宮崎市 鳥せい
夜の懇親会まで少し時間があるから、一緒に飲もうと誘われて呼び出されたは焼き鳥屋。
なんでやねん。いらん、ちゅーねん。宮崎地鶏を焼いたやつは炭っぽくて、美味い思たことないっちゅーねん。
メニュー
カウンターには呼び出し元が座っている。さて、何を食べようか。メニューを見る。
焼き鳥だよねえ。地鶏の店だよねえ。
「もう、頼んでおきましたよ。」
遅参した者に選択権はないということか。時間ないもんな、仕方ないよな。
お通し
ビールを頼むとお通しと一緒に差し出された。店内は小さい。カウンターとお座敷にテーブルが二つ。夫婦で切り盛りしている店のようだ。
お通しはゴボウの煮付けと竹輪のマヨネーズあえ。特筆することもない、普通の味だ。いったい何を頼んだのだろうか。
地鶏の刺身
お、出てきました。なんと地鶏の刺身だ。鳥刺しなのだ。見た目には美味そうだ。食べてみる。刺身のツマは玉ねぎだ。馬刺しみたいだな。醤油は甘い。そう、九州では甘い醤油が主流だ。
私はあまり好きではない。辛口の方が好きだ。
そんなことを言ったところで、辛い醤油が出てくるわけでもない。郷に入れば郷に従えだ。しょうがを溶いて、刺身をつけて食べてみる。
う、甘い。
しっかりした歯ごたえだ。噛めば噛むほど肉から甘みが出てくる。もちろん臭みなどありようもない。こんなにも鶏肉に甘い醤油と生姜が合うとは驚きなのだ。
ハイボールください。え?ないの?それじゃ、焼酎に炭酸とレモンスライスください。
自分で割ってレモンサワーを作る。すでにロックで飲みだしているのもいた。皆、この後、懇親会だよ?自由人だな。
地鶏のたたき
刺身では添えられていた玉ねぎが、薬味として鎮座している。一緒に食えというメッセージなのだろう。大将に言われた通り、酢醤油につけ、一口食べる。
う、甘い。
肉が甘い。食感は刺身ほど歯ごたえはなく、肉も柔らかいのに、刺身と同じく噛めば噛むほど肉から旨味が染み出てくる。
すごいな。こんなに美味い鳥刺しは久しぶりに食べた。小洒落たダイニングバーで、若い店主が試行錯誤して仕入れて料理した、小綺麗な皿に美しく盛り付けられた鳥刺しもいいのだが、年季の入ったいぶし銀の大将の一品には敵わないと痛感する。
地鶏もも焼
もう一品、頼んであるという。なんじゃ。鳥じゃ?地鶏もも焼きだと?
あれ嫌い。美味しくない。炭臭くて嫌だ。
出てきたよ…もも焼き。食べるよ。腹減ってるし。
あれ?
なにこれ?
美味いじゃんか?!
肉が甘くてジューシー。初めてこいつを美味いと思った。なにが違うのか?大将が一言。
「レアで焼いてるんですよ。」
続けて言った。
「辛味噌と普通の味噌を混ぜて食べてください。」
言われなくてもそうしてるわい!同席者もかぶりついておる。
何と大将と奥さんは六十七歳と七十歳。36年間も店をやってきたので、九月末で閉店だという。弟子もとらず、誰にも技を継がせることなく、名店がひっそりと消えゆくのは忍びない。
なぜ事業承継ができないのか。
鶏皮塩
この腕ならば当然、焼き鳥も美味いはずだ。鶏皮を塩でリクエスト。
うーむ、かりふわ。言うことなし。焼き鳥店のレベルは鶏皮を食べれば分かると考えている私に、この店は感動を与えてくれた。
二度と食べることはないのだろうな。寂しいことだ。
数年前に五十路となったバツイチ男性。昨日は沖縄、今日は北海道、明日は四国…出張三昧の日々、三年間で制覇した店は千店舗を超えた。日本全国及び海外での食事を記録したブログである。五十路とは本来「五十歳」を意味するが、現代社会では「50代」と誤った認識が定着している。それにあやかりブログのタイトルを名付けた。(詳しく読む…)