元野球選手の店
本日の夕食は那覇市西にある店である。地元では「西町」と呼ぶ地域である。肉割烹と称する店は以前にも訪れたことがあった。精肉店が営む割烹だ。こちらの店は元野球選手の方の店だとのことである。
勤務先での交流会なので担当役員が予約を入れていた。この会社にはスポーツ経験者が少なくない。高校野球部出身が特に多いようなので、おのずと野球選手をはじめとするスポーツ選手との親交も多くなるようだ。
私には縁のない世界だ。
以前、元日本代表の高原選手を紹介されたが、その価値が全く分からず、とりあえずミーハーで一緒に写った写真を会社で何人かに見せたところ、なんだか騒がれた。
おそらく彼らが富野由悠季や庵野秀明とツーショットの写真を私に見せたら同じ反応が起きるのだろう。数年前、この会社にエヴァンゲリオンを知る者はほとんどいないと判明したときに驚愕したものだ。
那覇市 旭橋駅 肉割烹29
消防署通りから南に入ったところに店はある。あれ、「天たか」?この店は那覇市辻のキャッスル野崎近くに在った店ではないだろうか?キャッスル野崎は今はMr.KINJO本社に建て替えられたらしい。
結婚前、琉食マンションに住んでいた頃、ちょくちょく通った店だ。宇都宮から沖縄に移住してきた夫婦が居抜きで借りた小料理屋だ。内地の美味いものを取り揃えていた。引っ越してから足が遠のいていたが、西町に引っ越したのだろうか?
懐かしさと興味が湧いて外から店をのぞいてみたが、職人らしき男性はあの大将とは風貌が違っているように思う。
私の勘違いだろうか?
ティーンエイジャーの頃、大場久美子と早見優を間違えるくらい、他人の顔を覚えることが苦手な私のことだ。自信はない。
機会があれば飲みに行ってみよう。
店に入るとおひとり様用のカウンター席がある。一人客も少なくないということだろう。確かに一人静かにゆっくりと焼肉を食べるのは、牛角のような一般的な焼肉屋では難しいかもしれない。割烹を名乗るからこそ体験できる大人の空間なのだろう。
我々は10名程度の団体なのでお座敷席に通された。肉は昔ながらのロースターで焼く。七輪や無煙ロースターではない。カセットコンロなのでゴムホースが無くてすっきりしているのはうれしい。
本日の食事は表の看板にも書いてあった希少部位コース3500円+αのようである。付け合わせは少量、あくまでも肉を中心に献立を組み立てるのが、この店の流儀のようだ。
なので野菜をお願いしてもキャベツスライスしかないとのこと。やっぱりステーキじゃあるまいし…
しかも少量。
何度でもお替りできるようであったが、ここは割り切って肉に集中するしかないと覚悟を決めた。スポーツ系の人間はこんな偏食を好むのだろうか。筋肉をつけるなら牛肉よりも鶏肉の気がするが、旨味は断然和牛が上だ。
しかも近江牛。
美味に決まっている。
サーロイン
いきなり大御所の登場である。世の中は最終兵器を最初に使う人と最後まで取っておく人に分かれると思う。
焼きそばパンを食べるときに最初は焼きそばを奥に追いやってパンだけ食べる人や、あんパンやクリームパンを縁から食べ、次は上部を剥ぎ、中身がむき出しになったところをゆっくりいただくような人だ。
サルの脳みそじゃないんだから、普通に食べればいいと思うが、中央の甘い部分だけをじっくりと堪能したい気持ちも理解できる。
で、いきなりサーロイン。
これは希少部位ではないですな。思いっきりメインの部位ですわな。これを贅沢にもステーキや鉄板焼きで赤ワインとともに食べるであろう、まさにドクターXで院長や理事長が悪だくみの前祝いをするような高級店で食べるイメージのある部位を、贅沢にも焼肉にするとは。
美味なり。
ランプ
続いて、これも見事な霜降りのランプである。サーロインより腰側の、人間でいえば腹筋の奥に位置するインナーマッスルのような部位だ。比較的脂が少ない部位とされるが、見事な霜降りだ。
どんだけふくよかなナイスバディーな牛なのだろうか?
「ああ、これは胃がもたれるやつだ。」
「こんなに霜降りだと胸焼けする。」
ふん、軟弱なやつらめ。私よりも若いくせに、なにをジジイみたいなセリフを吐くか。牛肉の王道は和牛なのだ。
旨味の源泉は良質な脂肪なのだ。肉から溶け出した、甘くてとろっと舌にまとわりつく脂が旨味と合わさって、極上の味わいを醸し出すのが和牛の醍醐味じゃ。
近江牛希少部位コース
ささみ
ついに真の希少部位が出された。鶏肉ではなく牛肉のささ身。人間でいえば下腹部、しかも腿の付け根当たりの肉である。一頭から2kg程度しか取れない部位らしい。
ともさんかく
内ももにあたる部分だ。関西では「火打ち」とも呼ばれる。軟らかくてサシが入って美味なる肉である。焼肉でも美味いが厚く切ってステーキにしても美味いのだ。まして近江牛だから脂がうまい。
くりみ
こちらは肩甲骨付近の肉だ。ミスジや唐辛子と呼ばれる部位に隣接している。最近はミスジがメジャーになり、スーパーでも安く手に入る。やっぱりステーキはミスジステーキだ。唐辛子は博多駅で食べたのが美味かったことを思いだす。
近江牛だ。美味なり。
おそらく以上三種が希少部位コースなのだろう。
ごちそうさま
肉割烹の名の通り肉がメインである。ストレートにいい肉を焼いて食べる。肉がメイン、肉さえ食えればそれでよいという、スポーツ選手らしい発想とでもいおうか。
バランの良い食事ができる店ではないが、外食とは非日常を提供する場でもある。たまにはこんな肉まみれもいいかもしれない。
ただ、個人的にはもっと野菜も食べたかった。付け合わせも重要な裏方なのだ。球場にボールボーイがいなければ、誰が球拾いをするというのだ。
やはり私にはバランスの取れた食事が必要なようだ。
数年前に五十路となったバツイチ男性。昨日は沖縄、今日は北海道、明日は四国…出張三昧の日々、三年間で制覇した店は千店舗を超えた。日本全国及び海外での食事を記録したブログである。五十路とは本来「五十歳」を意味するが、現代社会では「50代」と誤った認識が定着している。それにあやかりブログのタイトルを名付けた。(詳しく読む…)