冷や汁

宮崎空港 おもてなし 夢かぐら 元祖冷汁定食

二日酔いが辛い

久しぶりに激しい二日酔いだ。アタマが痛い、気持ちが悪い。昨晩は何軒ハシゴしたのだろうか。会議の後に明るいうちから飲み始めて、21時にロシアンに行って、22時にキャバクラで歌って、23時からパーティールームで道民ナイトが始まって、このあたりから記憶がない。締めにバー ラルゴに行ったのは何時だろうか。

立て続けの飲み会に、自業自得の寝不足で、今朝は起きる自信がなかった。こんなこともあろうかと、あらかじめ最悪のケースを想定して、昨日のうちに朝八時半のタクシーを手配しておいた。それで義務感に駆られて、予定時刻に起きることができた。

目が覚めたのはいいが、大浴場に行く気力も時間もない。この時はまだ体調に異変はなかったが、食欲は控えめだったので、朝食会場にて肉うどんと冷汁を食べた。その後、荷物をしまってタクシーで木の花ドームへと向かう。某団体の全国大会なのだ。記念式典なのだ。

ああ、気持ち悪い。

体調不良のまま二時間を乗り切った。滞りなく素晴らしい式典が終わると、タクシーで空港に向かう。回復度は70%といったところか。これならば昼飯を食べることができそうだ。

宮崎空港ランチ

宮崎空港にはいくつかのレストランがある。さて、何を食べようか。あまりじっくりと探している時間はないのだが、まずは郷土料理のりゅうきゅうが目に入った。

りゅうきゅう。漢字で書くと琉球。沖縄の漁師から宮崎に伝わったとされる料理だ。昨晩だろうか、その前だろうか、食べた記憶がある。美味かった。ようは漬け丼だ。使う魚はアジやサバ、ぶりやカンパチなど、この地で取れる地魚だ。熱々のご飯に薬味を添えて食べる。不味いわけがない。さらに出汁をかければ二度うまい。

どうしよう。

別の店を覗く。冷汁。今朝も食べたとは言え、ほんの少量だ。今はかなり腹が減ってガッツリと食べたい気持ちが先行しているが、間違いなく身体は気持ちについてきていない。間違いなくトンカツなどはご法度である。ならば、ここはひとつ冷汁にかけてみようではないか。りゅうきゅうは自宅でも作れる。私は店に入った。

おもてなし 夢かぐら

ひとり客なのでカウンター席に案内される。メニューを見るが、やはり冷汁以外には用がない。この店の冷汁は三種類。元祖、海鮮、トロピカル。

トロピカル?

冷汁にバナナ、リンゴ、パイナップルが入っていると説明書きにある。

美味いのか?

まずは元祖だよ。基本を押さえずにいきなり応用編に行くと、大概ろくなことにならないのは、どの世界でも言えることだ。むしろ丸干の方がいらない気もするが、元祖をオーダーした。

元祖冷汁定食

刻一刻と離陸時間が近づく。数分で私の眼前に元祖冷汁定食が運ばれてきた。どんぶりの冷汁をよく混ぜてからご飯ににかけるよう、説明を受ける。なるほど、箸でかき混ぜると、私はおもむろにどんぶりを持ち上げ、中身を豪快にご飯にぶちまけた。

あれ?

だとすると、このレンゲみたいなのは何に使うのか。まさか冷汁をご飯にかけるときに使うものであったか?

まあいい。

時間もないことだし、この方が時間もかからずに、確実にすべての冷汁をご飯に投入できるから合理的なのだ。心の中で行為の自己正当化を完了すると、木のスプーンでご飯と冷汁を軽く混ぜ、一口食べてみた。

ああ。

味噌とゴマの香りがダブルで口の中に広がる。時折鼻を抜ける大葉やミョウガの薬味の香りに癒される。キュウリのパリパリとした食感も心地よく、私好みに少し硬めに炊かれたご飯を、冷汁がパラパラにほぐし熱を奪う。潰された木綿豆腐もご飯と混ざり、味噌と絡み、味と食感に変化をつけてくれる。

ああ、胃に染み込むようだ。優しい味が疲れた胃と身体に活力を与えてくれるかのようだ。朝も食べたが、これほどまでに冷汁がうまいと感じたのは初めてである。

次に、このピカピカに光る野菜だ。見た目にも食欲をそそられる。こんな野菜が食べたかった。こんなサラダを求めていた。ほんのり甘めの日向夏ドレッシングをかけ、箸でつまんで口に入れる。

おお!

口の中にセロリの香りが広がる。予想外だ。想定外だ。独特のクセのあるセロリの風味がたまらない。香り野菜は大好きだ。冷汁の大葉とミョウガでも嬉しいのに、まさかのセロリ。ドレッシングの味わいと相まって、私の食欲をいっそう刺激する。

まさかのチキン南蛮

冷汁、サラダと来れば次はチキン南蛮の出番である。ターンである。いつも食べるのはもっと大きいが、セットものにありがちな一口サイズだ。メインは冷汁だ。本来はメザシと冷汁が古来から伝わる組み合わせであり、チキン南蛮は宮崎の玄関口である空港で、客のわがまま、いや、最後に一口でいいから、もう一度チキン南蛮を食べたいという願望を叶えるためにメニューに加えたセット物なのだろう。もしくは宮崎を離れる地元民が、最後にソウルフードをどうしても一口食べたいと…まあ、どうでもいい。

いずれにしろ、ついでのメニューだ。期待は禁物だ。タルタルソースをたっぷりとつけて食べてみる。肉を噛みしめる。

ほう。

歯ごたえはあるが柔らかい。酸味控えめのタルタルが、鶏肉の旨味を見事に引き出している。おぐらよりもこちらの方が好みだ。そして冷汁を食べる。

おお!

なんだこれは?冷汁とチキン南蛮がこうまでも相性がいいとは。意外である。半世紀生きたこの身でも、世の中にはまだまだ知らないことが多すぎる。

注文しておいてなんだが、冷汁とめざしの組み合わせには疑問が残る。本当にこれは伝統的なメニューなのであろうか。物は試しとめざしをかじる。

苦い。

冷汁を食べる。苦味が消える。なるほど、そういうことか。でも、こうまでしてめざしを食べたくはないやね、固いし、食べた気がしない。

気を取り直して、チキン南蛮と冷汁だ。こんなにも美味いものだったか。おそらく、生まれて初めて実感した冷汁の素晴らしさ。舐めたものではない。どうすれば妻にもこの旨さを味あわせることができるのか。そんなことを考えながら食べ終えた。

ごちそうさま。

沖縄に帰ろう。

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