手打ちうどん 讃岐(さぬき)っ子
仕事で新潟市を訪れた。私の中で新潟と言えば「へぎ蕎麦」である。それがランチはタイ料理になり、夕方にへぎそばを食べることも叶わず、このままでは明日の朝食を抜いて、新潟駅で朝九時から営業している小嶋屋総本店で食べることになりそうだ。
数年前も同じパターンだった。
新潟県民に悩みを打ち明けると、心配ない、ここは新潟だ。花町(新潟市の繁華街)だ。夜中でもへぎそばを食わせる店があると言ってくれた。
「うどん屋だけど、蕎麦がうまいんだわ。」
期待していいのだろうか。一抹の不安が残る。こいつ、立ちションした手で私の肩を触ったな。触れるでない、近寄るでない、心の中でうなった。
連れてこられた店は、まごうことなきうどん店。その名も「讃岐っこ」。蕎麦の要素が一つも見いだせない。不安に駆られ店の前で立ち尽くす私を、先ほどそこらへんで立ちションをしていた新潟県民が、その手で私の背中を押した。
店内は満席だ。
奥の座敷をひとつ空けると店員が言う。四人席に六人で座ろうという強硬策だ。その矢先に、向かいの座敷の客が帰ったので、四人席ふたつを即座に占領。これでひとまず安心だ。
メニュー
メニューは?へぎそばは三人前から。たらいうどんは…って、それって四国で食べるやつだよね。徳島で食べたことあるよ。まずは蕎麦の前に軽く飲み直しだ。ハイボールください。
お通しのもやしの和え物はカレー風味だ。なかなか美味い。
お通しはもやしだ。
モツ煮
柔らかい。臭みもない。いいねえ。
板わさ
赤いかまぼこ。美味いのだが、わさびが効きすぎだ。
山芋千切り
シンプルイズベストを地でいく料理だ。
牛肉のたたき
なぜか水っぽい。冷凍だからだろうか。
カレーつゆ
突然、眼前に置かれた巨大などんぶりにたたずむカレーつゆ。一人が慣れた手つきで蕎麦猪口に取り分ける。ふむ、これで蕎麦を食えというのか。まずはそのまま一口飲む。
美味い。これはうどんに絶対合う。だからたらいうどんがあるのか。
「最近、塩だけで食わせる蕎麦屋があるけど、塩の味しかせんわ!カレーは?カレーはダメだ。すべてがカレー味に染まる。」
一人がのたまう。なら、頼むなよ。
「カレーがないと締まらないんだわ。」
へぎ蕎麦
意味がわからん。そこにへぎ蕎麦がどーん。
…これ、食べきれる?
一抹の不安をよそにそばつゆも出てきた。私はこいつで食べるぞ。蕎麦猪口に鼻を近づける。うーん、いいねえ、カツオが香る。蕎麦をつけてたべる。辛口の蕎麦つゆが蕎麦の魅力を引き出す。喉越し良く、滑らかでツルツルだ。
美味い。
試しに蕎麦をカレーつゆにつけて食べてみる。
合わない。
つけ汁では、カレー南蛮蕎麦のようにはいかないのだろうか。
やはり蕎麦は蕎麦つゆなのだ。胃の中にスルスル入る。食べきれるだろうかと言う不安はどこ行った?早い早い。ものの数分で蕎麦がなくなった。
「まだ行けそう?」
行けそうです。お代わり四人前。またもや蕎麦取り合い。
つるつる。
つるつる。
ウマー。
締めの蕎麦、最高!へぎ蕎麦、最高!
ごちそうさま
でも、ここってうどんの店なんですよね。
「そうなんだよ。みんな忘れてるけど、ここはうどん店なんだよ。カレーうどんが美味い。」
だろうね。このカレーつけ汁、美味いもん。いやー食った食った。これで心置きなく明日は富山に行けます。
数年前に五十路となったバツイチ男性。昨日は沖縄、今日は北海道、明日は四国…出張三昧の日々、三年間で制覇した店は千店舗を超えた。日本全国及び海外での食事を記録したブログである。五十路とは本来「五十歳」を意味するが、現代社会では「50代」と誤った認識が定着している。それにあやかりブログのタイトルを名付けた。(詳しく読む…)