かつお餃子との出会い
週末だというのに人通りはほとんどない。夕食はお座敷での宴会だったのだが、その席であまり食べなかったこともあり、猛烈な空腹感に襲われていた。目に入ったのは、暗がりにポツンと明りが灯るラーメン店。私はまるで街灯に吸い寄せられる蛾のようにラーメン店に近づくと、迷わず暖簾をくぐった。
カウンターに座り、店内の壁に目をやると、「かつおぎょうざ」の文字があった。「まぐろぎょうざ」もある。
ここは焼津だから「かつおぎょうざ」を頼んだ。数分して出されたそれは、見た目はいたって普通だ。醤油と酢とラー油を小皿に注ぎ、食べてみる。うまい。普通にうまい。魚の味もかつおの匂いもしない。不安になった私は店主に聞いた。
「これは何の餃子ですか?」
「かつおぎょうざだよ。」
そうだろう。私はかつおぎょうざを注文したのだから。
まぐろ餃子のほうがうまいらしい
店を出てホテルに戻ると、エレベーターの前で知り合いとばったり会った。
「もう一軒、呑みに行かないか?」
「いいね、行こうよ」
二人でホテルの周りを歩く。飲み屋の看板が3つほど出ている小さなビルがあった。なんとなく2階の店に入った。そこは少し広くて、天井が高い薄暗い店内のスナックだった。一人の若い女性が席についた。ぎょうざの話をすると彼女は「まぐろぎょうざの方がおいしいですよ。」とくったくのない笑顔で教えてくれた。しまった。心残りができてしまった。
翌日の晩、私は知人ら数名と焼津駅前を歩いた。またも飲み屋を探していた。私はかつおぎょうざの話をする。
「そんなの、美味いわけない!」
一人が言った。ああ、彼は宇都宮の人間だった。餃子は却下され、隣のおでん屋に入った。しかし私はしつこく食い下がった。地元の女性がまぐろぎょうざの方が美味いというんだ。確かめられずにいられるか。
呑んでるうちにおでんでは物足りなくなったのか、ラーメン屋に行くことになった。
まぐろ餃子を食べ較べ
「ぎょうざ三種類頼んじゃえよ!」
店内に入り、テーブルに座ったとたん、宇都宮の男が言った。いいアイデアだ。我々は3種類の餃子を2人前ずつ頼んだ。だが、出てきた餃子の見た目には違いがわからない。
まぐろぎょうざに箸をつける。美味い。普通に美味い!続いてかつおぎょうざ、これは昨日確かめたはず…なのに、違う。かつおの匂いがする。まぐろの後にかつおを食べるのは、刺身でも順番が逆だ。まぐろぎょうざ、確かに美味いよ。嘘じゃなかった。宇都宮の男に聞く。
「まぐろぎょうざ、美味くないか?」
「これ、美味いな!」
だろ?うまいだろ?しかし、みんな、よくがラーメン食えるな。腹いっぱいじゃなかったのか?
胃も心も満足だ、これで心残りなく焼津を後にできる。ぜひ、焼津に来たら「まぐろぎょうざ」と「かつおぎょうざ」を食べてみてほしい。
『和味亭』JR焼津駅より徒歩2分
住所:静岡県焼津市栄町1-2-2
電話:054-628-3030
数年前に五十路となったバツイチ男性。昨日は沖縄、今日は北海道、明日は四国…出張三昧の日々、三年間で制覇した店は千店舗を超えた。日本全国及び海外での食事を記録したブログである。五十路とは本来「五十歳」を意味するが、現代社会では「50代」と誤った認識が定着している。それにあやかりブログのタイトルを名付けた。(詳しく読む…)