味噌カツ 双葉

愛知県 名古屋駅 みそかつ 双葉 きしめん定食

みそかつ 双葉

広小路口に行く。目的の店がない。ここではないらしい。中央コンコースに向かう。ここから驛麺通りに入ろうとするが、階段だ。15kgはある重いスーツケースを転がして階段を降りるのは無理だ。次の入口ならば…やはり階段だ。太閤口に向かう。今度こそ…階段。すべて階段。私には為すすべがない。

バリアフリーって言葉、知ってるか?

見回すと大きなスーツケースを持って歩いているのは私だけではない。メーエキは乗り換え拠点だ。新幹線でも、セントレアから飛行機でも、名古屋駅を通るものだ。それがこの体たらく。とても観光大国を目指しているとは思えぬわ!

駅構内での食事をあきらめるとなると、地下しかあるまい。エスカだ。何年か前に山本屋本店にうどんを食べに行ったことがある。味噌カツで有名な矢場とんもあるのだが、あえて外してみたい。どの店がいいか。

ん?

味噌カツ四十年。

ここにしよう。

メニュー

店に入るとカウンター席に通された。午後一時を過ぎているせいか、客はそれほど多くない。店内に流れるBGMはピアノのムード音楽である。耳に心地よい。

さて、何を食べようか。

名古屋定食は私にはちょっとボリュームがありすぎるようだ。ごはんに天むすの組み合わせもちょっと。かといって味噌カツ定食…ん?みそかつ、そば、ご飯、味噌汁、漬物とある。

そば?

なぜ名古屋で味噌カツでそばなのだ?名古屋でそばを食う必要性も必然性も見当たらない。名古屋の麺類と言えば、味噌煮込みうどんにきしめん、それに台湾ラーメンだ。和食に限定すれば、うどんかきしめんである。なのに、蕎麦。いずれの定食にも蕎麦がついているというのか。

解せん。

ほら、きしめん定食があるではないか。味噌カツも八切、キャベツも山盛り。味噌カツ定食に勝るとも劣らない。1300円から味噌汁と蕎麦をきしめんに置換して1580円。

丼ものにきしめんを追加した場合は500円だ。味噌汁と蕎麦は少なく見積もっても300円、差額280円を加えれば580円。ふむ、味噌カツ定食のきしめんセットをみなせば1800円だから、妥当な線だろう。よし、きしめん定食で決まりだ。

ふふふ、味噌カツときしめんのいずれも食べたいという、私の願望と食欲を満たしてくれるとは、まさに僥倖。

きしめん定食

しばしの後に、私の前に運ばれてきたきしめん定食をみて、私は目を疑った。

え?

味噌カツ、小さい。
キャベツ、少ない。

えええ?

メニューの写真では、きしめん定食の仕様は下記の通りだ。

  • 味噌カツは丸い皿にのっている
  • 味噌カツとキャベツは分離して皿の上に盛り付けられている
  • 味噌カツの皿の直径はきしめんのどんぶりよりも大きい
  • ごはんの茶碗の直径はきしめんのどんぶりの二分の一程度

だが、目の前のきしめん定食の実装状態は下記の通りだ。

  • 味噌カツの皿は楕円である
  • 味噌カツの皿はきしめんのどんぶりよりも小さい
  • 味噌カツはキャベツの上に盛られている
  • 味噌カツの皿はきしめんのどんぶりよりも小さい

ちょっと待て、これはバグではないのか?いや、実装ミスではないのか?明らかに仕様が異なる。メニューを見て定食を注文したのだ。注文とは立派な契約である。法律行為である。キャバ嬢の写真を盛るのとは訳が違うのである。ITシステムならば顧客が怒りだして、最悪には裁判沙汰である。

こんなことが許されていいのか?まかり通って構わないというのか?隣の客の味噌カツ定食を横目で確認する。大きな丸い皿にキャベツが別盛だ。しかもたっぷりだ。

this is it! 二兎追うものは一兎を得ずということか?

いや、メニューの写真で味噌カツ定食ときしめん定食では味噌カツもキャベツの量も同じことを確認してからオーダーしたのだ。そもそも味噌カツ定食にはそばが付いている。蕎麦を食べるくらいならきしめんが良かろうと、280円アップでも致し方ないと考えたのだ。コスト計算も検証済みだ。

どうしてこうなる?

隣の客が食べている味噌カツ定食は写真通りだ。しかし、私のは皿の形からして異なる上に、キャベツは申し訳程度だ。

詐欺じゃないか!

まあ、いい。

カリッと揚がったトンカツの肉は柔らかく、八丁味噌のほのかな甘味が肉の旨味を引き立てる。ソースよりもからしの刺激がダイルクトに伝わるように感じる。

キャベツが少ない。

からしをつけると刺激と風味が加わり、味わいの広がりを少々感じる。この方が好きかな。だが、あえて言おう。肉が薄すぎはしないか?これは肩ロースだろう。1580円も出してこの程度の肉しか食えないのは切ない。切なすぎる。世間の世知辛さを思い知らされるかのようだ。

きしめんはどうだ?

味噌カツはいろいろと問題があったが、さすがにきしめんは大丈夫ではないだろうか。一抹の不安を抱えつつ、一口目を口に入れた。

熱い。口の中を火傷した。具はネギとわかめと天かすのみ。シンプルな構成だ。麺はツルツルで滑らかな舌触りなのに、ふっくらともしている。ご当地で食べているからなのか、いつもより美味しく感じるのは原産地マジックなのか。そうだ、七味を入れなければ。見当たらない。一味しかない。どこかに隠れてもいない

そうか。

きしめんに一味を若干量投入。辛さと刺激に食欲がそそられる。熱々のきしめんと相まって、顔から汗が吹き出てきた。

ここで山椒を発見。なぜに?そうか、豚丼と同じ要領か。味噌カツにかけてみる。鼻が詰まっているからか、特に変化はない。使い方を間違ったのだろうか。

ここで休憩だ。トイレに向かう。店外のかなり遠くにある、地下街共用だが、温水洗浄便座だ。そのトイレの手前にあるのは矢場とん。

安定を否定し冒険をチャレンジを選んだ私のミスなのか。変化を求めなければ革新は起こせぬ。安定は種を亡ぼす。進化をあきらめた生物は滅亡する運命なのだ。だがリスクを取れば失敗もつきものである。

店に戻ろうとしたそのとき、向かいに見つけたのはきしめん亭。こちらの方がはるかに美味そうだ。そうか、トンカツだからダメなのだ。私が求めていたのはロースカツ。味噌カツ屋できしめんを求めた私がバカなのだ。きしめん屋で味噌カツを食べるべきだったのだと、いまさらながら気づく。

きしめんはきしめん屋で食べよう。味噌カツはきしめんと一緒に食べないようにしよう。名古屋メシの鉄則を身に染みて理解して、私は名古屋を後にした。

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