牛すじ肉辛味麺

スパイスの香りに誘われて 〜港区芝大門 郷村居〜

大門でランチを食べる

東京支店に顔を出した後、大門で所用を済ますと昼過ぎになっていた。今日のランチは何を食べようかと考えていたらスパイスのいい香りがしてきた。

「ああ、中華って感じですね〜」

すれ違いざまに男性二人組の会話が耳に入る。店の外の看板を見ると四川料理らしい。今日はこれだ。なんていう店だ?入口に店名が見当たらない。ふと上を見上げると小さな丸い看板があるのに気づく。

郷村居

中華料理店らしからぬおしゃれな店構え。窓には行列の並び方まで書いてある。なかなかな心配りというか、この店は人が並ぶのかと驚きもあり、ドアを開けた。二人がけのテーブルに通される。店内を見回すと女性客が多い。内装もBGMもカフェのようだ。

ランチメニューを渡される。選択肢は5つらしい。

「春キャベツと豚ばら肉のピリ辛甘味噌炒め汁そば」

ホイコーロー(回鍋肉)の汁そばなのか。中国語では「日式熱鍋肉湯麺」と書かれている。「日式」とは和風もしくは日本式という意味だ。

10年ほど前だろうか、テレビ東京で「貧乏脱出大作戦」という番組があった。好きでよく観ていた。あるとき、客が入らない中華料理店の店主が達人に弟子入りし、回鍋肉の意味を聞かれた。店主は答えた。

「鍋を回すからですよね。」

中華の炒め物はだいたい鍋を回すもんじゃないか?と思わずテレビにツッコんでしまった。

中国語で「回」は「戻す、帰る」という意味。「帰宅する」は「回家」だ。中華鍋でお湯を沸かして三枚肉の塊をゆで、鍋から出して冷ましてから包丁で薄切りにする。それを熱した中華鍋でキャベツと炒める。鍋でゆでた肉を鍋に戻すから「回鍋肉」なのだ。

対して日本では回鍋肉に豚バラ肉のスライスを使う。中国人が日本で回鍋肉を食べて「脂がきつい」というのは作り方が違うからだ。だから「日式」と書いてあるのだろうか。

中華料理は和食である

日本人は中国料理と思っているが、中国人は日本食だと言う料理がいくつかある。代表格がラーメンと坦々麺だ。ラーメンのスープはなにから出汁を取るか?カツオ節、昆布、野菜、鳥ガラ、豚骨が代表だろう。だが中国にはカツオ節がない。中国人は昆布をゆでて食べるがゆで汁は捨てる。日本人はゆで汁を出汁として使うが昆布は捨てる。沖縄人は両方使う。だから中華の技法に昆布出汁はない。

麺料理にしても日本のラーメンはスープに入っているのが当たり前だが中国ではこれをわざわざ「湯麺」という。「湯」は中国語ではスープの意味。日本語の「お湯」は中国語で「熱水」である。だから日本語を知らない中国人が銭湯で「女湯」という文字を見れば、恐ろしい想像をすることになる。

そもそも中国の麺料理は麺と具材を和えたり、もしくは中華鍋で炒めた具材にお湯を入れそのまま麺をゆでたりする。もしくは麺をゆで汁ごとどんぶりに入れて濃いめに味付けした料理を載せて食べる。

中国の麺は見た目は日本のうどんと似ているが塩を使わない。うどんの塩はゆで汁に溶け出すのでうどん自体はしょっぱくならないが、中華では麺をゆで汁ごと使ったり料理と一緒に煮込むから、うどんを使うとしょっぱくなってしまう。中国の麺が日本のうどんのようにコシがないのは塩を使わないためだ。

「中華料理」とは中国料理を日本人が食べやすいように味を変えたものだ。天津飯も冷やし中華もかに玉も中華料理であって中国人には馴染みがない。天津飯は七龍珠(ドラゴンボールのこと)の登場人物でしかない。

汁無し坦々麺。中国語で「正宗坦々麺」と書いてある。「正宗」は「正統」を意味する。料理では「本場」「元祖」「昔ながらの」くらいの意味だ。担々麺も肉みそと和えて食べる麺だから汁無しなのは当たり前。中国人から見れば日本の担々麺は担々麺ではないのだ。

「四川定番麺料理!牛すじ肉辛味麺」

中国で定番の牛肉麺は「紅焼牛肉麺」である。醤油味だ。しかし四川である。中国語では「郷村牛肉麺」と書かれている。当然「麻辣」だろう。これに決めた。もちろんパクチー多め。

店内を改めて見回すと女性客が多い。しかも一人客が多いようだ。明るい店内は中華料理店の要素を何一つ感じない。

牛すじ肉辛味麺

さあ、お楽しみの登場だ。見た目は合格。スープをすする。辛さはなかなか。花山椒もしっかり効いている。しかも深いコクがある。美味い!麺は中太のストレート。十分にスープが絡む。肉は牛スジというよりスネ肉か。柔らかくなるまで煮込まれていて、味もしっかりしている。これは当たりだ!

食べながら唐辛子をドンブリから取り出してみる。これだけの量が入っていれば辛さがなかなかなのも頷ける。

これは会社の激辛マニアの原田さんも食べたがるに違いない。楽しみが一つ増えたようで、つい嬉しくなったのだった。

郷村居(食べログ)

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