鮨処 わたつみ かつお漬け丼

宮崎空港 鮨処 わたつみ 初カツオ漬け丼

りゅうきゅうを求めて

熊本からレンタカーで宮崎市に入った。夜に会議を済ませ、居酒屋で懇親会。料理はいまいちであった。その後、バーラルゴで軽く飲んで、ホテルに戻った。翌朝7時44分、トイレで用を足していたところ、軽い揺れ。地震だ。少し長く感じたが、大した揺れではないので、二度寝。8時48分、電話がなった。緊急地震速報だ。揺れ始めた。今度はでかいし長い。だが、横揺れだ。問題ない。のちにニュースで震度5弱だと知った。

地震で目が覚めたので、ゆっくりと支度を済ませてチェックアウト。今日は伊丹乗換で出雲へ向かうのだ。なので、本日のランチは空港で済ませることになる。ならば今回はりゅうきゅうを食べると心密かに決めていた。

三月にここ宮崎空港でランチを食べた時に、冷汁(ひやじる)かどうか迷ったのだ。二日酔いでなければ迷わずりゅうきゅうを食べていたが、あの時の体調では、冷汁に走るのも致し方ない。朝食でも軽く冷汁とうどんを食べていて気持ち悪くなったくらいだ。久しぶりにリバースしたが、胃液しか出てこなかった。

前回訪れた時に、酔っていたのでどこで食べたかは覚えていないが、りゅうきゅうがものすごく美味かった。宮崎で取れるブリなどの魚を漬けにして、熱々のご飯にのせ、薬味をトッピングしただけのシンプルな料理だ。沖縄の漁師から伝わったレシピなので「りゅうきゅう」と呼ばれた、らしい。語源には諸説あるようなのだ。

同じく、前回、宮崎空港でランチを食べるとき、美味そうなリュウキュウに目を奪われ、食べてしまおうかと考えたのだが、あまりの体調の悪さに冷汁を選んでしまったのだ。それだけが今でも心残りなのだ。

鮨処 わたつみ

熱々のご飯の上にのせた、ぶりや鯖の漬けにほどよく薬味をかけて、たっぷりのご飯と一緒に口の中に放り込む。ああ、思い描いただけでヨダレが出てくる。イメージトレーニングは完璧だ。さあ、どこの店だ?

地震の影響で開店できない店があった。

前回、冷汁を食べた店だ。トロピカル冷汁定食が販売休止なのは、地震とは無関係だろう。これ、食べる人がいるのか私は懐疑的であったから、当然の帰結である。

そうか、この季節、宮崎はカツオ押しなのか。全店のメニューを見て回るが、リュウキュウはカケラも見つけられぬ。

なぜだあああああああ?!

季節感のある魚を使うわけでもなし、特殊な素材を食べるわけでもなし、むしろ年中いつでも出せる料理ではないのか?それとも何か?カツオのせいか?宮崎は今が初カツオの旬らしい。江戸時代は嫁を質に入れてでも食えと揶揄された食材だ。どの店の店頭にも、カツオののぼりが立っていて、飲食店全体がカツオ押しのような有様だ。

確かにカツオも美味い。

メニュー

だが、カツオを食べるにしても、どんぶり飯は譲れない。イメトレまで完璧に済ませた今の私に、寿しだの定食だのは、フィギュアの靴を履いたまま卓球をしろと言うようなものだ。せめて私の儚い願いのひとかけらでも叶えてるけるというのならば、何かどんぶりが…目の前に現れたのぼりはカツオ漬け丼。

これだよ。

となりのカツオ茶漬けも大いに気になったが、どんぶりにこだわることにしてみた。

店に入るとテーブル席に案内された。迷うことなくカツオ漬け丼をオーダーする。

とは言え、せっかくなのでメニューを眺めてみる。

鮨にバッテラ。地物を使っているのだろうか。

レタス巻きね。前回、発祥の店で食べたな。

初カツオ漬け丼

運ばれてきたのはどんぶりに味噌汁、そしてガリ。

カツオのづけはくさみなく、身はほどよく柔らか、みごとに旨味を引き出しているが、少々味が濃い気もする。そして、最大の誤算は酢飯であることだ。

私の中で、カツオ漬け丼とは、温かい飯の上に鰹の漬けが整然と盛り付けられ、その中央には緑の薬味ネギ、ご飯と鰹の間にオニオンスライスがあってもいいだろう。アクセントにショウガやミョウガをトッピング。付け合わせは味噌汁に漬物である。

たが、この丼はどうだ。酢飯の上にまばらに置かれた鰹の漬け。その上にはオニオンスライスにパプリカ、水菜、さらには分厚い、極厚の削り節。ぶりのあら汁には紫色の麩、付け合わせにガリ。

トロピカルか?

宮崎ごときが南国気取りか。南国とは雪が降らないものだ。沖縄こそが真の南国だ。巨人の春季キャンプも後半は那覇で行うくらいだ。宮崎は寒いんだよ。三月の宮崎の夜、冷たい風の吹く中で飲んだことを私は一生忘れない。マンゴーは北海道でも栽培できるから、南国の証明にはならぬ。

とにかく、だ。これは漬け丼というより、鰹サラダ丼だ。そもそも私は、丼とは温かいご飯であるべきと決めている。寿司でなければ酢飯は食べたくない。ちらし寿司でもバラ寿司でも、寿司と名が付いていれば酢飯であるべきだ。

おかしいだろう?

牛丼に酢飯を使うだろうか?酢飯の上に天ぷらを載せた天丼が許されるだろうか。丼と名乗る以上は温かいご飯であるべきなのだ。農水省が何もしないというのであれば、超党派の議員連盟でも設立して、議員立法で法制化して、酢飯の場合は丼と名付けないように規制するべきだ。日本人の私が混乱するくらいなのだから、インバウンドの外国人など、訳が分からなくなるに決まっている。

ご飯は一粒一粒が立っている。これが酢飯でなければ、もしくはこいつで握った寿司はいかほど美味いだろうか。

分厚い鰹節はなかなか硬い。干し肉を食べてるかのようだ。ご飯と一緒に食べてみる。カツオのふりかけを食べているかのようだ。

私の頭の中のカツオ漬け丼とはあまりにもかけ離れた、トロピカルカツオサラダビネガーライス。料理にはクリエイティブさが必要なのは分かる。なるほど、この手があったかと、膝を打つような意外な組み合わせと出会うこともある。だが、こいつはダメだ。不味いわけではないが、不満と後悔だけが残る食事だ。蒸したジャガイモ塩辛トッピングと同じくらいダメだ。店がいけないわけではない、職人の腕が悪い訳でもない。私の好みとこの店の感性が不一致なのだ。食事は嗜好品だから、仕方がないのだ。

こんなことならば、カツオ茶漬けにすればよかった。まさかこいつまで酢飯ってことはないだろうと信じたい。

私は心に言葉を刻み込んだ。

「寿司屋の丼には気をつけろ。」

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