ながらみ

居酒屋 日の出 静岡おでん・ながらみ

ながらみとの出会い

静岡の郷土料理に、小さな巻き貝の煮付けがある。楊枝で身を殻から掘り出して食べる。上品なのにしっかりとした、くせのない味わい。私はこの「ながらみ」の煮付けが好きだ。

静岡に来ると必ず食べる。

地元の人には「よく知ってますね」と言われる。私とながらみとの付き合いは長い。20年以上にもなる。

私の中では「静岡」はお茶でもわさびでもうなぎでも金目鯛でもなく「ながらみ」だ。和名はダンベイキサゴ、学名は”Umbonium giganteum”。

お茶は沖縄でも生産してる。沖縄最北端の集落、奥という場所だ。わさびは奥多摩でも採れるし、うなぎは九州でも有名な産地がある。

しかし「ながらみ」は静岡だけだ。私の中でながらみは静岡以外にはないのだ。wikipediaに「本州・四国・九州の沿岸砂底に生息し、食用に漁獲もされている。」と書いてあっても認めないのだ。

今から20年ほど前、当時、私の会社は幡ヶ谷にオフィスがあった。新宿から京王新線で2つ目の駅だ。オフィスのビルの裏にこぎれいな小料理屋があった。夫婦で経営している店だ。

旦那さんが職人で大将、奥さんは和服が似合うキリッとした美人で、客相手をする女将さんだった。客席はカウンターとテーブル席が2つだけ。場所がらなのかたまに芸能人も来ていた。ウガンダとか若土あきらとか。

夫婦は静岡の出身で熱海に別荘を持っていて、週末は店を閉め、いつもそこで過ごしていた。大根の皮のぬか漬けもこの店で教わった。

旦那さんは和食の職人だったけど、たまに作るタンシチューが絶品だった。その店でたまにお通しで出されたのが「ながらみ」だった。静岡ではよく食べるんだ、と習った。

あの夫婦はどうしてるだろう。女将さんは肝臓を患っていて、クスリも効かないと話していた。一度、徹夜明けにオフィスの窓から外を見ると、女将さんが救急車で運ばれてくのが見えた。

ほどなくして店を閉め、引っ越していったと思う。

そんなことで、私は静岡に行くとながらみを食べるようになった。しょっちゅう静岡に行くわけではないが、数年に一度は機会があった。

ながらみはだんだん獲れなくなり、高価になってしまったと地元の方が話していた。うまいんだもの、無くなっちゃうのは仕方ないのかな。

静岡県焼津駅 居酒屋 日の出

焼津駅前の、餃子を食べに行く前に入った、昭和のドラマに出てきそうな、焼津駅前のおでん屋さん。ドアを開けると客はいない。店員もいない。

「スイマセーン!、店やってますかー?」
「やってるよ!」

声はすれども姿は見えず。店の奥からの声ではない。すぐ近くからだ。正面のお座敷の陰にママさんが隠れていたのだった。

店内はシブい。もう、昭和のドラマに出てきそうだ。年配のママが一人で仕切っている。

ドリンクはセルフで自己申告制。

カウンターのおでんの隣には大皿料理。ながらみを見つけた私は自己申告して自力でテーブルに運ぶ。

まるで田舎の祖母の家にいるかのようなゆるーい感じがたまらない。

ハイボールは冷蔵庫にない。なんと二階の店に外注。電話をかけるといちいち上の店のマスターがジョッキを持ってくる。合理的?(笑)

静岡おでん

静岡おでんには味噌ダレとふりかけを使うようだ。酔った自分にはこのふりかけが花椒粉に見えて、ずいぶん刺激的だな、と思ったりしたが、食べて見たらかつお節だった。

さすが焼津。ブレない。

味噌ダレはまさに大阪の串揚げ。2度漬け禁止やー。

個人的にはかつお節のふりかけにハマった。これ、うまいね、と女将さんにいうと、そうでしょ?私の手作りだよ、とドヤ顔をされた。

7〜8名でたらふく飲み食いして、驚くほど安かったのは覚えている。安いので一人が「俺が全部出すよ。」と払ってしまった。

たらふく食ったはずなのに、隣のラーメン屋に向かう。こうして太っていく、肥えていく。血圧と尿酸値と血糖値も上がっていく。不健康だ。不摂生だ。

でも辞められない。酔うと人間は本能に忠実でしかいられない生き物だと、つくづく実感したのだった。

居酒屋 日の出

住所:静岡県焼津市栄町1-2-1 JR焼津駅より徒歩1分
電話:054-628-2348

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