭水化物を食べるしかない。
ラーメンだ。
実は事前に22時以降に入店できるホテル近くのラーメン店をチェックしていたのだが、他にもいくつか店がありそうなので、ホテルを出てふらっと歩くとすぐに目に入ってきた。
古ぼけた外階段に吊るされた提灯。
「店舗は二階です。」と書いてあるが、まさかこの階段を登るわけじゃないだろうな。少し先まで歩いてみたが、やはり提灯が気になるので戻ってみる。改めて階段を見ると、入口には登れないように物が置かれている。これは厨房に入るための勝手口だろう。建物の反対側に回ってみる。やはり、こちらが表だ。
「最深ラーメン、町田に上陸」
よく意味が分からないが、私の勘が告げている。この店は当たりだ。
メニュー
看板脇の階段から二階に上る。メニューが目に飛び込んでくる。
辛味つけ麺、まずはラーメンが食いたい。
高校生ラーメン、頼んだら怒られるだろうな。
トマトラーメン、いいよ。
セットメニューも充実している。絆セット、中華おこわセット、水餃子セット。うーむ、それも捨てがたい。まあいい、店に入ってからじっくり検討することにしよう。
階段を上がりきると、ついに店構えが登場した。うん、悪くない。
ドアをくぐり、カウンターに座ろうとすると店員に制止された。
「まずは食券の購入をお願いします。」
なに?食券???ということは速やかにメニューを決定して購入しろということなのか?だから、あれほど外にも階段にもメニューが置かれていたのか?!何を食べるか決めてから店に入れこの野郎という店主の方針なのか?これでは店内でじっくり検討するという私の目論見は実現不可能ではないか。
言われた通り、とりあえず券売機の前に立つ。私の心はいまだ決まらず、というか動揺している。しかも早くしなければ、次の客が私の後ろに並んで、このオヤジ、おせーんだよ、早く買えよ、などと内心思われながら、腕を組み、片足を貧乏ゆすりよろしくトントンと鳴らされるような事態は望まない。どうする、さあ、どうする自分?!反射的に押したボタンは「水餃子セット」だった。ついでにビール小瓶も買う。麺は細麺と太麺が選べるということで、太麺にした。理由は特にない。
店内が混むにはまだ時間が早いようで、客もちらほらとしかいない。食券を渡してビールをちびちびと呑んでいると、ほどなくしてそれは運ばれてきた。
水餃子セット
小盛ラーメンに水餃子にライス。言い換えるとラーメンライスに餃子。ああそうか、私はそれほど腹が減っていたんだ。だからセットの中で唯一の炭水化物三重奏であるこのセットを反射的に選んだのだ。
早速スープを飲んでみる。旨い。もう一口。魚介系でくどくない。臭くもない。アッサリしている。旨い。太麺をすする。もちもちしてスープがよく絡む。後味にほのかな柚子の香りがさっぱりしていい感じだ。意味は分からんが、最深スープの気がする。ライスを食べる。うーむ、旨い。
次に水餃子だ。スープに浸してあるタイプだが、これはスープというよりほぼ油だ。皮はもちもち。ニンニクの香りがいい。これも旨い。ライスを食べる。旨い。またラーメンだ。めんまの歯ごたえも味付けもそつない感じで良い。ひたひたの海苔を口に入れると、スープの味を濃縮してガツンとくる。ライスを食べる。旨い。厚めのチャーシューは柔らかいがしっかり歯ごたえもある。肉の味もしっかりする。ライスを食べる。美味すぎる。
夢中になって食べていたら、麺もスープもなくなってしまった。そう、すべてが胃に納まったのだ。私の空腹感も収まった。もうなにも未練はない。ああ、この店が生活行動圏内にあれば通うのだが、次に町田に来るのはいつのことだろうか。未練はないと思いつつも、やはりまた食べてみたいラーメンだった。
もしも次に来ることがあれば、今度は絆セットだ。
麺屋 奨 – Tasuku 公式HP
数年前に五十路となったバツイチ男性。昨日は沖縄、今日は北海道、明日は四国…出張三昧の日々、三年間で制覇した店は千店舗を超えた。日本全国及び海外での食事を記録したブログである。五十路とは本来「五十歳」を意味するが、現代社会では「50代」と誤った認識が定着している。それにあやかりブログのタイトルを名付けた。(詳しく読む…)