塩カルビ焼肉

浜松町駅 焼肉 うし雅 和牛カルビとハラミと希少部位

52歳の誕生日

朝に沖縄を出て、会議を済ませ、明日からの仕事に備える。帰るのは四日後。それまでは一人である。その上、今日は52回目の誕生日だ。出がけに妻がお祝いの言葉をかけてくれたので、個人的には満足だった。確か昨年も一人だった気がした。役員を務める会社の決算が六月のため、八月末は毎年決算書類の作成と税務署への申告でバタバタするのだ。

それを見かねた社長がご馳走してくれると声をかけてくれたので、素直に好意に甘えることにした。なんでも好きなものというが、社長は偏食な上に、治療中の歯を悪くしていて、硬いものが食べられないという。

ならば焼肉だ。以前から行ってみたかった、浜松町の高級焼肉店がある。秘書に予約を取らせると言うので、社長に店の情報を転送した。

30分後、スマホがなった。メッセンジャーだ。社長からだ。

「本日、休み。」

がーん、がーん、がーん。
店がお休みなのが、悪いのだよ。

まるでシャアに裏切られたガルマのごとく、奈落の底に突き落とされた私は意気消沈するしかなかった。代わりの店を探すが、あの店以外に行きたい店などない。何もない。どこにもない。

仕方がない。

適当に駅近くの焼肉屋を選んだ。ここも気になってはいたが、そんなにもエンジンがかかるような店ではない。他に選択肢がない。

無い無い尽くしだチャカポコチャ。久しく歌ってないなあ。それでも私は生きている。今度は予約が取れたのだった。

うし雅(まさ)

3つの会議を終えて社宅に寄った。ベッドに横になったところで意識を無くしたらしい。寝落ちだ。目が覚めたのは18時20分。店の予約は18時半。慌てて店に向かった。

ここだ。

階段の先には和牛のダンジョンが広がるのだろうか。恐る恐る下に進む。

ドアを開けると奥の席に社長と事務員Aが座っていた。すでにハイボールを飲んでいる。秘書はネイルに行ったまま帰ってこないそうだ。私は生ビールを注文。すでに何品かをオーダー済みとのことだった。

メニュー

まずはサラダ。レタスごがメイン。野菜がパリッパリでみずみずしい。チョレギドレッシングではなく、塩ベースやシンプルな味付けが素材の味わいを活かしている。野菜が美味しいと嬉しい。

タン塩

さっと表面を焼き、レモンを絞り掛けてから食べる。タンの旨味が口の中に広がる。カリカリに焼いて食べる人もいるが、私は少しグニュグニュしたくらいの焼き具合が好みである。自宅でも牛タンは焼きすぎ注意だ。けいたまに美味しくないと怒られてしまう。

カルビ

薄くスライスされているにもかかわらず少々歯ごたえのある肉だ。脂ののりもさほどではない。タレにつけて食べる。標準的な焼肉の味だ。キムチがよく合う。ハイボールが進む。

上カルビ

これこれ。和牛は脂を味わうのだ。見た目に素晴らしいサシは、食べても見事なのである。これも焼きすぎ注意だ。表面を強火でさっとカリカリに焼き、中はほんのりピンク色。余計な脂を落として、わさびとタレでいただくのだ。甘い、美味い、香りがいい。官能的ですらある。キムチの辛味がさらに味わいを広げる。これはたまらん。

上ハラミ

脂のノリはそれほどでもないが、しっかりと肉の味を堪能できる部位。これまたキムチとの相性が抜群。牛肉万歳、和牛最高。

「やっぱり脂がのった和牛は最高だよね!」

興奮する私に全員から否定的な言葉を浴びる。

「俺はカリフォルニア牛が好きだな。赤身がいい。鶏モモ頼んで。」と社長。
「私、和牛を食べると脂で胃もたれがひどいんです。」と社長秘書。
「私も気持ち悪くなるので、もう十分です。」と事務員A。

あ?なにそれ?俺の誕生日だってのに、そういう言葉しか言えないわけ?

あー、分かりましたよ、一人で食べますよ。アンタラは鶏モモでも食ってればいいさ。

気がつけば焼き係と化していた自分がいた。この場を仕切っているのは私であった。社長が食べる鶏モモを焼き、指示通りにキムチの皿に突っ込む。鳥キムチか。うーん、どうぞ食べてくだせえ。

希少部位をひとり喰らう

「希少部位、頼まないの?」

社長が私に尋ねた。ええ、頼みますとも、食べますとも。すいません、とも三角ください!

「すいません、本日の希少部位は壁に書いてある通りで…」

店員が申し訳なさそうに説明する。そうなのか、常に全種類を食べられるわけではないのだな。では、本日の希少部位、カイノミと塩カルビ、どちらも食べようではないか!

「あの、私は本気でもういいんで。」と社長秘書。
「私も無理です。」と事務員A。お前ら二人とも、平成直前生まれだろうが?私よりもふた回り近く歳下がそんな体たらくで、日本の未来は大丈夫なのか?

塩カルビの部位はどこかと尋ねると、店員はスマイルで自身のあばらをさすりながら言った。

「この辺りです。」

バラ肉だな。ちなみにカイノミは脇腹の希少部位である。

カイノミ

焼肉にしてはかなりの厚みだ。表面に塩をかけ、じっくりと焼く。焼き面がこんがりとしたら、塩をかけて裏返す。これにワサビをのせていただく。ああ、肉の味と脂の味が見事に混じり合い、ワサビの刺激が旨味を引き出す。シャトーブリアンとは言わないが、これはタレ不要。シンプルに食べるのがいい。

キムチで口の中をさっぱりとさせ、酒で脂を洗い流す。

塩カルビ

これはカイノミと真逆の味わい。柔らかな食感、口の中に広がる脂ととろける肉。これが和牛の実力だ。社長秘書が呆れた顔をして私の食べっぷりを見ている。これすべて俺の肉。誰も文句は言わない。事務員Aは社長秘書とカルビクッパに走っていた。

この軟弱者が!!!

いやあ満足。期待していなかった分、嬉しい。店員の対応もフレンドリーで気持ちがいい。肉も想定外に美味かった。キムチやサラダなどのサイドメニューもなかなかだ。

ご馳走様でした。

焼肉のあとは

すべて食べ終えたところで、ろうそく付きのショートケーキが歌声とともに運ばれてきた。サプライズだ。これは単純に嬉しい。

「食べれないものってあるんですか?」

社長秘書が尋ねてきた。チョコレートだよ。

「ああ、よかった!チョコレートケーキだったら食べれなかったんですね?」

そうなんだよ。毎年、バレンタインデーは迷惑してるんだよ。だから、くれるならチョコ以外でお願いね。できれば炭水化物もやめて欲しい。え?面倒くさい?ごめんねごめんね〜。

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