六文そば
朝から飛行機が四十分も遅れたせいで、機内食はモーニングであった上にランチを食べ損ねた。浜松町に着いたのは十四時半を過ぎていた。
どこもランチやってない。
開いているのは立ち食いそばとファストフードのみだ。一瞬、嵯峨谷が頭をよぎったが止めた。私とは相性の悪い店だ。三度も通って検証済みだ。
うーん。
富士そばと小諸そばはなあ。でも、ゆで太郎は遠いなあ。カバンを引きずりながら第一京浜を歩く私の前に現れたのは、六文そば。
この手があったか。
メニュー
いわゆる、昔ながらの立ち食いそばだ。天ぷらは揚げたてだ。うん、しばらく食べていない。ここにしよう。
店に入ると、客はいない。店主が一人。 さて、何を食べようか。
「かき揚げしかありませんがよろしいですか。」
ぶっきらぼうに店主が告げる。構わんよ。かき揚げそばを生卵付きでオーダーする。380円は現金前払いだ。水はセルフ。立ち食いそばの定石だ。
かき揚げ天月見そば
すぐに出てきた、これこれ。
そばはコシが…ある。以前よりはある。ブツブツ切れるそばではない。香りはあまりない。かき揚げは温かくはないがカリカリ。醤油のきいた蕎麦つゆに七味を入れる。薬味のネギは厚みがバラバラ。やたら太いのまである。これは辛味がアクセントなのだろうか。ワザとこのようにしているのだろうか。ミスター味っ子にも玉ねぎのみじん切りを意図的に粗く切らせて、多様な食感を楽しませるという話があったと記憶している。
思ったより具沢山のかき揚げは、衣少なめ。場所によっては衣がお好み焼きのようになっている。玉ねぎは甘いのと辛いのが混じっている。明らかに火が通りきっていない。
うん、ここの立ち食い蕎麦はバランスがいい。卵の黄身を吸い込み、ツユを飲み干して完食。
ごちそうさま
一人の客が来店した。店主が告げる。
「天ぷら、無いんです。」
客はそのまま身をひるがえし、雑踏に消えた。私がラスト天ぷらだったのか。ギリギリセーフだ。一歩間違えれば、彼のように立ち食いそばにすらありつけない、惨めな立場に置かれていたかもしれないのだ。すべては巨大企業、全日空によって仕組まれた罠なのだ。
店主、ナスとちくわの天ぷらをゆっくりと揚げ出す。蕎麦までは手が回らないのだな。私はラッキーだった。
さて、会社に行くとしよう。
数年前に五十路となったバツイチ男性。昨日は沖縄、今日は北海道、明日は四国…出張三昧の日々、三年間で制覇した店は千店舗を超えた。日本全国及び海外での食事を記録したブログである。五十路とは本来「五十歳」を意味するが、現代社会では「50代」と誤った認識が定着している。それにあやかりブログのタイトルを名付けた。(詳しく読む…)