夜はラーメンがたべれない?
押田さんが念を押すように言った。
「高山ラーメンは昼しか食べれないですから。」
坂口屋で、少し早めのお昼を済ませた我々の次のミッションは、会議の前までにカロリーを消費して腹を空かせ、高山ラーメンを食べると言うものだった。
「ラーメン一食って、何カロリーくらいかな。」
「1,000カロリーくらいじゃないですか。」
私の質問に忍野さんが答える。
1,000カロリー。正確には1,000kcal。ウォーキングで消費するには20kmも歩かなければならない。
Mission Impossible。不可能だ。
だが、限られた時間にひたすら歩いて血糖値を下げるほか、我々には取るべき手段がない。愚直に歩く。歩くには観光が一番だ。
高山陣屋
国史跡とある。三人で入る。展示されていた資料をかいつまんで言うと、こうだ。
高山はもともと森林資源と鉱山資源に恵まれた街だった。戦国時代に金森氏が国主として飛騨に入り、高山城を築城。関ヶ原の戦いで徳川についた功により初代飛騨高山藩主となる。その約100年後、6代目藩主の時に突然、金森家は山形に国替えされ、高山は幕府の直轄領になる。高山城は取り壊され、金森家の屋敷であった高山陣屋で執務された。それから1969年、昭和44年まで高山陣屋は役所として使用されていたという。
幕府は高山の資源を我が物にするため、強引に直轄領としたものの、金山は金森氏の時代にすでに掘り尽くされ、森林資源はその後50年で山の木が伐り尽くされ、すべて禿山になったそうである。そこで当時の代官が植樹を始めたそうだ。
その鉱山は明治になり、大資本が近代技術により、手作業では掘りきれなかった資源を採掘した。これが神岡鉱山、後にイタイイタイ病の原因を作ることになった。
その土地で初めて知る歴史というのは多い。歴史はルーツだ。土地土地の文化を知るには歴史を知ることが一番だと思う。学者ではないから、だいたいでいい。歴史には「流れ」があって、それを掴めば理解できるものだ。
和牛処SUKEHARU
高山陣屋を後にして、古い街並みを歩く。いろんな店がある。徹底して観光地だ。マツモトキヨシさえ茶色い看板だ。ちなみに首里城下のローソンも茶色だ。
外国人が並んでいる店がある。
「早蕨(さわらび)」
ぷるぷるのわらび餅が大人気だそうだ。おっさん達はスイーツに興味がないのでパス。さらに歩くと看板が見えた。
「日本一美味しいメンチカツの店」
押田さんが呟く。
「この看板はマーケティング的にダメだ。」
忍野さんが尋ねる。
「なんでダメなんですか?」
「日本一という表現は根拠がないからダメなんです。『〜日本一』のように、何かの全国大会で優勝したとか、そういう実績ならば日本一と書いてもいいんだけどね。」
押田さんは広告代理店を経営しているから、こういうのに詳しいのだ。
そういえば2年前だろうか、押田さんも含め同年代のおっさんとおばはんで酔っ払ってカラオケに行き、私が「脳漿炸裂ガール」を歌ったら、周りからは「わけわからん!昭和を歌え!」と非難を浴びたが、押田さんは真面目な顔をして私に言った。
「初音ミクという名前は知っていたけど、このようなものだとは知らなかった。広告代理店を経営するものとしては、きちんと知っておかなければならないと改めて痛感した。反省です。」
ボカロでそこまで思い詰めなくても…(^◇^;)
とは言え、その実力は気になるものだ。見せてもらおうか、日本一のミンチカツとやらの性能を。
ミニミンチを頼む。数分後、熱々を渡される。一口かじる。
熱い。
もう一口かじる。
んー。
普通のにすればよかった。
ついに高山ラーメンを食す
食べ終えるとまた歩く。疲れたのでお茶をする。おっさん三人でだべる。気がつけば14時だ。どうする?ラーメン食べる?
「食べましょう!」
押田さんがいう。忍野さんは「えー?」と抵抗したが民主主義だ。ラーメンだ。
作戦はこうだ。十分でラーメン店に着く。十五分で食べ終える。用意したタクシーで会議場に向かう。五分前には着くはずだ。やはり「しらかわ」か。並んでいる可能性が高いが、賭けてみる。二人に言った。
「もしもすぐには入れなければ諦めますよ。」
「オーケー」
二人の回答を聞いて、私が先導する。頼むから空いていてくれ。でもその可能性は低いな…とそこへ。
「あれ?」
押田さんが言う。
「甚五郎って、ここも地元オススメの店じゃなかった?」
間違いない。確かに。しかも並んでいない。チャンス!三人で店に入る。空いている!奥のテーブルに案内されるとメニューを見る。
をを!小盛りがあるではないか!ラーメン否定派だった忍野さんも小盛りならということで三人前を注文。出てくる間にタクシーを手配した。
やがて三つのどんぶりが運ばれてきた。
まずはスープ。あっさりした、昔懐かしいシンプルなしょうゆ味。麺は細い縮れ麺。一口すする。コシがしっかり。スープとの相性もいい。チャーシューは見た目と違い箸で掴むとくずれるほど柔らかい。口に入れると溶ける。ネギがアクセント。ああそうだ。昔、中華屋でチャーハンを頼むとついてきたスープのようなほんわかした味だ。小盛りなのですぐに食べ終えるが、どんぶりのスープを何度でもレンゲですくって飲んでいたのは私だけではなかった。
「懐かしい味だね。最近、こんなラーメン出す店がないね。」
同感だ。勘定を済ませて店を出る。カウンターには女性の一人客が二組。いいなぁ。女性が一人でラーメンを食べるのが自然な街。
腹も膨れた。目的も達した。会議で眠くならないように。そもそもこの状態で18時からの懇親会の食事が胃に入るのだろうか?若干の不安を感じながらも、タクシーで会議へと向かった。
ラーメン甚五郎(楽天)
数年前に五十路となったバツイチ男性。昨日は沖縄、今日は北海道、明日は四国…出張三昧の日々、三年間で制覇した店は千店舗を超えた。日本全国及び海外での食事を記録したブログである。五十路とは本来「五十歳」を意味するが、現代社会では「50代」と誤った認識が定着している。それにあやかりブログのタイトルを名付けた。(詳しく読む…)