とんかつ 梅吉
とある団体の総会に参加するために、各務原市民会館に来た。総会は14時半からだ。現在時刻は13時45分。これなら飯が食えるか。会館の周りを歩く。目に入った一軒の店。この時間ならガラガラだろうと店のドアをガラガラと開けた目の前に広がる光景。
スーツを着た感じ悪い輩で満席だ。昼間から酒をかっくらっておる。幸いにも、知り合いはいないようだ。
メニュー
とりあえず、カウンターに座る。さて、なにを食べようか。ランチは味噌カツ、ソースカツ、カツ丼の三択だ。ここは美濃、味噌カツ文化の地だから、やはり味噌カツを食べるべきだろう。
しかし、お座敷は満席だ。ひっきりなしにトンカツをマシンのようにあげる店主。オーダーを切り盛りするおかみさん。それを助ける娘さんといった店員構成だろうか。この満席は想定外のパニックのようだ。奥さんのオーダーに店主はたびたびキレていた。カウンターの奥にもお座敷があるようだ。中から知った顔が出てきた。下谷さんだ。
「1時間半待ったけど、出てこない!時間だからキャンセル!」
そう言って、彼は店を出ていった。ええ?そんなに待って食べれなかったの?では入ったばかりの私は食べられるのか?不安になり、おかみさんにたずねると「すぐに出ますから。」との回答だった。ここは信じるしかない。すでに時計は14時を指していた。
店主が揚げるトンカツを眺めていてふと気づく。揚げ置きのトンカツがあるのに、なぜ新しいものを揚げているのだろうか。何か目的があるのか。店主がおもむろに雪平鍋を火にかけ始めた。カツ丼を作るようである。なるほど、カツ丼用に冷ましていたのか。
「カツ丼、キャンセル!」
お座敷からおかみさんの声が響く。店主、再びイラつき始める。カツ丼って雪平鍋で作れるものか?そうじゃない、私のトンカツはいつになったら出てくるのだ?
みそかつランチ
お、新しいトンカツを揚げ始めた。きっとこれが私のものに違いない。おかみさんがカウンターに戻ってくる。私に向かって、
「今、出ますからね。」
と、声をかけると店主になにやら指示をした。揚げたてのトンカツはどんどん皿に盛られ、カウンターから消えて行く。そうして、ついに私のトンカツが運ばれてきた。14時10分。5分で食え。
味噌汁以外が目の前に置かれた。キャベツから食べる。シソノンオイルドレッシングがかかっている。さて、トンカツだ。サクッと…あ?
冷たい。
揚げたてのトンカツはじゃないのか?あ、あれか。揚げ置きのトンカツだ。カツ丼用じゃなかったの?20分以上、放置されたやつだよ。いやー、よく冷えて美味しい。ワケがあるか?!
時間差で味噌汁とつけもの、冷ややっこが出てきた。どうせとんかつが冷え切ってるんだから、一緒に出してくれればいいのに。
やっぱ、トンカツは辛口の調味料がいい。味噌は合わない。冷たいとなおさら。
14時15分。所要時間は5分だ。
二度と来ない。いや、きっと普段の静かな日ならこんな目には遭わないのだ。空いてると考えた自分の判断ミスだ。下谷さんなんて食べれなかったんだから、私の方がマシだ。
でも、この場所に来る機会は二度とないだろうな。
数年前に五十路となったバツイチ男性。昨日は沖縄、今日は北海道、明日は四国…出張三昧の日々、三年間で制覇した店は千店舗を超えた。日本全国及び海外での食事を記録したブログである。五十路とは本来「五十歳」を意味するが、現代社会では「50代」と誤った認識が定着している。それにあやかりブログのタイトルを名付けた。(詳しく読む…)