四年ぶりのうなぎ 康生
岐阜県可児市と聞いて、私が思い浮かべるのは二つ。一つはうなぎ。もう一つはスナックのお姉さんに入れ込んで、二人で駆け落ちまでして、会社も家も家族も失った娘婿の山川さん。私と歳がそんなに変わらないと思ったが、行動派だな。そういや、去年、岐阜で見かけたっけ。元気そうだった。
それは置いといて、四年前にこの地を訪れた時に、たまたま入った店で食べた鰻が美味かったのを覚えている。その店には美しい日本庭園があって、景色を楽しみながら食事ができる、静かな店だった。
店名は覚えていない。
しかし、小さな街だ。今はネットもあるから、店はすぐに特定できた。「料亭 うなぎ 康生」だ。ホテルをチェックアウトすると、フロントに荷物を預けて、店まで歩く。そろそろ四月下旬になるのか。陽射しが強い。商店街と住宅街を突っ切ると目的地に着いた。店に入ると離れの席に案内される。ああ、ここだ。四年前もここで食べた。
メニュー
さて、何を食べようか。メニューを見る。うな重5300円。居酒屋で飲むよりも高額だ。ふむ。そういえば、レジのところにうなぎ高騰のお知らせが貼られてたな。
「異文化に義理と人情を求めることは不可能です。」
その通り。まさにグローバル化だ。銭や!世の中、金じゃああああ!というか、大陸系の人は後先考えずに、今だけを考えて商売する。
そうか。ならば、うな丼にするかな…うーん。前回来た時は何を食べたのだろうか。
お、飛騨牛・炭火焼ちらしまぶし丼?美味そうじゃないか。しかも2400円。いや、私は鰻を食べに来たのだ。ブレてはならないって…あれ、要予約じゃん。食えないじゃん。やっぱ鰻だ。滅多に来る店じゃないんだから、ここは最高峰のうな重を食べるのだ。
中庭の眺め
注文を済ませて、一息つく。綺麗に磨かれた窓から見える日本庭園が美しい。平日の、しかも早い時間に来たので、他に客もいない。貸切だ。ジャズが流れるゆったりとした空間でまったりとくつろぐ。
至福だ。
加えて鰻だ。なんて贅沢なのだ。
せっかくなので部屋から出て庭園を見る。炭火とうなぎの香ばしい匂いが漂ってける。ミスマッチにも思える、太陽に照らされた美しい光景とうなぎの香り。いやいや、がぜん食欲が湧くというものだ。ふふふふ、ハハハハ、わーっはっはっはと、ドラマのように笑いたくもなるというものだ。
しませんけど。やれば速攻で警察呼ばれまっせ。
トイレは少し離れた場所にある。温水洗浄便座だ。場所が分からなければ、スタッフが丁寧に教えてくれるので、安心なのだ。
鰻重
注文してから20分が経った頃、ゴトゴトという音とともに、女性スタッフが、私のうな重を乗せたワゴンを押しながら部屋に入ってきた。机の前に停めると、丁寧に私の前に置いてくれた。
「熱いので気をつけてください。」
うむ。承知した。
早速、お重のフタをとる。うむ。見た目ですでに美味そうだ。ヤバイ感じだ。脂がのったニホンウナギのわがままボディーが食欲を刺激する。女性の裸を見ても、大してなにも刺激されない年頃にさしかかってしまったが、やはり食い物は偉大だ。
実食だ。うなぎにハシを入れる。米と一緒にすくい上げる。こいつを口に入れる。
うほう!かりふわの熱々。そうだよね、国産うなぎの皮はこうだよね。薄くて邪魔にならない。カリカリで美味い。タレは甘めで少しこってりしている。
そうだ、山椒をかけねば。たっぷりと振りかける。たっぷりと脂がのったうなぎをガッツリと食べる。ああ、なんとも言えぬ官能的な味わい。まさにうなぎ、ご飯、タレのマリアージュなんだ。え?マリアージュは結婚だから、三人ではできないって?何を言うか。三位一体、ゴッドマーズ、違う、ゲッターロボなのだよ。陸海空そろってダイラガーなのだよ!ええ?古すぎて分からないだと?ならば言ってやろう、アクエリオンなのだと。
肝吸いは上品でいい箸休めだ。大根の甘酢漬けも酸っぱさ控えめ甘さも控えめ、さっぱり味だ。漬物でなくても合うのだなと実感する。
糸満のうなぎとは全然違う。けいたまにも妻にも食べさせたい。食うべし、食うべし!かりふわ最高。なのだが、至福の時間は儚くて。ついに来てしまった。
次の一口が我らの最後の鰻となろう。
天に滅っせい、ケンシロウ!
完食だ。
我が人生に一片の喰い無し!
料亭 うなぎ 康生
数年前に五十路となったバツイチ男性。昨日は沖縄、今日は北海道、明日は四国…出張三昧の日々、三年間で制覇した店は千店舗を超えた。日本全国及び海外での食事を記録したブログである。五十路とは本来「五十歳」を意味するが、現代社会では「50代」と誤った認識が定着している。それにあやかりブログのタイトルを名付けた。(詳しく読む…)