肉ざるそば

長野駅 バルA-laugh 餃子とワインと肉ざるそば

晩酌はどこだ?

長野駅、この前は地元の知人に連れられて店に入ったのだが、本日は一人である。明日は昼前から夜まで会議。ランチは弁当、夜はホテル飯。自分の意思で食事を選べる機会はない。せっかく仕事で日本各地を訪れるチャンスがあるのだ。前夜祭として知人らと飲むのもあるが、地元民は明日の会議の準備で忙しいだろうから、声をかけるわけにもいかない。

明日のために遠方からの参加者は前日入りをしているだろう。数年前までは何人かとワイワイガヤガヤと飲むのが好きであったが、五十路になってからは一人、ゆっくりとその地でしか味わえない酒と食事を楽しみたいと思うようになった。

駅前のホテルにチェックインすると、まずはネットで調べて第一目標と定めた店に向かった。ドアを開けたところで、満席ですと断られた、あっけなく撃沈。

ふむ。きっと縁がなかったのだろう。

長野市はオリンピックを開催したほどの都市だ。あのテーマソング「輪になって踊ろう」を作った長万部太郎という人物を知っている人はどれくらいいるだろうか。V6もカバーしているが、角松敏生のことである。音楽活動休止中なので、ふざけた名前を付けたのだとか。五十路で子どもができたところだけ、私と共通である。

バル A-laugh

それだけの都市ならば、善光寺を擁し、多くの観光客が訪れる観光地であれば、夕食を食べることなど容易だと考えていた私は、15分ほど繁華街をうろついた。ラーメンはない、蕎麦もちがう、もみじ茶屋はなんとなく一人では入りたくない。時はすでに午後8時を回り、道にあふれているのは、いい感じにできあがった酔客が大半の中、シラフでウロウロするのは苦痛だ。どうしよう。

そんな私の目に飛び込んできたのはなぜか「肉ざるそば」の文字。ここは信州、蕎麦の文字に心湧き踊る。しかし店はバー。入口からは年配の女性が心霊写真のように私を見つめている。うわあ、なんかイヤな感じがしつつも、その店に入ってしまった。正直、もう、どうでもよくなっていのだ。

メニュー

店に入るとカウンターに通された。さて、何を食べようか。

まあ、居酒屋ほどではないが、一人で食べるには十分なメニューである。

ご飯ものもそこそこある。

ドリンク

まずはビール。お通しはナッツ。やはりバーなのだ。居酒屋ではないことを実感する。

店内にはワインを中心として様々な酒が置いてある。いくつかの料理を注文した。

ピリ辛こんにゃく

薄く切ったこんにゃくをカリカリになるまで焼いて味付け。食感が面白い。こういう食べ方もあるのだな。まるできんぴらみたいだ。やたらと歯に挟まるのが残念だが、これは私の個人的な身体的問題なので料理に罪はない。

そばは作るのに時間がかかる上に、そこそこ量があるという。

トマトサラダ

甘い甘いトマトに刻んだネギの刺激、薄味のドレッシングは油の甘みに日本バジルこと大葉。香りがいい。やはり大葉とトマトの組み合わせはイタリアンなのだ。これは美味い。ついつい食べ進んでしまう。

エビ蒸し餃子を注文しようかと思ったが、尋ねてみると飲茶スタイル、豆板醤をつけて食べるというので一口餃子をセレクト。

グラスワイン

この店はグラスワインが豊富にある。ボトルでしか飲めないようなものがグラスで注文できる。

せっかくなので伊勢志摩サミットで出されたワインを飲んでみる。日本が誇る老舗ワイナリー、メルシャンが醸造した北信ワイン。サミットで提供されたのは「北信シャルドネRGC千曲川左岸収穫」。北信地区とは長野県北部であるが、ワイン用のブドウ産地は千曲川の北側の長野市北部と南側になる須坂市である。

