とんかつ かつふじ

千歳駅前のホテルにチェックインしたのが午後五時。腹が減ってきた。さて、なにを食べようか。昼間が魚だったので肉にしようと思うが、なんだか気がすすまない。札幌ジンギスカンなる美味い店があるようだが、食指が動かない。昼もそうだった。焼肉に心惹かれないのだ。

なぜだろう？

なんとなくとんかつが食べたい。揚げ物のほうが焼き物よりも脂っこいではないか。矛盾してはいないかと自分に問いかける。答えは出ない。ネットで調べると、千歳駅の向こう側に飲食店が固まっている場所があるらしい。こうなったら自分の勘で店を選ぶしかないな。とりあえずホテルを出る。

数分ほどで目的地に着いたが、日曜の夜と言うことで店の半分は休業していた。選択肢は二つ。焼肉かとんかつ。答えは明快だ。躊躇なく「とんかつ かつふじ」のドアを開けた。まだ夕食には少し早いからか、店内は空いていた。

「お好きな席にどうぞ。」

一人客はカウンターに座るのだろうが、お好きな席ということなのでテーブル席に座る。

メニュー

さて、何を食べようか。メニューを見る。

なんだか料理が豊富だぞ。

単品、セット、カレー、どんぶり、創作料理ととんかつをあらゆるバリエーションで食すことができる。

これは迷うな。

とんかつ店に来たならば、鉄板はロースカツだろう。ならばここは上ロース２００グラムなのだ。しかし、ロースとメンチのセットも捨てがたい。気になる。どんどん客が入ってくる。

「ネギ塩一つ。」

カウンターの客が注文する。ネギ塩？そんなメニューあったのか。探す。あった。当店ナンバー２のメニューとある。うーん、この系統は有楽町で微妙だったから、やっぱり、ここは上ロースだ。決めた。

オーダーをしてもまだ気になる。後から入ってきた家族連れの客がロースとメンチのセットを注文している。やはり美味いのか。メニューを再度見る。なんだ、この解説は？これを読んでメンチカツを食わないではあるのか？千歳だぞ。次はいつ来るのかわからないぞ。

朝令暮改と言うがいい、優柔不断と呼ぶがいい、人間は常に考えなければならないのだ。決断を下したら、あとは考えなくていいなどと言うことはない。攻めた直後に間違えたと思えば撤退もありだ。意固地になって大損害が発生したときには手遅れなのだ。そう、パチンコやパチスロで、この台は当たらないと分かった時点で損切りすれば被害は最小限に抑えられたのに、ここまで突っ込んで今さら止められるかと、傷口に塩を擦り込むかのごとく打つのと変わらないのだ。持ち金を無くしてから我に返ってもダメなのだ。

ならば、ここは計画変更だろう。すいませーん、先ほどの上ロース、ロースとメンチのセットに変更できますか？

「大丈夫ですよ。」

カウンターの男性がにっこりと笑いながら答えてくれた。間に合った。もう迷いはない。私の判断の正しさを確かめるだけだ。

ロースかつとメンチカツセット定食

生ビールを飲みながら、セットの到着を待つ。しばらくしてそいつはやってきた。

ロースはとても柔らかい。脂ぎっていないので肉の味が楽しめる。見た目には厚い衣だが、食べてみると厚さを全く感じない。粉っぽいこともない。サクサクの軽い衣だ。ああ、このロースは少し上品に感じるぞ。もう少しワイルドなのが私の好みだ。というか、脂が落ちて、肉が少しパサパサしてる気がする。冷凍ものかな…

キャベツをお代わりだ。

メンチは熱々のジューシー。噛むたびに肉汁が溢れて来るかのようだ。脂のうまみから、様々な部位の肉が入っているのがわかる。これは専門店でなければ作れないメンチカツだと感じた。ああ、肉屋のメンチカツと自宅のメンチカツの違いはこれなのだろうか。ここでキャベツのお代わりだ。みずみずしい、スライスされたばかりのようなキャベツ。そう、今気付いてしまった、なぜ私がとんかつ屋に行きたかったのか。それは野菜が食べたかったからだ。とんかつ屋のキャベツが自宅で食べる生野菜に一番近いのだ。

個性の異なる二つのカツを交互に食べると、それぞれの持ち味をより楽しむことができる。やはりセットで正解だ。ロースの力不足をメンチが補う。単品ではこのように楽しむことはできなかったはずだ。辛口のソースが二つの味をまとめ上げる。辛子はアクセントに欠かせない。加えてキャベツだ。ハイボールお願いします。

そして完食。満足だ。ご飯残してごめんなさい。

トイレは様式だが、洗浄便座ではなかった。店内には家族連れもちらほら。夜だからだろうか、カウンターの一人客が一番多かった。

残したものを持って帰ることもできるようだ。これは嬉しい。この辺りに住んでいればの話だが。もちろん、お土産用に持ち帰りを頼むこともできる。自宅の近くにこんな店があったら、絶対に通うと思う。