カツハヤシ

沼津駅 千楽本店 カツハヤシライス

静岡県 沼津駅 千楽本店

仕事で沼津に来ている。仕事は昼からなので早めのランチタイムで腹ごしらえとこの店を訪れた。商店街の中にある年季の入った店だ。

扉を開けて店内に入ると客は一人だけ。すぐに食べ終えて出て行った。階段があるので二階席にも行けるのだろう。一階は大テーブルが1つ、小テーブルが2つだけだ。

私は小テーブルに案内された。テレビの正面。なかなかのポジショニングである。ゆったりと食事ができそうだ。

メニュー

さて、何を食べようか。メニューを見る。この店の一押しはカツハヤシライスであるとネットで検索したので、目的は決まっているのだが、そこはしがない貧乏性、メニューを確認しないと気が済まない。

洋食だけかと思いきや、かつ丼、親子丼、玉子丼と和食どんぶりも用意されている。そういえばアンパンマンには天丼マンとかつ丼マンがいても親子丼マンはいないな。

こいつだ、カツハヤシ。「イモサラダ」も気になるが、やはり当初の予定通りカツハヤシをいただくことにした。

厨房からは時折笑い声が聞こえて来る。フロアはお母さんたち二人で切り盛りしている。

トイレは年季の入った和式便座であった。しかも寒い。

カツハヤシ

少々時間が経ってからハヤシライスが運ばれてきた。皿を見て驚いた。

なんだこのボリュームは?

普通のカレー皿をダブルでつなげて細長くしたようなそんな皿だ。そこに山盛りのハヤシライスと存在感のあるとんかつ。

これで普通盛りだ。大盛だとどうなんだろうか。沖縄県警地下食堂のカツピラフのようにトレイに盛り付けられて出てくるのだろうか。

ハヤシライス

まずはハヤシライスから食べてみる。

見た目には重厚なとろみとコクのある昔ながらのハヤシライスのようだが、口に入れるとふわっと香りが広がり、口当たりの良いなめらかなルーは、まるで溶けていくかのごとく自然と消失する。

玉ねぎはしっかりと形が残っているが、これも口の中でほんのりとした甘みを放出しながら崩壊し、はかなく消えゆく。

味つけはくどくなく、塩辛くもなく、とてもライトだ。

この店の客の年齢層は高めだ。私の左前には少なめのハヤシライスを食べている年配男性、左手後には、おそらく重厚なカツ丼を食べるであろう男性、そして左側にはやはりハンバーグを頼んだ年配女性2名がいた。

カツハヤシのオーダー時に「お新香食べますか?」と聞かれたので断った。他の客にも同様に最初にお新香を食べますかと尋ねている。

塩分対策だろう。私にはとてもうれしい。

つまり塩分も味付けも年齢層高めの客層に合わせたマーケティングに基づく味付け戦略であるのだ。にもかかわらず、なぜこのボリュームだけは若者向けなのだろうか。

今は亡き沖縄の波布食堂とは言わないが、これはてこずる。おそらく食べ切れないのではないかと言う不安が頭をよぎる。何も考えずに食べよう。

とにかく、このルーは特筆すべきだ。

今まで食べたハヤシライスとは一線を画すほど、見た目からは想像できない味わいなのだ。きっと幼い娘も喜んで食べるのではないだろうか。

巧(たくみ)の完成された逸品にこんなところで出会えるとは。さすが黄金鮨の大将が一押しの店だけある。この店は沼津駅北口にも支店があると聞いた。大将は支店は少し味付けが濃いと言っていた。

あちらの店はおそらく若者客が多いのだろう。だから味付けが濃いのだろう。

本店まで来て正解だ。

とんかつ

とんかつは分厚いロース肉。キメが細かく見た目に食欲をそそる。ラードでカラッと揚げてあるからくどくない。肉は硬くないが、かといって何の抵抗もなくすっと箸で切れるほど柔らかくも無い。

見た目だけでなく、しっかりとした食感までもが肉の存在感を誇示している。ロースかつのあるべき姿を見事に体現しているといえよう。

肉を噛み締めればジューシーな肉汁が溢れ出す。筋肉繊維から解放された旨味と脂の甘みが口の中に広がる。

もうこれだけでうまい。
ソースも塩もいらない。
旨い肉はただそれだけでいいのだ。

衣は肉の厚みに比して非常に薄い。だからこそ素材の味わいを邪魔しない。魅力を損なうことなく、ただただ肉の潜在能力を引き出す調理のためだけに存在する衣なのである。

調子に乗って食べているとルーがなくなってしまいそうだ。

ペース配分を間違えたか?
いや、ご飯の量が多いのだ。

本当に他の客もこのボリュームを撃破できるのだろうか。店内を見回すが、そもそもカツハヤシを頼んでいる客がいない。お年寄りはノーマルのハヤシライスを食べている。ご飯は山盛りではなく平坦だ。

注文時に「ご飯少なめ。」と伝えるべきであったか。

だが、ここまで来て引くこともできぬ。前進あるのみだ。男には分かっていても行かねばならぬ時がある。

ふと気がついた。

カツハヤシとの料理名からルーの包容力でご飯とトンカツをまとめあげると思い込んでいた。どうも違うようだ。

そもそもとんかつ上にはハヤシのルーがほとんどかかっていない。
もしや私は肉の食べ方を根本的に間違っていたのではないだろうか。

とんかつに少量のルーをつけて食べてみる。うまい。ソースのようなパンチの効いた力強さはないものの、その反面に自己主張もなく、肉の味わいをただただ拡張する、素材の魅力を引き出すのが私の仕事だと言わんばかりだ。

なるほど。

つまり少量のルーをトンカツにつけ、白いノーマルご飯の部分と一緒に食べる。

ここにも三位一体、ゴールデントライアングルの法則が隠されていたのか。やはり固定観念とは恐ろしいものだ。

頭を切り替え、新型の攻略法で残りのトンカツを食べ進む。ただでさえライトなハヤシライスがよりあっさりとなる。箸が進む、ではなくスプーンが進む。

先ほどまで無理だと諦めていたご飯の山がみるみる減っていく。やればできるじゃないか。私はまだまだ自分の潜在能力を引き出してはいなかったのだ。このハヤシライスのルーが、素材の魅力だけではなく、私の眠っていた力まで呼び覚ましたのだ。

恐るべし。

ごちそうさま

ついに最後の一口を食べてフィニッシュだ。

完食。

意外にも腹がきつくない。だかこれ以上、何か食べたいとも思わない。まさに腹八分目か九分目。

もう何も思い残す事は無い。

いや、お冷がもろに水道水であった。フィルターくらいつけて欲しい。

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