この二か所では土壌が異なり、ブドウの出来も変わるとのこと。この店のワインは「北信シャルドネ アンウッデッド2016」。unwoodedとは、樽を使わない、つまりステンレスタンクで醸造されたワインのことだ。北信地区の南側と北側のぶどうをミックスして作られたという、癖のない柔らかな、日本酒の特別純米のようなワインだ。餃子でもピリ辛こんにゃくでもなぜか包み込んでしまう。すごい。

餃子

餃子は薄い皮にニンニクの効いた柔らかい餡。食感はイマイチだが、刺激のあるタレにつけて食べる餃子をワインが優しく包み込む。すごいな、これ。

安曇野シャルドネにムール貝エスカルゴ風を注文する。私は肉ざるそばを食べにきたのに、どんどん目的から離れていく。和を目指していたはずが、洋にシフトしていく。これもワインのなせる力なのか。

マスターは世田谷で40年会社をやっていてそれから長野に来たそうだ。埼玉にもよく来ていたそうで、35年前の話で盛り上がってしまった、

ワインの種類が豊富でテイスティングをする日も客で多く訪れるそうだ。グラスで出すには珍しいワインも少なくないとのこと。もちろん、丁寧に解説してくれる。

安曇野シャルドネもシャトーメルシャンが醸造する、安曇野地区で獲れたブドウから作られたワインである。北信ワインとは真逆の味わい。あちらが軟水ならこちらは硬水だ。しっかりとした風味、ぶどうの味、スッキリとした、後味が引かないのがクセなのだろうか。リッチな香りが鼻を抜ける。ワインだけを楽しむならこちらだ。

ムール貝エスカルゴ風

塩気のきいたベジョネーゼソースとムール貝の相性がいい。バジルの香りが鼻孔をくすぐる。ワインとの相性はイマイチだが、それは仕方がない。割り切って飲もう。

赤ワインはブラーヌ・カントナックのセカンドである。美味い。いつも飲んでるレベルの味だ。グランクリュをグラス売りする稀有な店。資産家の鈴木と飲みに行った時に出されたワインと同じ系統の味。

グランクリュとは、フランスでメドック格付けを持つシャトーのことである。なんのことやら。フランスのボルドー地方にあるメドック地区には6つの村がある。そのひとつがマルゴー村。このメドック地区のシャトー(ブドウ栽培からワイン醸造までを一手に行う生産者)を、ナポレオンがパリ万博のため、1855年に格付けさせたのが「メドック格付け」であり、60のシャトーのみが1級から5級まで格付けされた。

5級と言えでも、格付けされただけすごいもので、150年以上経っても、基本的に格付けは変化していない。 ブラーヌ・カントナックはメドック格付け2級、つまり生産されたワインはグランクリュとなるのだ。

以上の解釈で合っているのだろうか。まあ、私は素人なので、こんなものだ。

肉ざるそば

そしてついに締めの肉ざるそば。ごま油の香りと卵黄の甘み。喉越し良い蕎麦。さすがにワインは飲まなかったが、肉そばというだけある。変わり蕎麦だがこれはありだ。

ふらっと入った店だった。和食で決めるところをバーに入った。イレギュラーの連続の先にあったのは、予期せぬ味わいであった。これが旅の醍醐味である。胃も心も満足して、ホテルに戻った。

そして二次会

ホテルに戻ると、入口に知人らが立っていた。すでに午後十時。たった今、長野についたとのことだ。そのまま一緒に居酒屋に行き、馬刺しなどをつまむ。その後、長野のキャバクラへ。なかなかレベルが高い店であった。女の子たちは長野市から離れた地域より通勤していた。

翌日、地元民にキャバクラの店名を告げると、長野市内で一、二を争う人気店だと告げられた。車で一時間かけても飲みに行くほどの店なのだとか。秋に再び長野市を訪れる予定だ。楽しみが一つ増えたのだった。

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