刺身盛合せ

沼津駅 黄金鮨 なめろうと刺身と鮨

五ヶ月ぶりの沼津

沖縄からは日本全国に直行便が飛んでいる。近くは奄美や与論などの鹿児島県の離島から北海道まで飛んでいる。意外に地方空港への直行便が多く、岩国、広島、岡山、松山、高松、小松へも飛んでいる。中でも私がよく利用するのが静岡便だ。那覇こら静岡空港乗り継ぎの千歳行きは使用頻度が高い。同じような客は少なくないようで、静岡空港で降りると、乗継の案内が大きく表示されている。

今回の目的地は静岡県沼津市。乗り継ぎではない。静岡空港から沼津へと向かうのである。機内から見えた大井川は濁った灰色の泥流まみれ。いい天気なのだが、前日に山の方で大雨でも降ったのだろうか。

黄金鮨

さて、沼津と言えば駿河湾。もちろん海鮮が食べたい。回転寿司よりも、落ち着いてじっくりと食事ができる店がいい。さらにホテルから近ければなお良い、ときたもんだべらんめえ!ネットで検索すると、渋い店を見つけてしまった。情報はほぼない。地元常連客ばかりのような店のようだ。願ったりかなったりである。

店構えは好みだ。いぶし銀のような、しかししっかりと存在感を持っている。これだけライトアップされていれば、迷うことも間違うこともないだろう。店を開けると、中には常連客ばかり。カウンター席に案内される。きさくそうな大将が声をかけて来た。
「握りますか?つまみますか?」
まずはつまみで食べたいかな。
「嫌いなものある?」
うーん、考えてみた。サーモンが出ることはないだろう。この店ならばマグロも構わないか。
「ないです。」
私の答えに大将が軽妙に語りかける。
「なんで考えてるの〜(笑)アレルギーもない?」
「特にないですよ。」

ビールを飲みつつ一品目はなめろう、食べたことがない複雑な味わい。ナッツの食感、ごまと柑橘の香り、臭みなく、余すことなく鯵の魅力を存分に引き出している。

ぶり大根。大根が甘い。上品な味付けにぶりの脂、汁を飲むと後を引くピリ辛は柚子胡椒。美味い。

「食べるの早いね、欠食児童?」

大将に笑われた。

刺身、シマアジは脂がたっぷりのっている。臭みはない。魚の旨味をしっかりと味わえる。貝柱はタイラギ。カウンターのネタケースに平貝の大きな殻が見えていたので気になっていたのだ。貝柱といえばほとんどの人が帆立を想像するが、昔は平貝が一般的だったという。少しあぶって旨味を濃厚にしてある。帆立と違って軽い歯ごたえのある、上品な甘みの貝である。帆立がセクシーな露出多めのダイナマイトバディーとすれば、タイラギは着物を着崩したスレンダー美女である。どちらも好きなのだが、後者にお目にかかる機会はなかなかあるものではない。

南蛮エビ、いわゆる甘エビも香りが匂い立つ濃厚な味わい。イワシは鮮度よく、青魚特有の味わいが口に広がる。光り物マニアの私にはこの上なくたまらないネタなのである。コリコリとした食感の青柳からは磯の香りが広がる。マグロ最高。大トロ、中トロ、赤身の三種類。ひさびさに上物を食べた。しっかりと熟成したとろけるようなマグロの身は、たっぷりのおろしわさびにも負けない脂のノリ。

ああ、海の幸バンザイ!

出汁巻玉子は梅と一緒に食べる。甘さと酸味のマリアージュが新しい世界に私を引き込む。玉子焼きは嫌いではないが、むしろだし巻き卵は好きなのだが、それでも甘さ一辺倒で味わいが単調なのが不満であった。それを打破したのは、なんてことはない、我が家の冷蔵庫にも存在している梅干しであった。梅肉であった。これは自宅でも試してみよう。三升漬以来の発見ではなかろうか。

焼き物はシマアジの腹側の漬け焼きである。これを味噌とともにいただく。ううう、日本酒がこの上なく合うではないか。銘柄は分からないが、純米酒であることは間違いない冷酒が進むこと進むこと。

私を酔わしてどうする気?

などとついつい思わないでもない。

太巻き…ではないな。中太巻とでも言うのか。ネギトロ巻である。見た目にも鮮やかな、原色豊かなカラフル巻き寿司である。回転寿司にはできない芸当である。なんせ、ここまで私がオーダーしたのは酒のみである。つまみか握りか聞かれた程度で、料理はなに一つとして注文していないのに、まるで私の胃袋をつかんでいるかのようなタイミングで、食べたいものが出てくる。ベテランのマネジメントである。

握りはアオリイカ。甘くてねっとりとしてシャリのバランスもいい。これが鮨だよ。おにぎりではないのだよ。写真を撮り忘れてしまった。

締めはしじみの味噌汁。宍道湖産だという。かなりでかい。アサリほどの大きさだけでなく厚みもある。しじみの身なんて食べずに捨てるくらいのサイズが普通だが、こいつは帆立の稚貝ほどもあって、食べ応えもある。噛むほどにしじみのエキスがにじみ出てくる。

「裏ルートで仕入れたんでね。」

冗談とも本音ともつかない説明をする大将。会話が楽しい。料理を味わうと言うより、食事を楽しめる店だ。食材の細かさを確かめながら食べるのではなく、美味しさの記憶が脳に刻まれる空間である。

来年二月にも沼津を訪れる。どんな冬の味覚を味わえるのか、今から楽しみだ。

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