福岡空港ランチ
出雲縁結び空港から福岡空港を経由しての那覇までの旅。乗り継ぎ時間はおよそ三時間である。12時半に到着し、15時45分の那覇行きに乗るためだ。これだけ時間があくとムダな気もするが、そんなことはない。ゆっくりとランチを食べることができる。
福岡空港は工事中で、訪れるたびに新しい店がオープンしている気がする。今回は三階の飲食店街を初めて訪れた。二十四軒もの店が一気に増えたのだ。ここからラーメンとトンカツを除外すれば、店は半減してしまうが、飲食街を回って食指が伸びた店に入れば済む話である。
さて、何を食べようか。
まず気になったのはグルメ風月ステーキハウス。あちこちの空港で飲食店を展開しているのか。那覇空港にも風月がある。
ランプステーキランチにハンバーグステーキランチ。美味そうなのだが、食指が動かない。夕食が魚介類なのでランチでは肉を食べたいが、トンカツやハンバーグは食べたくない。きっと今の私の体が求めていないのだろう。
ラーメン滑走路は却下なのである。特に弟子屈ラーメンは北海道で食べればいいのだ。ススキノで一蘭を食べるような真似はしたくないのだ。他の店もあまり変わらない。洋食もいいのだが、オムライスは最近も食べた。カレーは昨晩食べた。
そこに現れたのは瓦そば。こいつは牛肉だ。だが、先ほども出雲そばを食べたばかりだ。茶蕎麦と蕎麦は別物だという主張も分からぬではないが、それはチャーハンを食べた後にピラフを食べるようなものである。冷やし中華を食べた後にまぜそばを食べるようなものである。
こんなことが許されていいのか。否、ダメだろう。育ち盛りじゃあるまいし、炭水化物中心の食生活が五十路の体にいいわけがない。
ならば、何を食えというのか?
もつ鍋おおやま 福岡空港店
先の見えぬ、五里霧中の未来に打ちひしがれそうになった私の眼前に現れた救いの手は、もつ鍋定食。そうだ、これだ。
まさに天啓。
野菜中心のヘルシーな食事。しかもここは福岡、モツ鍋の本場である。これを食べずして、何を食えというのか。
なになに、食事には30分から45分を要すると解説がある。気が利いてるな。しかし、ご心配は無用だ。乗り継ぎ時間は三時間。時間的余裕はたっぷりとある。優雅に一人モツ鍋といこうではないか。
店内に入るとおひとりさま用のテーブルに案内された。壁際にはウェルカムメッセージと従業員の似顔絵が描いてある。絵心のあるスタッフの力作だろうか。
なるほど、従業員のうち、少なくとも三人は中国人だな。しかし、熊という名字は中国にあっただろうか。気になって調べてみると、中国では71番目に多い姓とのことだ。ちなみに熊本を中国語で発音すると「しょんべん」になることは、日本ではあまり知られていない。くまモンは中国語では「熊本熊(しょんべんしょん)」であり、ジョン・ベンソンと間違われないのか心配である。
注文はもちろん、モツ鍋定食、みそ味にご飯である。ご飯は大盛りにできますと言われてのだが、ついついふつうを指定した。後で後悔するとも知らずにいた、おバカな私。醤油でちゃんぽん麺ではないのだ。米が食いたいのである。なら大盛りにすればいいだろうに、言行不一致とはこのことだ。
モツ鍋定食 みそ味
ものの数分で定食が運ばれてきた。IHヒーターのスイッチが入り、煮立つまでは傍観していろとスタッフから指示をされる。言われた通り、その瞬間(とき)が来るまでを待つまでだ。
数分後、鍋は猛烈な勢いで煮立ち始めた。すごい。泡立ったスープが津波のように鍋の素材に覆いかぶさり、飲み込んでいく。まるでスライムだ。お前はリムルかなのか?そうなのか?人間、ヒマな上に空腹だと、どうも思考が乱れるようだ。
モツ鍋定食
野菜に火が通ったところで火を弱める。とんすいに鍋の中身を取り分ける。うーん、にんにく香るスープが鼻をくすぐる、口の中に広がっていく。柔らかく煮込まれた野菜にも、ほどよく染みている。これだけでもご飯のおかずになる。モツは甘くて柔らかい。臭みない。噛めば噛むほど旨味が溢れてくるのをご飯が受け止める。
おきゅうとは太めのところてん?ポン酢とネギが爽やかだ。青ネギだけでは物足りない刺激を玉ねぎがサポートする。舌触り滑らかでプルプル熱々の豆腐がいい。
猛烈に明太子が食べたくなる。箸で大きくちぎり、ご飯にのせる。口の中に広がるタラコの風味と唐辛子の辛味。たまらん。
高菜は辛さ控えめだ。あまり興味がない。個人的にはなくてもいいが、この修羅の国、福岡では許されることではないのだろう。
ご飯が足らない。大盛りにしておくべきだったか。
もつ焼きはモツを焼いて食べる。モツ炒めはモツを炒めたものである。沖縄の中身汁もメインは豚モツだ。対してモツ鍋は鍋の中にゴロゴロと大量のモツが入っているわけではない。飽きない程度に、もう少し食べたいと思わせるくらいの絶妙な分量だ。
では、何がメインなのか。
野菜である。モツ鍋は大量の野菜を持つとともに食べるヘルシーな料理なのである。甘口のスープで子供でも食べられる。だからこそ明太子が食べたくなるのだろう。
食べ終えて時計を見ると、入店してから30分が経っていた。看板に偽り無し。もつ鍋の新しい一面を再認識させられた。何度かもつ鍋のスープを土産に買って帰ったのだが、一度も料理できたことがない。常に賞味期限が切れてしまう。今度こそは、家族にもつ鍋を食べさせようと誓うのであった。
数年前に五十路となったバツイチ男性。昨日は沖縄、今日は北海道、明日は四国…出張三昧の日々、三年間で制覇した店は千店舗を超えた。日本全国及び海外での食事を記録したブログである。五十路とは本来「五十歳」を意味するが、現代社会では「50代」と誤った認識が定着している。それにあやかりブログのタイトルを名付けた。(詳しく読む…)