広島お好み焼き

広島市 元祖へんくつや 薬研堀店 イカ天肉玉そば

北海道からの来訪者

夕食を終えてホテルに戻った私は、シャワーを浴びてお好み焼き屋の油臭さを洗い流すと、缶ハイボールを炭酸水で埋めながら、一人まったりと「ガンダム ジ オリジン5 誕生 赤い彗星」を見ていた。

amazonのプライムビデオで様々なアニメを手軽にみることができる。すごい時代になったものだ。画面の中のシャアザクも、40年前の初代ガンダムの絵とは緻密さも動きも違う。

もしも子供の頃にこのクオリティーを見ていたら、40年後のアニメはどうなっているのだろうか。幼い娘たちが今の私と同じくらいの年齢になった時、私はすでに鬼籍に入っているだろうが、ガンダム生誕80年ではどんな作品が作られているのだろうか。

はたまた宇宙戦艦ヤマトの続編は作られているのだろうか。
さすがにエヴァはないだろう、あれだけは庵野監督でなければ、やらかすことは不可能だ。

「もう少しで素晴らしい政治ショーをぶちこわすところだったよ。」

シャアがレビル将軍を解放したあたりで、画面にメッセージが表示された。

「今、空港に着きました。今から飯でもどうですか?」

相葉氏である。他の人間ならいざ知らず、相葉氏の誘いとあれば断るわけにはいかない。一時間後にはホテルに着くだろう。彼との邂逅に向け、酔いと眠気でシャットダウン寸前だった私は再起動することにした。

元祖へんくつや 薬研堀(やげんぼり)店

平和通りの東横インの前で相葉氏と合流。千歳からの最終便で広島に入ったと言う。飛行機が遅れてこんな時間に。現在23時。とりあえず飯が食いたいと言う。いいでしょう、付き合いますよ。

たまたま通りがかった、カウンターのみの小さな店。なんとなくよさそうだ。「へんくつや」という名前も気に入った。ここにしよう。きれいに磨かれた鉄板の前に座る。

メニューは頭上にある。お好み焼きのメニューだ。

ねぎ焼き、とん平焼きに野菜炒め。広島にもとん平焼きがあるのだな。本日のメニューはホルモン、センマイ、豚トロ、白肉(ミノ)、鳥せせり、焼豚チャーシュー、豚ミミ、ゲソ塩焼き、イカ塩焼き、イカバター焼き、野菜炒めにもやし炒め。おそらく、お好み焼きに使うキャベツともやしの混合物を炒めたものが野菜炒めであろう。

きれいに磨き上げられた鉄板が美しい。ステンレスの放つ光沢は私の好みなのだ。自宅のガスレンジもステンレス仕上げの、シンプルなものである。

イカゲソ炒め

レモンを絞る。ハイボールは角ハイだ。太くてこりこりしたげそからは、イカの旨味がレモンと相まって口の中に広がっていく。これをハイボールで流し込む。いいなあ。

イカ天肉玉そば

鉄板ではすでにお好み焼きの調理が始まっていた。まずはイカ天を焼く。水でふやかしているようだ。イカ天とは、そう、あの駄菓子のイカ天だ。10個入りの業務用が調理場に置かれている。

水溶き小麦粉を鉄板で薄く延ばし、その上にたっぷりのキャベツともやしを置く。料理場の奥にある寸胴鍋では麺がゆでられている。これが広島お好み焼きの特長だ。生めんをゆでて使うのがマストなのである。ただし、うどんはゆでたものを使うことが多いらしい。

ついに完成したイカ天肉玉そば。私は少しだけいただく。たっぷりの野菜とそばのコンビネーション。もちろん、玉子と肉も重要なキャストだ。イカ天はいまいち存在感が見当たらない。構わぬ。気にせぬ。

ソースだけで食べるスタイルのようだ。マヨネーズが見当たらない。

とん平焼きは大阪だな

なんとなくとん平焼きが食べたくなった。大阪発の料理が広島ではどのように変化するのか。鉄板に卵を二つ割り、コテで伸ばしていく。そこに焼いた肉を置いていく。仕上げはねぎと青のり。うーん、見た目がすでに大阪と違う。

食べてみる。悪くはないが物足りない。やはりマヨネーズが欲しい。ソースだけだとなにが違うのだろうか。マヨネーズの原料は玉子と酢である。料理は五香五味と言う。五味とは「甘い・辛い・酸い・苦い・塩辛い」である。お好み焼きの材料だけでは酸味が決定的に足りない。マヨネーズは程よくマイルドな酸味を料理に与えてくれる。

そうだ!

先ほどもなにげに豚しそ巻にレモンをかけたら、味わいがものすごく広がった。肉や塩と酸味は相性がいい。肉の成分はタンパク質と脂肪、つまりアミノ酸と脂肪酸である。野菜の旨味はグルタミン酸、肉の旨味は核酸、そして酸味は酢酸やクエン酸。まさに酸が体内で奏でるオーケストラ。とくに酸味は食材の旨味を引き出す作用が強いのだろう。ホタテにレモン、刺身にすだち、ポン酢だってかんきつを使う。つまりお好み焼きのリッチな味わいはマヨネーズ無しではありえないという結論にたどり着く。

ん?

ふと思い出したことがある。子どもの頃、今から40年以上前のことだが、京都から埼玉に引っ越してきたとき、母は昼間は父の会社を手伝い、夕方は駅前のお好み焼き屋で売り子のパートをしていた。それまでもお好み焼きを食べたことはあったが、マヨネーズをかけるのを知ったのは、母があまりものを持って帰ってきた時だった。正直、気持ち悪いと思ったが、食べてみると、そのうまさに驚愕した。ソースとマヨネーズの組み合わせは今でこそ当たり前だが、40年前はまだ斬新だったように思う。

ご相伴にあずかり、再び胃が満タンになってしまった。広島の夜を楽しみますか。

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