隠れた名店
先ほど飲んだ店で客と店主が気になる会話をしていた。
「こないだイッキに初めて行ったんですよ。そしたら店の大将に『ニトロの方ですよね。』っていきなり声かけられてね。」
カウンターの客が自分の連れに説明する。
「イッキってね、創作料理の店で美味いんだよ。サークルKの隣にあるよ。」
イッキ、創作料理、サークルKの隣。十分な情報だ。ネットで検索する。間違いない、繁華街から離れたところにある店だ。
ホテルに戻り、缶ハイボールをウィルキンソンで割りながらちびちびやっていると、Facebookに鵜沼駅を背景に撮った写真と「今、ここです〜もうすぐ着くからね。」と言う投稿が。
メッセージではなくて、公開かよっ!
行くしかないじゃないか。
投稿は20分前。時刻表を調べると、まもなく列車が駅に着く。慌てて服を着て、駅に向かう。電話をかける。あ、電話番号がない。Facebookメッセンジャーで通話する。
「今、着きました〜」
あれ?電話と同じ声が聴こえるぞ?前を見ると、目の前に北海道民2名が現れた。
「お疲れ様〜」
まずは二人を駅前のホテルに案内し、チェックインを済ませる。その間に、先ほど収集した情報を元に、居酒屋イッキに電話をする。15分後に3名と告げると、あっけなく予約が取れた。
二人を先導して、Googleマップを頼りに店に向かう。駅前から住宅街に入ると、一気に街灯がなくなる。道が暗くなる。
「本当にこっち〜?」
道民女子が不安げに尋ねてくる。言うな、私まで不安になる。
「大丈夫。こっちだから。」
自分に言い聞かせるように答える。道はますます暗くなる。躊躇なく進む。
「本当にこんなところに店があるの〜?」
もう一人の道民が呟く。奇遇だ。実は私も同じことを考えていたところだ。
あ、サークルKの看板が見えた。
「ほら、あそこですよ!サークルKの隣だから。」
その店は本当にサークルKの手前にあった。
岐阜県美濃加茂市 居酒屋ikki
店に入り、予約したことを告げると個室に通された。明るい店内は雰囲気もいい。メニューも豊富だ。何を食べようか。その前にドリンクだ。ハイボールは角ハイかと質問すると、返ってきた答えは、
「ハイボールです。」
…まあ、いいや。さっきの店もだが、この街には角ハイはないのか?
突然、一人の男性が個室に乱入してきた。
「まあまあまあまあ。ここってタバコ吸える?」
まさかの知り合いだ。こいつも北海道民だ。
「なんでこの店、知ってるんですか?」
飲み屋街から外れたこの店ならば、土地勘のない知り合いは来ないはずだと考えた彼は、ここで秘密の会合を持っていたようだ。そこに私が現れたので、相当驚いたらしい。ついでに禁煙の店内でタバコを吸える場所を探していたようだ。私は彼に言った。
「外じゃないの?灰皿も置いてないし、吸えないと思うよ。」
個室は喫煙可であることを、5分後に知った。
「あっちにまだ色々といますよ。」
男性に言われて、個室を出ようとしたその時、ゴン!という音ともに、頭に激痛が走った。
「大丈夫ですか?!」
店のスタッフが心配そうに声をかけてくれた。個室の入口は意図的に高さが低くなっているので、少しかがまないと、頭を打ち付けてしまうのだ。思いっきりコブになっている。知人らに挨拶を済ますと、何食わぬ顔で個室に戻る。
痛い。
メニュー
さて、何を食べようか?いや、私は腹が減っていない。腹を空かせているのは、私の目の前にいる北海道民2名だ。本日のおすすめに目を通す。
水ナスのピクルスが気になる。
「カツオ食べたい!」
道民女子が叫ぶので、これもオーダーする。
「稚鮎のフリットは食べたほうがいい。」
先日、高山でも食べた。美味かったので、二人に勧める。
「俺はコチのカルパッチョだな。」
もうひとりの道民が静かに呟く。うむ。コチは私も好きだ。いいだろう。
「北海道のウニ ジュレ仕立て!」
なんで岐阜で地元(北海道)のウニを食べるのだ?まあ、いい。
以上でフードの注文は終わり。ああ、アクアパッツァも食べたいと道民がのたまう。良きに計らえ。ハイボールは微妙だったので、麦焼酎「なかなか」のボトルを入れ、炭酸で割ってレモンを絞った。
野菜を楽しむ
さて、お通しはトマトのおひたし コンソメジュレ仕立て バジル添えとでも言うのか。美味い。この店はジュレを好んで使うのか?
続いて水ナスのピクルス。確かにピクルスだが、酸味は抑えめだ。タケノコのピクルスもうまかったが、水ナスもこうなるのか。うーむ。美味い。
魚介類もいい仕事をしています
コチのカルパッチョ。付け合わせのルッコラだけ頂く。腹がいっぱいなのだ。ルッコラ美味し。あー、やっぱり食べておけばよかったと、翌日、写真を見て後悔した。
鰹のタタキ。刻んだにんにく醤油づけを添えただけ。たたきといっても表面を炙っただけだから、味は刺身に近い。この薬味が、ニンニクの香りを出しつつ、自己主張しない。カツオの旨みをきちんと味わえる。いいなぁ。
稚鮎のフリット。このほのかな苦みがたまらない。レモンを絞ると、さらに味に広がりが出る。
続いてはウニのジュレ仕立て。不思議な味だ。ウニの味がしない。臭みもない。それでいて美味い。さすが創作料理の店だけあるな。
いやあ、どれも美味い。腹がいっぱいなはずなのに、ちょいちょい摘んでしまう。
そして、メインはほうぼうのアクアパッツァ。豪快だ。ホウボウはたいがい刺身で食べるのだが、淡白な白身にスープが染みて、これまた素材の味を引き出している。塩加減もバッチリだ。腹がいっぱいなのに、食べてまうがな。
さらにいつの間にか、締めが注文されていた。北海道民よ、どんだけ腹が減ってるんだ?ペスカトーレは美味かった。だいぶ呑んでいたので、具体的にどう美味かったかは覚えていない。美味かったと言う記憶で十分じゃないか!食べた記憶がないことだって、少なくないのだから。
「フードがラストになりますが。」
スタッフが注文を取りに来る。
「もう、十分!」
3人が答える。
もう無理。食べらんない。お家に帰りたい。精算を済ませて帰ろうとするのを、多数の輩に阻止される。ああ、先に来て密談をしていた者どもではないか。
「次、行きましょう!店、決まってますから。」
いつの間にかタクシーまで呼ばれている。
うああ、巻き込まれた。これは深夜コース確定だ。
飲みきれなかった焼酎のボトルを握らされたまま、私はタクシーに押し込まれ、次の店へと連行されたのだった。
居酒屋IKKI ブログ
数年前に五十路となったバツイチ男性。昨日は沖縄、今日は北海道、明日は四国…出張三昧の日々、三年間で制覇した店は千店舗を超えた。日本全国及び海外での食事を記録したブログである。五十路とは本来「五十歳」を意味するが、現代社会では「50代」と誤った認識が定着している。それにあやかりブログのタイトルを名付けた。(詳しく読む…)