どらえもん 宮古そば

沖縄県那覇市 県庁前駅 宮古そば どらえもん

だるまそばの裏切り

パシフィックホテルで仕事。当然、ランチはだるまそば。同僚はすでに食べたという。ああ、久しぶりの味噌汁玉子フーチバー入り。この何年か、妻と一緒に県内の店を巡ってみた。ネットで味噌汁がうまいと書かれた店にも行ってみた。しかしいずれもだるまそばには及ばなかった。

「味噌汁フーチバー玉子入り、一丁〜」

詩吟のようにオーダーを厨房に伝えるおかみさんの声と言い、味も風情も味噌汁ならばここが最高なのだ。早く仕事を終えて、あの滋養あふれる風味豊かな液体を飲みたいものだ。イメージトレーニングもバッチリだ。同僚は玉子入りにしたという。なぜ、フーチバーを入れない?

「いや、臭ったら困るかなーって。」

ニンニクじゃあるまいし、フーチバーは臭わないよ。もったいない。味噌汁にフーチバーはマストではないですか。

仕事が終わった。ホテルを徒歩で出る。だるま食堂までは距離にして200メートル。すぐに目視で確認できる距離だ。

ふむ。

黄色い建物をロックオンした。道路を渡り、店のドアを開ける。あれ?開かない。

「準備中」

え?十七時までノンストップ営業ではなかったか?えー?!

私はなんのためにここにきたというのだ。イメトレを済ませ、胃腸の受け入れ態勢も万全だというのに、なぜに店が閉まっている?!

おお、神よ!なぜあなたはこのような試練をお与えになるのですか?!

さまよえるランチ難民

仕方がない。我が身を呪いながら、玉那覇そばに向かう。途中、辻のステーキ88本店を覗いてみたが、食べる気がしなかった。上の蔵通りを歩き、久米大通りに入る。たい焼き屋の前を過ぎて玉那覇そばに到着したが、なぜか食べる気が起きなかった。

そう、すでに私の体は味噌汁に標準を合わせていた。すぐに沖縄そばに切り替えるなどと器用なことはできない。そうだ、ならば豚豚ジャッキーに行こう。あそこのとんかつも久しく食べていない。久米大通りをゴッパチこと国道58号線に向かって歩く。マンジャーモの角を曲がれば豚豚ジャッキーは定休日。

あー、そう。

そうだったね。

仕方がない。そのまま那覇商業高校に向かって歩く。商工会議所の裏を通り、久茂地の交差点に出た。

そうだ、三笠に行こう。ちゃんぽんを食べてみよう。もう10年くらい行ってない気がする。国道58号線ことゴッパチ沿いに歩き、タイムスビルを過ぎるとすぐに右折。ビルの裏側を通り、川沿いに向かう。着いた。店は開いているか…あ?

休業中だと?

ドアの張り紙にはビルの改修工事のためにしばらくの間、休業すると書かれている。

うああああああ!おお、神よ、私になにを食えと言うのですか?

このまま川沿いを右折すればもとなりがある。いやだ、ラーメンは食べたくない。週末は長崎だ。その隣の天丼もパスだ。

国際通りの時間断層

突如、私の頭にひらめいたのはパレット久茂地。那覇の中心地にそびえ立つ商業施設、今や沖縄県内唯一のデパートだ。そのレストラン街ならば、今でも営業しているはずだ。道を渡り、地下街のドアを開ける。

うーん、フードコートは微妙だな。トンカツは…惹かれるが、何か違う気がする。うなぎはパス。パスタもいらない。沖縄そばは、なんだか観光客向けメニューのようで、食べたら負けの気がする。

ここも私の求める店ではなかったか。

地下街から地上へと出る。初夏の兆しのような空が眩しい。そうだ、国際通りだ!あそこならば観光客向けにこの時間でも店があるはずだ。国際通り入口の大きな交差点を渡り、観光客に混ざって歩く。

宮古そばの名所 どらえもん

再び、ひらめいた。困った時はどらえもんではないか!そうだ、どらえもんに行こう。あそこはさすがに開いているだろう。

わしたショップを過ぎると左手二階にどらえもんの文字。ああ、ここら変わっていない。国際通りの風景がどんなに変わろうと、不変の地点があるのだ。細い路地を左に入る。ここだ。

メニュー

メニューを確認する。うん、変わっていない。

階段を二階に上がると、時が止まったかのような店構えがあった。まさに那覇の時間断層。扉をあけて中に入る。

細長い通路を抜けると視界が開け、客席が現れた。店員の若い女性が好きな席に座れという。ここ20年前にはすでに年季が入っていた。あの時はおばあが店を切り盛りしていたが、何年か前に若い人に代替わりしていた。

オーダーはもちろん宮古そば。ジューシーはやめておいた。十八時から送別会だ。あまり食べ過ぎると、夕食にさし障る。その前に手を洗いたい。トイレは年季の入った洋式便座だ。

宮古そば

チャッチャッチャ。

席に戻ると、厨房からデポで麺のお湯を切る音がしてきた。きっと私の宮古そばに違いない。やがて女性の店員が私の眼前にどんぶりを置いた。

ああ、これだ。

箸を取り、紅ショウガとコーレーグースをそばに入れる。どんぶりを持ち上げて口をつけ、スープを飲む。

はああ。

力強い鰹出汁にネギの風味と食感が味わいを広げる。続いてはそばだ。細い平麺は昔から変わらない、コシはそれほどないが伸びがすごい。スープがよく絡む。もう一口。時折混じる紅ショウガの刺激がアクセントだ。

具が表には見えない。これが宮古そばの特徴だ。見た目はかけそば、実はどんぶりの底に具がしっかりと入っている。宮古島は統一後の琉球王朝に侵略され、植民地化された。琉球国では名宰相と名高い蔡温こと具志堅親方が、植民地に人頭税を導入し、明治29年に沖縄県知事が明治政府から送り込まれるまで、宮古及び八重山地方は数百年に渡って苦しめられた。

そばに具が載っているのを役人に見られると、こいつの家はまだゆとりがあると見なされて重税をかけられる。だから、食べものがないことをアピールするために具を麺の下に隠したと言われている。

沖縄の伝統的なかまぼこスライスと、甘く煮た柔らかい三枚肉がスープにも麺にもマッチして、食欲を加速させる。

もはや、誰も止めることはできない。今の私はマシーンだ。麺を食らうスライムだ。バーサーカーならぬ暴食者なのだ。

スープも飲み干して完食だ。

たまに食べると美味い。20年前から困った時に助けてくれる!まさにドラえもんのような店なのだ。次に食べに来るのはいつになるだろうか。変わらずにいてほしいと願うばかりだ。

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